第17話 空島の罠

 オレたちは受付で正式に依頼を受けると、通信が途絶えた空域の地図を受け取り、ルミナークが待つ駐機場へ向かった。


「なんか……連続で指名依頼なんてびっくりよね」


「そうだね。でも、オレたちを信じて任せてくれたメイリッサさんを、失望させるわけにはいかないよ」


「うん!」


「俺様がついてんだから大丈夫だ!」


「ああ、頼りにしてるよ」


 ――そして、オレたちが駐機場に着くと、入り口で探索者らしき三人組が腕を組んで待ち構えていた。

 こっちに気づいた瞬間、ニヤリと口角を上げ、ゆっくりと近づいてくる。

 

「なぁ、お前ら……これから捜索の依頼に行くんだろ?」


「ああ。そうだけど?」


「そこでだ。新人のお前らに、俺たちが手を貸してやろうと思ってな」


 妙に自信ありげな口ぶりだが、胸のプレートはオレたちと同じカッパーランク。


「いや、お前ら……オレたちと同じカッパーだろ?」


「同じでもよ、経験ってやつが違うんだよ」


 要するに、探索者歴だけは長いが結果を残せない――そんな連中だ。

 きっと報酬や実績の“おこぼれ”が目当てだろう。


「悪いけど、その申し出はパスだ」


「はぁ? せっかく優しい俺たちが手伝ってやるって言ってんだぞ!」


「だから、必要ないって言ってるんだよ」


「……ガキのくせに舐めやがって」


 声が少し荒くなり、周囲に野次馬が集まり始める。


「おい、こんなところでやるのはマズい」


「チッ……後悔すんなよ」


 三人組は吐き捨てるように言い残し、去っていった。


「……なんか、やな感じね」


「あいつら、絶対諦めてねぇぞ。気をつけろよ」


「そうだね」


 三人組の姿が完全に視界から消えたのを確認して、オレたちは出発の準備に取りかかった。

 

「機体チェックはOKだ。いつでも出せるぞ」


「よし、じゃあ出発しよう」


 ルミナークは軽やかに駐機場を飛び立ち、青空を切り裂くように加速する。

 まずはシャトルが最後に確認された空域へ――。


 空域に近づくにつれ、同じ依頼を受けたらしい探索者たちの飛翔船とすれ違うことが増えてきた。


「かなりたくさんの人が参加してるみたいね」


「報酬が魅力的だったからね」


「じゃあ、マイル。そろそろ可能性の高そうな場所をピックアップしてくれる?」


「任せて。……協会の資料から割り出した、確率の高い箇所をマップにマークしたわ」


 操縦席横のマップに赤い点が数箇所表示される。


「マイルは何処が一番怪しいと思う?」


「場所と状況から考えて、わたしなら一番近い町に向かうと思うわ。だから可能性としては二ヶ所に絞られるけど、近い方は最近深雲獣が目撃された場所を通過するし、情報を知っていれば考えづらいわよね」


「なるほど。そうなると、もう一つの進路上にある空島が怪しいな」

 

 そう言って進路を切り替えたときだった。

 ノクティが不意に低い声を出す。


「……おい。さっきから俺様たちをつけて来てる奴らがいるぞ」


「ああ……オレも気になってた。気のせいじゃなさそうだ」


「マイル、あいつらが距離を詰めてきたらすぐ知らせて」


「了解」


 間違いない、あれは……さっきの三人組だ。


「もうすぐ目標の空域に到着するよ」


 ――その空域は、雲海の切れ間から巨大な浮島が顔を覗かせる場所だった。


「視界が悪いな」


 オレは速度を落とし、慎重にルミナークを接近させる。

 すると、マイルが計器を覗き込みながら眉をひそめた。


「スカイ、背後の反応が……消えたよ!」


 マイルが小さく息を呑む。

 

「コア反応じゃなくて、気流の乱れを調べてみろ」


 ノクティはマイルに指示を出す。


「うん、わかったわ」


「あっ、雲海の中に乱れがあるよ。隠れて少しずつ近づいてきてるみたい」


 ――わざわざそんなことする理由はひとつ。何か、仕掛けるつもりだ。


「マイル、島の地形データを表示して。ノクティはシャトルのエネルギー反応があったら教えてくれ」


 オレは何があっても対応できるように、重力制御フレームの出力を最大まで上げ、ルミナークをゆっくりと島の縁をなぞるように進ませる。


「前方に微量なエネルギー反応だ! 何かいるぞ!」


「……来たか」

 

 次の瞬間、ルミナークの船体をかすめる光弾が走った。


「やっぱりお前らか!」


 視界の端に、あの三人組の飛翔船が飛び出してくる。


「おい、右からも来るぞ!」


 別の機体が進路を塞ぐように回り込み、峡谷の入り口へと追い立ててくる。

 後方からは容赦ない威嚇射撃。狙いは明らかだ――オレたちを狭い渓谷に追い込むつもりだ。


「チッ……このままじゃジリ貧だ。誘いに乗ってやるよ!」


 ルミナークを急旋回させ、渓谷の中へと侵入する。

 だが、その奥は予想以上に入り組んでいて、両壁は切り立ち、空は細くしか見えない。


「いやな予感がする……!」


 直後、峡谷の奥にいた三人組の一機が、岩壁を狙って集中砲火を浴びせた。

 轟音とともに岩盤が崩れ、巨大な岩塊が次々と落ちてくる。


「きゃっ――!!」


「しっかり掴まってろ!」


 オレは重力制御フレームをフル稼働させ、ルミナークを瞬時に立体的に跳ね上げる。

 多層バリアが崩れた岩を弾き飛ばし、機体はギリギリの間合いで回避を繰り返す。

 

 空間は狭く、ほんの一歩間違えば壁に激突する状況だ。

 前方に崩れた大きな岩塊が迫る。

 機体を真横に傾けその隙間をかいくぐる。

 

「……っ、抜ける!」


 最後の岩塊をかすめ、ルミナークは渓谷の影に滑り込むように着地した。

 辺りは崩れた瓦礫と砂埃で視界は最悪だ。

 エンジンを停止させ、大きな岩陰で息を潜める。


「損傷は……ないな。多層バリアが全部防いでくれたみたいだ」


 さすがルミナークだ。普通の機体なら危なかったかもしれない。


「ふぅ……生きた心地がしなかったわ」


「俺様のサポートのおかげだな!」


 少し笑ってみせたが、まだ気は抜けない。

 レーダーを確認すると、三人組の反応はゆっくりと遠ざかっていく。

 

「どうやら離れたみたいだな……あいつら、覚えておけよ!」


「ほんとよ、頭にくるわ!」


「抹殺だ!」


「はいはい物騒なこと言わない。……よし、今のうちに捜索を再開しよう」


 ルミナークを再び浮上させ、島の外縁をゆっくりと探索を始める。

 だが、すぐにマイルが眉をひそめた。


「……ダメね。岩盤に鉄や磁性鉱物が多く含まれてるみたいで、レーダーの精度がガタ落ちよ」


「そうか。じゃあ頼れるのは勘だけか。少しでも反応があったらすぐ教えてくれ」


「了解」


 雲海の切れ間を縫い、島を一周するように飛ぶ。

 時間だけが過ぎていき、気づけば一時間以上も経っていた。


(……ハズレか?)


 そんな諦めかけた瞬間――。


「あっ! 弱いけど、何かの反応がある!」


 マイルが計器を指差す。


「ここをもう少し進んだところよ」


 ルミナークは滑るように雲を抜け、やがて谷底にぽっかりと口を開けた洞窟が姿を現した。

 その入り口付近には、外装の一部が焦げたシャトルが横たわっており……その周囲には、数人の人影が見えた。


(よしっ……見つけた!)


 ルミナークをゆっくりと洞窟へ近づける。

 向こうもこちらに気づいたのか、手を振って合図してきた。

 

「――探索者協会の依頼で、カレントポートの大使を探しているのですが」

 

 オレが声をかけると、人影の中から一人の女性が前に進み出た。


「私がカレントポート大使、セリナ・マルヴェールです」


「探索者のスカイです。そしてこちらが同じく探索者のマイル」


「まあ、ずいぶん若い探索者さんなね。でも助かったわ。不時着したはいいけれど、まさかこの辺りの地盤が電波を遮断するなんて思わなかったの。困っていたところなのよ」


「皆さん、お怪我はありませんか?」


「ええ、大丈夫よ」


「それなら、一度電波の届く場所まで移動して、協会に救援要請を送ります。もう少しだけお待ちください」


「お願いね。本当に助かるわ」


 その後、協会に救援要請を出し、報告のため再び洞窟へ戻る。


「――救援要請を出してきました。一時間ほどで到着するそうです」


「そう、ありがとうね」


 セリナさんはほっとしたように微笑んだ。


「そういえば、その胸のバッジ……もしかしてグランの知り合い?」


「あ、やっぱり分かりますか。はい、グラン工房で働かせてもらっていました」


 彼女は納得したように微笑む。


「あら、そうなの。あなたのその機体も、昔グランが見せてくれた設計図にどこか似ているわ。懐かしいわね」


 その言葉に、ふと別の名前が浮かぶ。


「そういえば、協会のメイリッサさんともお知り合いなんですよね?」


「ええ。グランたちと一緒に探索者をしていた頃に、だいぶ迷惑をかけたのよ――主にグランがね」


「工房長がですか?」


 意外すぎて、つい聞き返してしまう。


「ふふ、あれでも若い頃は猪突猛進の問題児だったのよ。今でも頑固なところは変わってないでしょう?」


 そう言ったセリナさんの表情は、昔を懐かしむような柔らかなものだった。


 それからしばらく、セリナさんに昔の思い出話を聞かせてもらった。

 まだ若かったグラン工房長が、分不相応な危険地帯に突っ込んで行ってはメイリッサさんに呆れられたこと。数々の遺跡を攻略してきたこと。

 どの話にも、探索者らしい無鉄砲さと、仲間を大事にする人柄がにじんでいた。

 

「……そんなわけで、探索者を辞めた今でもグランは良い友人なのよ」


「なるほど、なんだか工房長の意外な一面が見られた気がします」


 そんなやりとりをしていると、不意に洞窟の外から、低く唸るようなエンジン音が響いてきた。


「……来たみたいですね」


 オレが立ち上がると、入口の向こうに、探索者協会の紋章を掲げた救援艇が姿を現したのだった。

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