16:ナイショの笑顔

 五桜学園には立派な学食がある。

 でも、中学生の昼食はお弁当が基本だ。

 私も芽衣ちゃんもお弁当派だから、今日もお昼は教室で食べていた。


「そういえば、芽衣ちゃん。今日は英語の課題の提出期限だけど、もう提出した?」

 芽衣ちゃんの前の席を借りている私は、卵焼きを飲み込んで言った。


「…………」

 芽衣ちゃんはお弁当箱を持ったまま、固まった。

 あ、やっぱり忘れてたな、これは。


「やばっ、まだ提出してなかった……!」

 芽衣ちゃんは慌てて箸を置き、机のフックにかけたカバンからタブレットを取り出した。

 あのタブレットは学校から支給された学習用のタブレットで、生徒全員が持ってる。

 芽衣ちゃんは急いでClassroomを開き、『英語課題③』のページを表示させた。


「よし、全部埋まってる」

 ざっと確認してから、芽衣ちゃんは右上の『提出』ボタンをタップした。


「あっぶな、セーフセーフ。危うく先生に怒られるところだったわ。教えてくれてありがと~」

 芽衣ちゃんはタブレットの画面をオフにして、またカバンの中に入れた。


「どういたしまして。でも、提出期限は今日の放課後なんだから、そんなに慌てなくてもいいのに」

「気になることはさっさと終わらせたいの。善は急げ、っていうでしょ?」

 お弁当の残りを食べながら、芽衣ちゃんはそう言った。


「たしかに」

 私は頷いて、水筒のお茶を飲んだ。

 芽衣ちゃんが英語の課題を確認している間に、お弁当は食べ終えた。

 暇だから、スマホでもいじろうかな。

 

 ――あ、そうだ。

『バーチャル・ドール』にログインしてみてって、雪村くんに言われてたんだった。

 すっかり忘れてた。


 私はポケットからスマホを取り出して、『バーチャル・ドール』の画面を開いた。

 ログインしてすぐに表示されたのは、運営からのお知らせ。


『ご利用いただき、誠にありがとうございます。

 バーチャル・ドール運営チームです。

 この度『バーチャル・ドール』は、大人気アニメ『魔法少女キューティーアクア』とのコラボを開催することになりました!

 イベントの詳細は、開催前にお知らせします――』


「……っ!!」

 私は勢いよく、雪村くんに顔を向けた。

 雪村くんは自分の席に座って、久城くんとお喋りしている。


 ああ、雪村くんに話しかけたいっ!!

 まほアクコラボだ!! って、二人で思いっきり盛り上がりたいっ!!

 でも、雪村くんはファンだってことを隠してる。

 学校でまほアクの話はしない、それが私たちのルールだ。


 だから私は、ラインを送った。


『バーチャル・ドールのお知らせ見たよ』


 ラインの通知が届いたらしく、雪村くんは机の上に置いてあるスマホを見た。

 そして、私を見て、小さく笑った。


 教室にたくさん人がいる中で、私だけが、あの笑顔の意味を知っている。


 そう思うと嬉しくて、私も笑い返した。

 ――でも、まほアクに関する最大の衝撃は、日曜日にやってきたんだ。

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