第3話「メモの余白に、君の声」(水曜日)


会議室の静けさの中に浮かぶ、詩と声の響き。ふたりだけが共有した言葉の余白をご覧ください




水曜日。


会議室のホワイトボードに、次々と書き込まれていく数字と言葉。




広報部のリンコは、隅の席でメモを取りながら、ぼんやりと先輩の声に耳を傾けていた。


企画部の先輩が、週末イベントの進行について話している。




「ターゲット層の反応を拾いつつ、現場からのフィードバックは即時反映で——」




その声はいつも通り淡々としてるのに、どこか響きが心地よくて。


リンコは、自分のノートの端にふと書き足した。




> “声って、音以上の情報なんだね”




会議が終わり、資料を片づけながら先輩がふとリンコのノートを見て言った。




「…それ、詩? 俺の声、ネタにされてるのか?」




リンコは慌ててページを隠しながら笑った。




「ネタっていうか…インスピレーションってやつですよ、先輩の声って、“響き系”なんで」




「響き系って何」


少し眉をしかめた先輩の顔に、リンコはいたずらっぽく微笑む。




「意味より、残る感じ?…ほら、振り返ったとき思い出しちゃうみたいな」




先輩は一瞬言葉に詰まり、それから静かに言った。




「それ、ちょっとだけ嬉しいかもな」




外は少し曇り空。


会議室を出るふたりの後ろに、ガラス越しの空模様がそっと寄り添っていた。




ノートの余白にはまだ言葉が足りない。


だけど、“その続きを書いていい”って思える水曜日だった。


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