13:缶ジュースで乾杯
「久城くんは部活、決めたの? サッカー部とか、剣道部とか、テニス部とか、色々回ってたよね?」
二人の会話がとぎれたタイミングで、私は質問した。
「なんで知ってるの? もしかして、見てた?」
「ううん、見てたわけじゃないんだけど。久城くんは目立つから、噂が耳に入ってくるんだよ。うちのクラスはもちろん、他のクラスにも、ファンがいるって聞いたよ」
「マジで? いやあ、照れるなぁ。人気者はつらいねえ」
「つらいどころか、めちゃくちゃ嬉しそうだけど」
頬をかいた久城くんを見て、雪村くんがツッコんだ。
「それで、どうなの? 部活、決めたの?」
私は話を元に戻した。
「うん。バスケ部に入ることにした。仮入部したとき、先輩たちが優しかったのが決め手」
「なるほど。そういえば、芽衣ちゃんもバスケ部にするって言ってたな。雪村くんは?」
「美術部に入ろうと思ってる。週に二回しか活動しないらしいし、楽そうだから」
雪村くんの言葉を聞いて、私は飲みかけの缶ジュースを横に置いた。
「本当にそれでいいの? 手芸部に入りたいんじゃないの?」
だって私、見たもの。
誰もいない、放課後の廊下で。
手芸部が作った可愛い部員募集ポスターを、じっと見上げる雪村くんの横顔を。
あのとき、きっと、雪村くんはこう思ったんだよね。
『五桜学園の手芸部は全員女子だから、男子の自分は入っちゃダメだ』って。
そんなこと、ないのに。
男子は手芸部に入れない、なんてルールはないのに。
私は、男子とか女子とかどうでもよくて。
ただ、好きなことを思いっきり楽しむ雪村くんが見たいのに!
「あ、それはオレも思った。理玖、手芸好きじゃん。なんだっけ、ぬいぐるみ……じゃなくて、そう! 『あみぐるみ』ってやつ、この前、作ってたじゃん。しかも、三十センチはある、超大作!」
「大きな声で言うなよ!」
雪村くんが慌てて注意した、直後。
「雪村くんって、手芸好きなの!?」
私たちの隣のテーブルにいた女子が大声を出した。
おさげにした黒髪と、赤い眼鏡がトレードマークの、クラスメイトの
いきなり大声を出されて驚いたらしく、雪村くんはビクッと身体を震わせた。
「あ、驚かせちゃってごめん。隣にいたから、会話が聞こえちゃって。ちょっと失礼。ねえ、雪村くん。手芸好きなの?」
折原さんは立ち上がって私の隣に移動し、真正面から雪村くんを見つめた。
「え……いや……その……」
雪村くんは困ったように、視線をさまよわせている。
「そうそう、こいつ、手芸大好きなんだ! な、理玖!」
久城くんがダメ押しして、雪村くんの逃げ場を奪った。
「………。うん」
雪村くんは恨めしそうな目で久城くんを見たあと、ため息をつくようにそう言った。
「そうなんだ、じゃあさ、手芸部に入らない!? 実は、私のお姉ちゃんが手芸部の部長なの。部員が少ないから、友達つれてきて! って頼まれてるんだ。だから、雪村くんが入ってくれたら助かるよ。手芸好きの男子って貴重だし。絶対、大歓迎されるよ!」
折原さんは胸の前で両手を合わせて、祈るようなポーズをした。
「お願い、入ってくれない? 私を助けると思って! 誰もつれていかなかったら、お姉ちゃんに殺されちゃう!」
「折原さんのお姉さんって、どんだけ怖いの……?」
久城くんがボソッと呟いた。
「……男子でも、本当に歓迎されるのかな?」
雪村くんの心はゆれてるみたいだ。
「うんうん! 絶対! 約束する! 雪村くんみたいな格好良い男子をつれていったら、お姉ちゃん、『でかしたー!!』って叫んでガッツポーズすると思う! きっと先輩たちも大喜びするよ!! 間違いなしだよ!!」
「……歓迎してもらえるんだったら……入ろうかな」
「よっしゃー!! 部員一人ゲットー!!」
折原さんはガッツポーズして、とびっきりの笑顔を浮かべた。
「ありがとうね、雪村くん!!」
「……いや。こっちこそ、さそってくれてありがとう。本当は……おれも、入りたかったから」
雪村くんは微笑んだ。
それを見て、久城くんが私に自分の缶ジュースを差し出してきた。
乾杯しようってことだって、すぐにわかった。
私たちは缶をぶつけて、笑い合った。
その後に飲んだ缶ジュースは、めちゃくちゃ美味しかった!
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