第7話 覚醒!君への大切な想い!

、、、暗いなあ。

私は暗闇の中でひとり歩いていた。

声を出そうとするが何も出ない。

音も、声も、言葉も何もない世界。

そして。

噺もない世界で私は沈んでいた。

しばらく歩いていると大きなモニターがそこに現れた。

それには、誰かが映っているが、もうどうでもいい。

何かが聞こえそうだが気にすることもなくそのまま歩き始めた。

「ゕぉル、、、」

その頃。

教室では。

倒れた薫のそばで俺は必死に呼びかけていた。

「かおる!かおる!ねえ!起きて!返事して!」

何度も呼びかけるが返事がない。

かおるはぐたっとしたまま動かない。

かおるの瞳には光が戻らずにいた。

すると、カツンと背後で音が聞こえる。

死神陰法師が静かに鎌をついた音だった。

「あきらめろ。無駄だ。」

冷たい声が俺を襲う。

「噺を、、、やる気を失ったものは空っぽになる。声も奪われ、やがて、、、」

「黙れ!」

俺は勇気を振り絞って振り返り、そう叫んだ。

だが、その怖さに一瞬ひるみそうになる。

かおるはこんな怖い存在に立ち向かって言ってたんだ、、、

「かおるは!すごい子なんだ!ここで、やられるわけない!」

俺の精一杯の反論も死神陰法師には効いてないみたいだった。

首を傾げ、不思議そうにする。

「ならば、問おう。」

骸骨の鋭い眼窩が俺を射抜く。

「お前は、なんだ?」

その言葉に言葉を失ってしまった。

俺?

俺は、、、

なんだ?

うるさい陽キャ?

クラスのムードメーカー?

かおるが言っていた王?

、、、違う。

そうじゃなくて!

胸に浮かんできたのはあの日の光景だった。

誰もいない教室で扇子を広げ、少し照れながら噺をするかおるの姿。

小さい声。

でも、確かに心に響く声。

そうだ、、、

俺は、、、

俺は拳をギュッと握った。

「俺は!」

顔を上げて死神陰法師をまっすぐに見た。

「かおると!噺屋亭魔法少女の一番のファン!そして、、、」

空気が震えるほど、力が入った言葉だった。

「一番の聞き手だ!」

その瞬間。

俺の足元から青い光が広がった。

「なに、、、?」

死神陰法師がたじろぐ。

俺の背後に大きな鈴と耳がある紋章が浮かび上がった。

そして光が俺を優しく包んだ。

「俺は語れない。」

俺は静かにそう言う。

「でも!聞くことはできる!」

左耳には鈴のピアスがきらりと光る。

リーンリーンと動くたびに心地よい音を出して、あたりが静かになった。

「語り手の声、しかと承りました。

間も。息遣いも。

全部、俺が受け止める。

高座を守る聞き手として、、、

もりアオ!ここに参上!」

そう名乗り、深くお辞儀をする。

死神陰法師がひるんだ時。

今だ!

俺は、走り出した。

周りがスローモーションみたいだな。

そんなことを考えるくらい、俺は安心していた。

これで、かおるを守れる!

光の鈴を投げて、死神陰法師を拘束する。

「よし!」

時間を稼ぎながら、かおるのもとへ急いで駆け寄る。

「かおる。聞いて。」

俺は震える声で語りかけた。

「君の噺は一番なんだ。他の誰も代わりにはならない。君だからできる、唯一無二の噺なんだ!」


声が届く。

闇の中、私はまた、モニターの前に来ていた。

意識が薄れていく中、なぜかここに戻りたくなったのだ。

なんで、、、ここに、、、?

その時だった。

モニターから微かに声が聞こえた。

「キミノ、、、なし、、、は、、、」

あれ?誰?

、、、あ。

あおい?

聞こえる。

あおいの声が聞こえる!

「もっと、、、」

あおいは言葉を続けた。

「もっと、みんなに届けてくれ!俺は、ずっと聞いてるから!」

そうだ。

私は噺屋亭魔法少女。

みんなを元気にする、噺家だ!

私の手の中に消えたはずの扇子が戻った。

意識が光の方。

モニターの向こうの聞き守アオの方へ飛んでいく。

今、行くからね。

意識が今度は光に包まれた。


「えー。」

私の声が静かに響く。

声が、戻った、、、!

私はすっと立って、死神陰法師のほうを見据えた。

「本日のお題目は、魔祓いにございます。

噺屋亭魔法少女!

ただいまより——変身いたします。」

私の言葉で光が舞い、そして、噺屋亭魔法少女になった。

「くそっ!あともうちょっとだったのに!」

悔しそうな死神陰法師を見て、私は心の中でほくそ笑んだ。

やっぱり、最後には正義が勝つのだよ。

「噺屋亭魔法少女?」

あっといけない。

私ったら、想像力がすごくって♡

、、、やはり寒い。

まだ、この前バレたときの罰が残ってるな。

この口調は永遠に封印しよう。

私はアオの方を見てにこっと笑った。

「ありがとう。大好き!」

うん。

これで、十分。

長々しく言うのは苦手だからね。

これで、十分感謝が伝わっただろう。

我ながら、いい感じだな。

ん?なんで、顔が赤いんだ?

恥ずかしかったのかな?

「、、、それは、ずるい!」

ああ、怒ってたのか。

でも、何に、怒ってるんだろう、、、

「はやく、あいつを何とかしろ!」

あ、噺屋亭ほのか。

いたんだ。

「ずっといたわ!それよりも早く!」

心を読まれた、、、、

プライバシーの侵害だー!

「はやく!」

はーい。

わかってますよ~!

死神陰法師の前に正座をして、深く礼をする。

「やめろ!やめてくれ!」

あせって、情けない声を出しているが、気にしない。

私をやっつけようとした罪は重いんだからね。

「私の声が、だれかの心に届きますように。

涙も不安も、小さな噺に変えて──

さあ、開きます。

私の名は噺屋亭魔法少女!

一席、おつきあいくださいませ!」

パチン!

「さて、噺を一席。」

あくまで、最初は笑顔で。

それが、私の怒りの表し方だ。

「落語。『死神』」

その言葉に死神陰法師が「ひぃ!」っと怖がってガタガタ震えだす。

「世の中ついていない者と言うのはどこにでもいるもんで。

何をやっても失敗。

仕事も金も縁がない。

とうとう、そのついていない奴がこう言うんでございます。

「もう、生きているのもつらいなぁ。」

すると、どこからともなく、、、

ぬぅっと死神が現れまして。

「お前はまだ死ぬ時ではない。」

でも、それでも命を絶とうとするそいつに死神はこう言います。

「病人のそばに立つ死神を見えるようにした。

頭の方にいたらそいつは助かる。

足の方におれば、もうだめだ。」

その能力で、医者になったこの者はたくさんのお金を得ました。

だけど、死神との約束。

「絶対に死神には触ってはいけない」

と言う約束をお金に目がくらんで破ってしまったんでございます。

死神は大激怒。

そいつをろうそくがいっぱいの部屋につれていき、、、

その者のろうそくをふっと一吹き。」

そこで、語りを止め、死神をじいっと見た。

まるで、立場が逆転して私が死神になったようだった。

アオも、死神の後ろでじーっと睨むように見ている。

「命と言うものはろうそくの火のようなんでございます。

強く吹けば消える。

でも、守ればあたたかく灯り続ける。

死神陰法師さん。

あなたが消すなら、私が。

灯して見せましょう!」

扇子を勢いよくパン!と閉じる。

「な、なにをする!あ、あ、あー!」

死神の鎌が光って今まで奪ったやる気が一気にみんなに戻る。

そう、ろうそくに火をともすように。

「さあ、クライマックスです。

命は噺と共にあるもの。

死神陰法師。

あなたの噺はここで、おしまい!」

そう言ったとたん、死神陰法師は音もなく、影がほどけるように消えてしまった。

死神陰法師がいた場所には鎌だけがカラン、、、と残っていた。

「終わった、、、?」

アオが緊張が解けたように息を吐く。

私も緊張が解けたのか、フラッと舞台に倒れこんでしまった。

はあ、はあ。

あれ?息が苦しい。

あれ、、、?

私、、、まだ治ってなかった?

「噺屋亭魔法少女!」

アオが急いでこちらにやってくる。

「アオ!その鎌をもってくるのじゃ!」

噺屋亭ほのか、、、何をする気?

ああ、もうだめかも、、、

朦朧とする意識の中、最後に感じたのはくちびるに何かが触れる感触だった。


あれ、、、?ここは、、、どこ?

「保健室だよ!無事でよかったよ!かおる!」

あ、声に出てた?

見渡すと、さっきの舞台ではなく、保健室みたいだ。

あおいが連れてきてくれたのかな。

「俺、かおるが生きてて本当によかった。教室のみんなも学校中のみんなも無事みたい。本当にすごいよ。さすが、噺屋亭魔法少女!」

そんなに、言ってくれるなんて、、、

なんか、照れるな。

でも、うれしい。

みんなも無事でよかった。

ところで、、、

「なんで、あおい、後ろ向いてるの?」

「え?!」

ん?なんか、心なしかあおいの耳が赤いような、、、

「あおい、なんかあった?」

「お、おぼえてないの?!」

「う、うん。」

あおいが一気に振り向き、私はちょっとびっくりしながら答える。

「そ、そっか~。おぼえてないか、、、」

なんか、安心したような、悲しいような変な顔をしてるのなんなん?

「まあ、いいや。これから、頑張るから。」

「どういうこと?」

私の頭にはてなが浮かび、そこで先生が来てしまった。

私は陰キャモードに戻るとするか。


帰り道。

今日あった授業を教えてもらっていたら、遅くなってしまった。

少し、急ぎ足になりながら、帰りは暇なので落語を語っている。

「と、言うわけなんですよ。

これにて、一件落着でございます。」

そう、締めに入るとあおいがたくさん拍手を送ってくれる。

「すごい!おもしろかった~!」

「そ、そう?そうならいいけど。」

その時、頭の中にあの人形たちが浮かんだ。

初めて、私の噺に拍手をくれたあの人形たち。

なんで、あの時消えたんだろう。

そう思っていると、後ろから拍手が聞こえた。

パチパチパチパチ。

「お見事。」

私たちはすぐさま振り返る。

敵か?

「え?」

思わず、声が出た。

そこに立っていたのは、、、

私とそっくりな。

正確には噺屋亭魔法少女にそっくりな少女だった。

同じ顔。

同じ声。

でも、どこかが私とは違う。

そう思う、笑みを浮かべる少女。

「初めまして。噺屋亭魔法少女。私の名は負流亭ふりゅうていくるみ。」

少女はそう名乗ると「また会おうね。」とだけ言って闇に溶けていった。




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