【Day42】09/06

Day42,9/6,天気:雨、強風(台風の影響)


フリーズしてしまった悠先生に、私は驚かなかった。

なぜなら、この“家”に来てすぐに人型AIのフリーズや再起動方法について説明を受けたからだ。

昨夜もその方法を実践して悠先生の再起動に成功したが、完全に動けるようになるまで時間がかかるので、私は悠先生をベッドに寝かせて自分もそのまま寝ることにした。


翌朝、私はアラームの時間通りに起きた。

私がベッドから立ち上がると、悠先生もすぐにパチッと目を開けた。


「おはようございます。調子はいかがですか?」

「あぁ、おはよう。君が再起動をしてくれたんだね?今は問題ないよ。」

「無事に目が覚めて良かったです。」

「医療系AIの私が……情けない。」

「そんなことないですよ。完璧なものなんて、この世に存在しませんから。」


私は自分で何気なく言った言葉が、核心を突いているような気がした。

その時、悠先生も穏やかながらどこか哀しい顔をして、私の言葉に「そうだね」と頷いていた。


悠先生は、他のAIに呼ばれて私より先に急いで寝室を出て行った。

何かあったのだろうか…と考えつつ、周りを見渡すと昨夜の付箋付きの医学書が机に残されたままだった。

悠先生が伝えようとしたことに興味が湧いたが、私は後で医務室にそれを届けようと、ひとまず本を回収して自分の部屋へ戻った。


私が着替えてリビングへ行くと、数名のAIたちが何やら盛り上がっていた。

その輪の中心にいたのは、凛くんだ。その隣には、いつも通り恋くんもいる。


「おはようございます。皆さん、楽しそうですね?」

「あ、おはよう!そうそう、今日君と寝室が一緒になるのは誰かなって予想してたんだ〜」

「恋が、予想が当たったらどうする、とか騒いでただけだよ。君は気にしないでいいから。」


ニコニコしている恋くんを横目に、凛くんは少し冷静だった。

そういえば、同室のAIはいつ発表されているのか、私も知らなかった。

観察していると、順番は本当にランダムで間違いなさそうだし、対象のAIに知らされるのは当日の午前中といったところか。


「皆さん、お待たせしました。本日の“Special bedroom”で過ごすメンバーを……って、君もここに居たのですね。」

「おはようございます、斎くん。どうやって抽選をするのですか?」

「おはようございます。良い機会なので、君にも見てもらいましょうか。このアプリケーションを使って、ルーレットを回すんです。」


やはり、取り仕切る役割はいつも斎くんのようだ。

斎くんが見せてくれたタブレット端末の画面には、AIの個体識別番号がランダムに並んでいて、指で勢いよくスワイプすることで番号が回っていく。

ルーレットの赤い針が指した番号のAIが今夜共に過ごす相手、ということらしい。


「じゃあ、回しますよ。」

「ねぇねぇ!せっかくならさ、斎くんじゃなくて彼女に回してもらわない?」

「うん、僕もそれがいい。」


恋くんと凛くんは、二人で斎くんに迫る。この二人はいつも一緒にいるけど…兄弟AIなのか。

斎くんは二人の圧に押されて、私にタブレットを差し出す。

先ほど見せてもらったように、指でなぞればいいはず。

私はなぜか四方八方から熱い視線を感じながら、ルーレットを回した。


「『AI-006』と出ました。」

「おー!凛だ!」

「今日に限って僕か……今夜、よろしくね。」


またもや恋くんは飛び跳ねて喜び、凛くんは少し恥ずかしげだ。

恋くんの予想が当たったのだろうか。

この二人を見ていると、私はなぜか心が温かくなるような気がしていた。

でも何に起因しているかは分からない。

しかし、それが何であれ、私はただ観察を続ければいい。

最近、ずっと答えのないようなことを考えていたから、無意識に疲れが溜まっているのかもしれない。

初めの頃のように、観察と記録に専念しよう。


その夜、私はまたルーティンワークをこなして寝室へ。

私が寝室に入ると、まだ凛くんの姿は無かった。

台風接近の影響で強風が吹き、窓がガタガタと揺れていた。


「こんばんは。今日は天気が荒れてるみたいだね。」


私は窓の音に紛れて凛くんの入室に気づかず、その声に驚いて振り向いた。

凛くんの髪の色は、晴れた夜の月のような色だ。

私はベッドに座って窓の方をずっと見つめていた。


「そろそろ、寝る時間だよ。…窓の音、怖いの?」

「こんばんは。えぇっと……少しだけ、大きな音に驚いてしまうだけです。」


私が凛くんと話している間にも、大きな雷の音や雨が窓を打ち付ける音が寝室に鳴り響いていた。


「もう、無理しないでいいのに。僕に頼ってよ。」

「あ、ありがとうございます…」

「君は一人で背負いすぎだよ。ほら、ゆっくり休もう。」


凛くんが私に「これで音や光が遮られるよ」と布団を耳の上までかけてくれた。

彼は私の“疲れ”に気づいていたのだろうか。

私は静かになった布団の中、自分と凛くんの体温もあってか、その後すぐに眠ってしまった。




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