第58話〜守れ、関西人!〜

 図書館でええ本がないか探したけどパッとするもんがなかったから書斎で何かおもろいの探そ。あ、晩ご飯の食材買わな。そう思って校門を出てしばらく歩いてた時やった。POINE電話が鳴った。電話をかけてきたのは澪さんやった。


 俺はこの時、しーちゃんが電話をかけてきたときのような嫌な予感がした。せやからすぐさま電話に出た。


「もしもし、澪さん?」


 受話器の向こうでは啜り泣くどころではなく、しゃっくり混じりで大泣きしたあとのようになっとった。これはしーちゃんよりひどいで。


『大樹…くん!』


 俺は今来た道を小走りで戻り始めた。一応、どこにおるかを聞く。


「澪さん、今どこや!?どこにおるん!?」


『うっ…うっ…ひっく…!うぇえ…』


 声も出されへんくらい泣いとる。何があったんや?帰り際も確かにちょっと表情が固かったんは覚えとる。このアホ。そんな風になっとったんやったらそばにおったれや!と自分をどつきたくなった。


「澪さん?澪さん、どこにおるん?今から行くから。場所を教えて」


『うぐっ…うう…せいず…しつ…』


「せいずしつ…製図室やな!?わかった、そこ行くから動かんとってや!」


 俺は一気に地面を蹴って走り出す。オリンピック選手も真っ青なスプリントや。下校中の生徒の合間を縫うように全速力で走る。


「今下駄箱や!学校に戻ってきたでな!すぐ行くから!」


 階段は3段飛ばし。一気に製図室へと向かう。廊下を曲がってもうすぐ…おった!へたり込んで泣いとる澪さんを見つけた。


「澪さん!!!」


 大きな声で澪さんを呼ぶと泣いてぐしゃぐしゃの顔でこっちを見た。ひどい顔や…こんなに泣くほどの何かをされたんや。誰や。どこのどいつや…!澪さん泣かせた奴は…!


「澪さん!来たで!もう大丈夫や!」


「だいきくうううん!!うわあああああああん!!!」


 俺に抱きついて胸に顔を埋めてまた大泣きをした。安心したんやろか。俺は抱き寄せて頭を撫でて澪さんを宥める。一体何が…と思ったところで俺の目に入ったんはゴミ箱。その中身は…結構な量のご飯。そして、卵焼きやらシャケの塩焼き。きんぴらに…ほうれん草のおひたし。弁当…か?丸ごと?そして大泣きしとる澪さん。


「まさか…食べんと捨てよったんか…?」


「ああああぁぁああああぁぁああ!!!」


 泣きながら頷いた。俺はその瞬間、頭の血がマグマのように煮えたぎるような感覚を覚えた。あかん、脳の血管ブチ切れそうや…今宮ァ…あのボケ…やりよったな…!!越えたらあかんライン…越えよったのう…!!!今すぐ体育館行って飛び蹴りをかましたいところやけど、あのボケは今はどうでもええ。俺はすぐに冷静になった。


「澪さん…ここにおっても辛いだけや。今日はもう家帰ろ。俺、送って行くから…立てる?よしよし、大丈夫や。俺がおるからな。さあ、帰ろ、な?」


 澪さんは頷いてよろよろと立ち上がった。俺が肩を支えて促すと、覚束へん足取りでヨロヨロとやけど歩き出した。ちょっと酷やけど…ここにおっても何も解決せえへんし、ゴミ箱の中身を見て辛いだけや…それよりは家に帰らせて落ち着かせた方がええやろ。


「大丈夫や。家に帰って落ち着こう。大丈夫。大丈夫や」


 何が大丈夫かはわからへんけどとりあえず安心できたらええなと思って大丈夫って声をかける。なんや、こう言う時気の利いたことも言われへんのは情けないわ。泣いとる澪さんを見て何事かと興味津々で見てくる生徒がおったけど、俺が睨んだら逃げるようにみんなどっか行った。悪い噂、また広まるんかな。そんなんどうでもええけど。


 結構時間かかった。途中で立ち止まって泣き出したりするのを宥めてたりしてたから。やっと家に着いた。鍵を開けたりもでけへんくらい憔悴しとるから、俺は誰かおらへんかとインターホンを鳴らした。頼む、誰かおってくれ…!


 すぐに澪さんそっくりなめっちゃ美人な人が出てきた。澪さん、お姉さんなんかおったっけ?


「はい、どちらさまですか?」


「はじめまして、天王寺 大樹と申します」


「天王寺君?ああ!天王寺君!今日はどうしたの…澪?澪!?どうしたの!?何があったの!?澪!」


「おがああさあああああん!!」


 澪さんはお母さん言うて抱きついてまた大泣きしとった。お、お母さん!?う、嘘やろ!?どう見ても姉妹やろ!?澪さんそっくりやねんけど!あ、あかん、今そんなん考えとる場合ちゃう!


「澪?本当にどうしたの…?」


「あの、すいません。私でよろしければかいつまんでになりますがご説明できるかと思います…」


「天王寺君…そうね。天王寺君、お願いできるかしら?どうぞ、上がって?」


「ありがとうございます。お邪魔します」


 俺は秋谷家に上がることになった。


………


 俺とお母さんは対面にソファに座る。なんでか知らんけど澪さんは俺の隣に座って泣いとる…。めっちゃ気まずいんやけど、お母さんは胸を貸してあげてって言うし…お母さん、何言うてはりますのん…まあええわ…ほ、ほな説明しよか…。


 俺が電話をもらったときにはすでに大泣きした後やったこと。駆けつけたら動けんくなってたこと。そして、澪さんが今宮へ作った弁当がゴミ箱へ捨てられとったこと。俺はその事と同時に、証拠として撮っといた写真をお母さんに見せた。その瞬間。


「………へえ」


 背筋が凍った。澪さんのお母さん、表情がやばい。能面のようになっとった。それと同時に…殺気も感じたような気がした。めっちゃ怖い。


「それで…一緒に帰らせてもらいました」


「ありがとう、天王寺君。澪を助けてくれて。励ましてくれて」


「い、いえ、気にせんといてください」


「ふふ、優しい子ね。澪?もう俊哉君にお弁当を作るのは即刻やめなさい。ここまでされて澪がお弁当を作る義理はないわ。怒りも覚えたけどそれよりも呆れたわ。この件は今宮さんにもお話しした方がいいわね。うちの娘をよくもこんなことにしてくれたわね」


 そら娘が一生懸命作った弁当をほかして、これだけ傷つけたんやもんな。俺もどつきまわしたいもん。親やったら尚更やろ。


「だいき…くん…あり…ありがとう…」


「これくらい気にせんといて。今日は…災難やったね…」


 せやからもっと気の利いたこと言われへんのかいな…?


「うん…でも…大樹君がきてくれたから…ありがとう…」


「う、うん」


「澪、しばらくはお母さんがお弁当を作ってあげる。ゆっくり朝起きてきなさい」


「え、でも…」


「いいじゃない。せっかくなんだからもっとお母さんに甘えなさいな。たまには甘えてくれないと寂しいわ」


 澪さん、お母さん達にもあんま甘えへんのやなぁ。しっかりしてるって思うんやけど、悪く言うたら甘え下手。こんな時くらい甘えたらええねん。


「澪さん、俺らまだ高校生やで?高校生やったら、まだまだお母さんに甘えてもええんちゃうかな。こんな事があったんやで、親にも気をつこたらあかんと思う」


「………うん」


「あら、いいことを言ってくれるわね。ほら、天王寺君もそう言ってるんだから」


「…お母さん、お願いします」


「よかったな、澪さん」


「うん…!ありがとう、大樹君…グスッ」


「ふふふ、いい彼氏を持ったわねぇ」


「お、お母さん…!?わ、わたしたちまだ…!」


 しーちゃんの時もそうやけど、こないに親の前で抱きついたりしとったらそらそうみえるやろなぁ…。


「あ、あの…お付き合いを前提に考えております…」


「大樹君!?」


「そうなの!それならもう時間の問題ねぇ。ねえ天王寺君、よかったら晩ご飯、食べて行かない?私がうんとおいしいの作ってあげるから!」


「え、ええ?」


 澪さんのお母さんのグイグイ押してくるパワーに俺は…。


「ごちそうになります…」


 従うしかあらへんかった。

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