第2話

 「無駄なあがきはやめるのです。これで世界は闇に包まれる。」

漆黒の長い髪をひらめかせて、闇の女王は高笑した。

ブラックは、目を潤ませてホワイトを抱きしめていたが、顔を上げると女王・沙露姫(サロメ)をにらみつけた。

「そうはさせないわ!おねえさまは、わたしが守る」

少女は両手を胸の辺りへ押しつけると、掌に力をためるよう集中した。ホワイトが握りしめていた刀の柄をそっと取り外し、ため込んだ力のありったけを剣先にぶつけると、勢いよく駆けだして、刃を振り上げた。

「黒龍裂波光!」

刀から、白と黒が渦巻き状になった光が、濁流のように黒髪の女に押し寄せた。

「…!」

息もつけない、刹那の余裕も与えず、光は闇の女王をずたずたに切り裂いた、かと見えたが、長い髪に飾っていた黒曜石が落ちただけであった。それだけでも彼女の胸は烈火のごとく燃え上がった。生意気な小娘め。プライドに少々傷が付いた様子で、頬を少しゆがませたが、すぐに元の整った表情に戻ると長い衣の袖を一振りした。それだけで、ホワイトと、彼女を抱きしめていたブラックは木の葉のように吹き飛ばされた。勢いよく岩盤にぶつかったかと思うと、そのまま岩の裂け目へ真っ逆さまに落下していった。

 沙露姫はふたりの少女戦士が落ちていった深い裂け目を一瞥すると、左手の小指をついと引き上げる仕草をした。すると飛ばされていた黒曜石の髪飾りがその手に戻っている。

「…白百合姫のイヌめらが。わたくしに敵うとでも…思い上がりも甚だしい。」

つぶやきとは裏腹に沙露姫は僅かに切なく瞳を細めたが、それも一瞬で、再び衣を翻したときには、その場からかき消えていた。


 抱かれたまま落ちながらも、ホワイトは体全体を発光させていた。光は必死の様相で怪我人を抱え込んだ栗色の直毛の持ち主をも包み、落下速度をゆるめていった。横たわって絡み合ったまま谷底へ静かに着地すると、光はうせて、蒼白の顔色になったその胸の白い戦闘服には赤いシミが広がっていく。何か暖かいものに守られた感覚で目を開けたブラックは、一瞬からだが動かなかった。そっと指先から持ち上げてみる。そして柔らかな巻き毛のしたの胸がかろうじて上下しているのを認め、肩からマントをはずすと、傷の上に巻きつけた。雪花おねえさまさえ無事ならあたしは世界なんてどうなったってかまやしない、なぜあたしたちはこんな戦いに命を懸けなきゃならないのだろう。どんなに傷ついても他の戦士たちを守ろうとするホワイト、雪花が憐れで憎かった。そして愛しい…。


 同じ頃、白百合姫の結界に守られた区域の外側で、押し寄せてくる黒雲と異様な黒い翼を持った鳥たちの攻撃を受け、ブルーとグリーンは苦戦していた。黒雲が放つ毒素を中和するには、音無姫の持つ「音無の笛」が必要だった。それを取りに行ったレッドはまだ帰らない。超常能力の持ち主としては、五人の中でも抜きんでているレッド、正路がいないのは戦力の損失だ。白百合姫の結界も心持ち弱くなっているような気がする。

「ここは、なんとしても持ちこたえるわよ、グリーン。」

青い戦闘服と同じように輝く理知的な瞳を持つ、すらりと背の高い短髪の少女が言った。

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