「想いを力に」 "Perfect System"

Akikundayo

"Power of Anger

第1話 起動

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(表紙絵)



――――戦闘が始まる。



 1立方センチメートルあたり、たった数個の水素原子しかない超高度真空の中で、空間戦闘デバイス「テルラヴェス・コルバス」は停滞状態だった反物質アンチマタージェネレーターの出力を静かに上げ始めた。


自身を中心に直径数万キロメートルの空間に散布していたドローン群、空間偵察および誘導軌道システム(Astro Reconnaissance and Guidance Unit System)、通称ARGUSアルゴスが、真っすぐ接近してくる物体を捉えたからだ。




第501前衛機動小隊は三機編成の空間戦闘デバイスTC-77"テルラヴェス・コルバス"、およびそれらの補給及び情報支援を担うK-12人工知能戦術戦闘指揮ユニット、そしてアルゴス百目巨人の目たる多数の小型索敵ドローンで構成されている。


課せられた任務は太陽圏界面ヘリオポーズへ侵入してくる敵性存在の探知とその排除だった。




テルラヴェス・コルバスの反物質ジェネレーターが対消滅反応を開始し、唸るような音を出しながら機関出力を上昇させてゆく。




ジェネレーターのすぐ後部、テルラヴェス・コルバスで最も堅牢に作られた場所にはパイロットを強固に守るコックピットシェル操縦殻がジェネレーターと同一のフレーム内部に設置されていた。


シェルの内部に満たされた微小機械流体群トポリキッドは機関部の出力上昇と同時に強靭な繊維質へと相転移トポロジー転換し、それまで液体の中で揺蕩っていた、一見すると華奢きゃしゃに見える身体つきのパイロットを、座席に括り付けるように固定した。



長期索敵任務は、パイロットに多大なストレスをもたらす。


長大な拘束時間に伴う負担を軽減するため、パイロットたちは半覚醒状態に置かれた上で、僚機パイロットとK-12戦術戦闘指揮ユニットを中心とした同一のVRネットワークに接続されていたが、戦闘準備に伴い自動的にネットワークからのログアウト処理が行われた。


パイロットを完全停滞状態にしないのは覚醒状態に戻すまで時間がかかり、不測の事態に即時対応ができないためだ。


また脳の動作速度を落とすことで、ネットワークの光速度遅延ラグの影響を低減させることができる。


広大な宇宙空間でリアルタイム通信を確立するに光速は遅すぎるのだ。




トポリキッドが第二頸椎の中心に設けられた接続部へ、亜麻色の髪の毛をかき分けるようにに流れこみ、ケーブル状へと姿を変えた。


脳と機体が有線接続ハードワイヤードされたことで、それらは個別の存在から統一された戦闘情報体系コンバット・インフォマティカへと昇華する。


ARGUSアルゴスから送られてきた情報は、機体の戦術戦闘知性タクティーが解析し、パイロットの脳内に拡張設置された戦術野に展開され、眼前にある複数のモニターが光を灯ともす。


TC-77、テルラヴェス・コルバスのパイロット、認証番号MLS570870〈アガワ・サキ〉は戦闘準備シーケンスを開始した。

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