「強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された最強の追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす

どうやら私が強すぎたらしい

「貴族令嬢とはか弱く、可憐であるべきだ」


 これは幼い頃、継母から何度も聞いてきた『教え』だ。


 ごめんなさい、お母様。

 私は約束を守れそうにありません。





 人間が治めるヴァルニア帝国の都。

 その中央にある王城には、シャンデリアの光に照らされた大広間があった。


 喧騒に包まれる広間の中で、私はただ一人。現実世界から切り離されたような心地がした。


 女神像の前で婚約者である皇太子アレンは高らかに告げる。

 

「レージュ、お前のような女のくせに強すぎて可愛げがない女と結ばれるつもりは無い。僕はイゼルマと婚約する」


 アレンの宣言が響き渡った途端――様子を見物していた紳士淑女がざわめき始める。


 人々の言葉がレージュの耳に届くことはなかったが、きっと貴族にふさわしい丁寧な言葉で罵詈雑言を囁いているのだろう。


「アレン、もしかしたら、この子。天から授かった魔法の才を使って私たちに復讐してくるかもしれないわ」


 そう言いながらアレンに縋り付く金髪、碧眼の少女は継母の連れ子であるイゼルマである。


 様々な黒魔法を使ってアレンを誑かしたくせに、今はまるで初めから自分が彼の婚約者であったかのように得意げな顔で笑っている。


 忌々しかった。悔しかった。あの女が憎たらしい。だけど、今のレージュに抵抗する気力など残っていない。


「レージュ、貴様を国外追放処分とする」


「承知致しました」


「あはは、二度と僕の前に姿を見せるな!」


 アレンは笑顔で高笑いをした。

 顔は笑っているのにどこか冷たい。

 だって、彼の表情、所作、心まで全てイゼルマに操られているのだから。


***



 冬の雨は鋭く冷たい。

 もし傘が無ければ今頃、体温が奪われ切って倒れていたであろう。

 高価なスカートの裾は泥にまみれて、茶色に染まっていた。


 あぁ、だんだん意識が遠のいてきた。


 私死ぬのかな?


 でも、どうなってもいいや。


 ここで命尽きたっていい。



 今思えば絶望しかない人生であった。


 幼い時は幸せだった。

 伯爵令嬢として産まれた私はなにも不自由なく育った。


 絶望の淵に立たされたのは、聖女に選ばれた七歳のときだ。


 成長しているうちに、いつのまにか膨大な量に膨れ上がっていた魔力を買われて聖女に選ばれたのだ。


 無理やり王城に連れていかれたレージュは魔力を毎日のように奪われ続けた。


 日によっては、魔力を吸われすぎて体調を崩してしまったときもある。


 そこまでして神官どもがレージュから魔力を奪おうとしていた理由が、対魔族用の兵器を動かすリソースであったことを知ったのは十七歳の時であった。


 毎日苦しくて、逃げたくて仕方がなかった。


 ただ、それでもレージュが王城から脱走しなかったのは、婚約者であるアレンが居たからだ。


 アレンは毎日苦しむレージュを労り、慈しみ、大切に扱ってくれた。


「国民のために骨を粉にして聖女として働いている君は美しい」


「魔力が人より多いからってどうした? もし君に魔力があろうがなかろうが僕は君を愛するよ」


 彼の慰めがあったからこそ、レージュは毎日魔力を捧げることができた。欠かさず女神へお祈りをして、人々の幸せを願うことができたのだ。


 結婚した日には自由を約束してくれるとまで言ってくれたのに。


 全ては義妹であるイゼルマによって奪われてしまったのだ。

 イゼルマはアレンを唆して、レージュが追放処分されるように仕向けた。


「この俺がおまえのような強すぎる女のことを本気で愛しているのかと思っていたのか?」


「女らしく慎ましくしていゃあいいんだよ」


 胸が苦しくて、苦しくて、涙が止まらない。


 どうして、貴方はそんなことを言う人ではなかったのに。


 もしかして私は利用されていただけ?


「はっ、くちゅ!」


 レージュが寒さのあまりクシャミをすると、遠い方から足音が近づいてきた。


「酷い顔だな」


 今まで伏せていた顔を上げる。

 すると、そこには見目麗しい魔法使いだと思われる青年が立っていた。


 質の良い白いシャツの上には、星座が刺繍されたマントが乗っている。髪は白で、所々紺色の髪が混ざっていた。

 白い耳には金色の髪飾りがつけられている。


 服装や、高価そうな傘をさしているあたりから察するに、相当裕福な家の出身であろう。


「お前さ、人生に絶望しているような顔をしているな」


「えぇ……私は用済みですから」


「もしかして自分には価値が無いなんて思ってる?」


「はい……」


 青年は「へぇー」と呟きながらニンマリと笑う。


 この人はどうしてこんなに自身に満ちた表情出笑っているのだろう?

 レージュには理解できなかった。

 薄汚い私を見て心底愉快なのだろうか?


「僕のツガイが、ここまでぶっ飛んだ魔力持ちとはね」


「ツガイとはなんでしょうか?」


「ま、人間で言うところの夫婦みたいなものかな」


 夫婦よりも、もっと深い関係だけどさ。


「私は昨日、婚約破棄されたばっかりです。そんな私を妻にだなんて……」


「なるほど。婚約破棄されたということは……もう誰のモノでもないよね」


 強い風が吹き、青年はレージュの背中と膝に手を回し抱えあげた。

 驚いて目を閉じたレージュが、再び目を開けたとき目にしたのは……。


「魔族……?」


 背中から生える白銀の翼に、尖った耳。

 間違いない彼は正真正銘の魔族だ。


 彼と目が合った瞬間に確信する。



――この人は『運命』だと。



 理由は分からない。



 どうしてなのか分からないが、私にとってこの人は必要不可欠なのだと一目で確信できた。



「その命。要らないなら俺にくれよ」


「貴方は……?」


「俺はダーレン。魔界から追放された皇子だ」

 

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