11:お肉食べたい!

『第二問

 牧場に牛と鶏が合わせて20匹います。

 足の数を数えたら、全部で56本でした。

 牛と鶏は、それぞれ何匹ずついるでしょう?』


「……頭の体操じゃねーじゃん!!」

 久城くんがプリントを見て叫んだ。

 ただの間違い探しから、いきなり算数の問題になったことがショックだったみたい。


「落ち着いて、天馬。肉がかかってるんだ。真面目に考えよう」

 雪村くんが真顔で言った。

 しかも、目がギラッと光ってる。

 冷静に見えるけど、実はめちゃくちゃお肉が食べたいんだね、雪村くん……。

 これは、私も本気で解かないと!


「ええと、これは、つるかめ算ですよね――」

「牛が8頭、鶏が12羽」

 姫宮さんの言葉をさえぎって、私が答えを言うと。

 みんな、ビックリした顔で固まった。

 久城くんも、雪村くんも、目をパチクリしている。


「さっすが日和!! ちょー天才!! 待ってなさい、私のお肉!!」

 芽衣ちゃんが叫んで、プリントに答えを書き始めた。


「……いやいや、いくらなんでも計算早すぎでしょ!! 問題見て五秒も経ってないじゃん!! どうやって解いたの!?」

 我に返ったらしく、北園さんが興奮したように聞いてきた。

 私は北園さんに身体を近づけ、耳元でささやいた。


「足の数で考えると、牛は4本、鶏は2本でしょ? 全部で20匹、足の合計が56本。もし全部が鶏だったら、足は40本。実際は56本だから、16本多い。1匹あたり2本の差だから、8頭が牛、12羽が――」

「日和、説明は後にして!! 3枚目いくよ!!」

 答えを書き終えたプリントを1枚目のプリントの上に重ねて、芽衣ちゃんは最後のプリントを出した。


『第三問

 園芸部のハナコさんは、プランターに5つの花の苗を植えようと思いました。

 プランターには左から【①~⑤】と番号が書いてあります。

 花を植える順番について、先生は次のように話しました。


「同じ色の花を続けて植えないでね。

 それと、青い花の左隣には、赤い花を植えちゃダメ」


 ハナコさんの手元には、赤い花の苗が二つ、青い花の苗が二つ、白い花の苗が一つあります。

 どういう順番で花の苗を植えれば良いでしょうか?』


「……。フツーに植える順番言ってよ先生! ってツッコんだら負け?」

「負けだよ。それじゃ問題にならないじゃん。ねえ、花崎さん、これは?」

 久城くんと北園さんが私を見た。

 ていうか、みんながプリントじゃなく、私を見てる。


「ちょっと待って、考えるから……って、なんで私に聞くの? みんなは考えないの?」

「うん。まかせた。はい」

 芽衣ちゃんはプリントを私の前に移動させた。

 さらに、自分のシャーペンを差し出してくる。


「なんで私まかせなのっ!?」

 お肉がかかってるんだから、責任重大じゃん!!


「おれより花崎さんのほうが頭が良いから。お願いします」

 雪村くんは大真面目な顔で頼んできた。


「う……」

 頼まれてしまっては、私も嫌とは言えない。


「花崎さん、お願い!」

「頑張れ日和!」

「応援してます!」

「ファイト!」

 芽衣ちゃんを含む他のメンバーは完全に、応援モードだ。


「~~ああもう、わかったよ!! その代わり、3位以内に入れなくても恨まないでねっ!!」

 私はシャーペンを受け取り、大急ぎで問題を解き始めた。

 ええと、同じ色の花が続いたらダメで、青の左隣に赤が来てもダメ。

 逆に、赤の左隣に青があるのはOK。

 それで、青い花は二つあるから……。


「……わかった!!」

 答えはこれだっ!!


『①:青 ②:赤 ③:白 ④:青 ⑤:赤』


「お疲れっ!!」

 私が答えを書き終えると、芽衣ちゃんは3枚のプリントを持って先生の元にダッシュした。


 できるだけ早く解いたつもりだけど、3位以内に入れたかなあ……?

 そもそも、答えが間違ってたらどうしよう?

 もし間違ってても、私に頼んだのはみんななんだから、私は悪くないよね?

 気持ちが落ち着かず、親指をもんでいると、芽衣ちゃんが猛スピードで戻ってきて私に抱きついた。


「わあっ!?」

 走る勢いそのままに抱きしめられたから、危うく、椅子ごとひっくり返りそうになった。

 とっさに、久城くんが立ち上がって手を伸ばし、私の背中を支えてくれた。

 久城くんは反射神経がめちゃくちゃ良い。

 芽衣ちゃんと一緒で、スポーツ万能なんだって。


「ありがとう、久城くん。ちょっと、芽衣ちゃん! 危ないでしょ!」

 私は芽衣ちゃんの腕を引っぺがして怒った。


「ごめんごめん! でもさ、あたしたちの班が1位だよ!! 日和のおかげ!!」

 満面の笑みで、芽衣ちゃんは私の肩を叩いた。

 1位になれたってことは、私が解いた問題の答えも合ってたんだ!!

 良かった~!!


「やったー!! お肉ー!!」

「花崎さんと一緒の班で良かったー!!」

 みんな大喜びだ。

 叫ばなかったのは、姫宮さんと雪村くんだけだった。


「そこ、静かに! まだ終わってない班がいるんだから!!」

「すみませんっ」

 先生に怒られた久城くんたちは、すぐに黙った。

 でも、みんな、小さく拍手したり、笑顔で親指を立てたりしてくれた。

 なんだか照れるけど、嬉しいな!


「花崎さんって、やっぱりすごいね。頑張ってくれてありがとう」

 雪村くんが小声で言って、微笑んだ。


「えへへ。どういたしまして」

 嬉しい気持ちで胸がいっぱいになって、私は照れ笑いを浮かべた。

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