銀河転生機 セイリオス

大守アロイ

1.アニメじゃない!アニメじゃない!ホントのことさ!


 

 目が覚めると俺の身体は全身銀色で、硬い装甲に覆われたロボットになっていた。アニメじゃない。ザムザでもない。


 我が目前に広がるは、漆黒の宇宙。

 

 はて。ついさっきまで、ゲリラ豪雨の中で畑を目指して自転車を漕いでいたはずなのに……急に自転車が、何かの穴に落ちてからの記憶がない。



「どうしたらよいの? わたくしは、自爆しないといけないの? 生き残れって、父上に言われたのに……!」



 その俺の中ーーコクピットで、真っ白なドレス姿の少女が泣いていた。

 白い肌の彼女は泣きじゃくっているばかりだった。長く淡い金髪と、紫色の瞳からこぼれた涙が、無重力で浮いて漂う。

 けたたましく鳴るロックオンのアラートにも、彼女は耳を閉ざす。


 宇宙を背景にして鈍い灰色のロボットが、二機編隊でこちらへ近づいてきているのが見える。交戦距離まであと5000m……とディスプレイに表示されている。


 この二機は敵らしい。武装、武装は無いのか。俺はディスプレイを操作して、武装欄を見つけた。ビームライフルにビームサーベル、バルカン……子どもの頃にハマった『ガンダム』そのものだ。俺は少女へ叫ぶ。



「撃て! 敵がそこにいる!」



 俺の声にびくっと肩を震わせて、少女は顔を上げた。



「セイリオスが、喋ってる?」



「座席のヘッドレストの横に、照準器が格納されている! それを使ってくれ!」 



 セイリオスというのが、この機体の名前らしい。ロックオンされた敵機の名は、オブレドア強行偵察型。アライアンス植民軍の主力機。……と、機体のデータベースには記録されている。

 少女はようやく我に返ったようだ。レール式の照準器を座席から引き出してのぞき込む。少女の目線に合わせて、照準線が先頭のオブレドアにフォーカスする。


 その照準を俺が修正して、ビームライフルは発射された。敵機体へ正確な一撃が叩き込まれる。オブレドアの上半身が吹き飛び、爆発四散した。


 もう一体のオブレドアは動揺したようで、ビームマシンガンをこちらへ乱射してきた。パイロットの少女はシールドを咄嗟に構えてしまった。俺は避けようとしたのだけど。


 直感的にわかった。俺の思う通りには、このロボットは動いてくれない。パイロットの操縦と、俺の意志が一致していない限りは!



「シールドに頼るんじゃない! 避ける方向を入力してくれ、あとは俺がAMBACで避けてみせる!」


「あんばっく、ってなに?」


「良いから任せな!」



 四肢の振り回しによる、急な方向転換。それをAMBACという。んなこと、説明している暇はない。


 敵がもう、至近距離まで突っ込んできていた。俺は両腕を後ろへ回転させて、上半身をのけ反らせ、ビームの弾道を避けた。マトリックスとかイナバウアーとか、そんな古い単語が記憶に過ぎる。


 敵機はビームマシンガンを捨てて、ビームアックスで切りかかってくる。

 その太刀筋をセイリオスは一つ、二つとAMBACで避ける。だが、避けるだけで反撃の入力が来ない!


 俺はまた、パイロットの少女へ催促した。



「サーベルで反撃するぞ! 左操縦桿の人差し指ボタンで格闘攻撃! 戦場の絆と一緒だ!」


「ええと、これね!」



 パイロットの指令に応えて、セイリオスは腰からサーベルを引き抜いた。



「なんとおーッ!」



 横薙ぎのビームアックスをかいくぐり、セイリオスは敵コクピットへサーベルを突き刺した。


 敵機の動きが止まる。パイロットを喪ったオブレドアは爆発することもなく、ビームアックスを振りかぶった姿勢のままセイリオスからふわふわと遠ざかってゆく。


 セイリオスはバーニアを吹かし、あてどなく行先もないまま戦場から離脱した。



「終わった……のかしら?」



 操縦桿を握ったままの少女はひとりごちる。戦闘が落ち着いてから、ようやく少女の顔の美しさに俺は気付いた。


 完璧という言葉が似合うほどの美形だった。こんなに整った顔を、これまで見た事が無い。憂いた横顔はセーブルの陶磁器のようだ。



「お嬢さん。ここ、どこだ? 目が覚めたらここに居たんだが」


「銀河帝国の小惑星要塞・ザナドゥ近傍です……いえ、『でした』。ザナドゥはもう陥落して破壊されましたから」


「銀河、帝国……? 日本はどこだよ」


「ジャパン? 二千年前の古代文明のことを、どうして今聞くのです。プログラムの不具合ですか」


「ああ分かった。夢だよこれ」



 どうも俺の意識は、気の遠くなるほどの未来へタイムスリップして、セイリオスというロボットに閉じ込められている……という夢を見ている。


 俺はそう思い込むことにした。そうに違いない。夢が覚めるまで、この状況を楽しんでやる。夢にしては、意識がハッキリしすぎているけれど。



「夢ならば、どれだけよかったでしょう。帝国は今、エイリアンの侵略により亡国の危機にあります。わたくしが避難していたザナドゥも、『裏切り者ども』アライアンスの手で陥落しました。わたくしは命からがら貴方に乗りこみ、脱出してきたのです」


「そのお嬢さんを偵察機が捕捉して襲ってきたと。じゃあ追手がまた来るだろな。どこへ逃げる?」


「ザナドゥ救援の艦隊が主星アレキサンダラから向かっていたはずです。間に合いませんでしたが……レーダーに映りませんか?」


「えーと……。味方判定の反応がディスプレイに映ってるなあ。お嬢さん、そこへ向かおうか」


「よしなに。この機体にはステルス機能があるはずです。それを使いなさい。……わたくしには起動方法がわかりませんでした。あとわたくしの名は、お嬢さんではありませんよ。セイリオス」


「おお。そいつはすまないな。差し支えなければお名前をお聞きしたいね」



 と、俺がステルスモードの起動に四苦八苦しながら聞くと、彼女は居住まいを正して、一段と低い声でこう宣った。



「そなたの不敬を許します。セイリオスのコンピューターが、わたくしの素性を知る由もないでしょうから。我が名はアリア・ギャラクシィ・スタァラスタ。銀河に遍く二千億人の人類を総攬する、スタァラスタ家皇女である」

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