30:放課後の決戦
放課後になってツブヤイターをチェックすると、ダンス動画は900リツイートされていた。
もしかしたら、まだ伸びるかも?
どこまで行くかな?
なんだか、打ちあがった花火を見てるみたいで、ワクワクしちゃう。
私の投稿がバズるなんて、夢みたい!
何より、それが雪村くんと一緒に踊った動画だっていうのが、最高っ!!
机の中身をカバンにうつしながら、私は笑っていた。
一人でニヤニヤしてたら変だってわかってるんだけど、どうしても頬がゆるんじゃう!
「上機嫌だね」
「わあっ!?」
耳の横でいきなり芽衣ちゃんの声が聞こえて、私はビクッと震えた。
「あっはっは。驚いた」
慌てて振り返ると、カバンを持った芽衣ちゃんが笑ってた。
私を驚かせるために、足音を立てずに近づいてきたみたい。
「もうっ。ビックリしたじゃん!」
「ごめんごめん。日和がニヤニヤしてるから、つい、からかいたくなっちゃって。ま、バズって嬉しいのは当たり前か。あたしだって、900リツイートとかされたら喜んじゃうだろうし。それが頑張った結果なら、なおさら嬉しいよねー」
「うん」
リツイートとか、いいね! をもらえるたびに、よく頑張ったねって言われてるみたいで、すごく嬉しい。
「芽衣ちゃんは、いまから部活?」
「そう。日和も自習室に行くんでしょ? 途中まで一緒に行こうよ」
「うん」
私はカバンを持って立ち上がり、芽衣ちゃんと廊下に出た。
そのまま左に曲がろうとして――なにかが、気になった。
――いったい、なにが気になったんだろう?
私は足を止めて、右手を見た。
放課後の廊下には、たくさんの生徒がいる。
歩いている生徒、壁に寄りかかって友達とおしゃべりしている生徒。
その中に、別クラスの男子生徒に話しかけられている雪村くんがいた。
位置的に、トイレから教室に戻ろうとしたところをつかまった、って感じだ。
ただ友達とお喋りしているだけにしては、様子がおかしい。
雪村くんの顔が、こわばってる。
まるで、おびえてるみたいに。
――雪村くんのピンチだ。
私は直感的に、そう思った。
「日和? どうしたの?」
後ろから、芽衣ちゃんの声がする。
「ごめん芽衣ちゃん、先に行っ……」
言いかけて、私は続きの言葉をのみ込んだ。
いや、違う。
自分一人で行くより、味方がいたほうが良いに決まってる。
困ったときは助けるって、芽衣ちゃんはそう言ってくれたんだ。
だったら、大事な友達がピンチのいまこそ、頼るべきでしょ!!
「雪村くんがピンチっぽい! ついてきて!!」
「えっ、大変じゃん。もちろん行くよ!」
私は芽衣ちゃんと一緒に、急いで雪村くんの元に走った。
「雪村くん。顔色が悪いけど、だいじょうぶ?」
声をかけると、雪村くんと向かい合って立っていた男子生徒がこっちを見た。
「なに? だれ?」
男子生徒は不機嫌そうに、にらみつけてきた。
う……なんか、この人、怖い。
でも、負けちゃダメだ!
「雪村くんのクラスメイトです。雪村くんの顔色が悪いように見えたから、気になって……」
「あ! もしかして、お前、動画で雪村と一緒に踊ってたやつじゃね? だっせえコスプレしてさ」
「!!」
言い当てられて、私はビックリした。
私の表情で正解だと悟ったらしく、男子生徒は馬鹿にしきった顔で笑った。
「やっぱり! なんなのお前ら! 中学生にもなって、子ども向けアニメのコスプレとか、ありえねーんだけど!」
「ありえないのは、あんたのその態度でしょ」
芽衣ちゃんは私を守るように前に出て、ズバッと言った。
「さっきからずいぶんエラそーだけど、あんた、だれ? 国王様かなにか?」
「はあ? なんだお前――」
「まあ、だれか知らなくても、想像するのは簡単よね」
芽衣ちゃんは聞く耳を持たず、肩をすくめた。
「雪村くんの知り合い、そうね、前の学校のクラスメイトってとこじゃない? それも、やたらむだに絡んでくる、すっごく嫌なクラスメイト」
芽衣ちゃんが顔を向けると、雪村くんは小さくうなずいた。
青い顔はそのままだ。
でも、反応する元気は出てきたみたいで、ちょっと安心した。
「やっぱり。あんたはバズった動画を見て、踊ってるのは雪村くんだと思ったわけね。雪村くんがダンスの練習をしてたって、だれかに聞いた? それとも、直接本人に確認したの? まあ、どうやって特定したかなんてどうでもいいわ。あんたはいま、雪村くんを困らせてる。それだけで、あたしが怒るにはじゅうぶんよ」
全身から怒気を発しながら、芽衣ちゃんは右手を腰に当てた。
「まほアクコスプレがありえない? あんたそれ、全国のコスプレイヤーさんの前でも言える? 絶対言えないでしょ。あんたみたいなタイプは相手を選ぶ。自分が一番可愛いから、勝てないケンカは絶対しない。あたしみたいにハッキリ自分の意見を言う相手は苦手だって、わかってるんだから」
芽衣ちゃんはするどい目で男子生徒をにらみつけた。
「好きなキャラの真似をして、なにが悪いのよ。雪村くんがコスプレをすることで、あんたになにか迷惑をかけたの? だとしたら、どうやって? どんなふうに? ほら、黙ってないで、言ってみなさいよ。あんたの口はかざりなの?」
「………っ」
男子生徒は両手を握って、悔しそうな顔をしている。
言い返したくても、何も言えないんだろうな。
だって、芽衣ちゃんの言葉は正しいもん。
私たちは、だれにも迷惑なんてかけてない!
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