星雲の飛翔士 〜アーティファクトの力で世界を巡る〜
いぬは
第1章《星降りの儀式》
第1話 星降る朝、始まりの一歩
――鉛色の雲が、裂けた。
怒り狂う咆哮と共に、巨影が姿を現す。
それは翼のある
重力を無視して浮遊し、雷雲をまとったその姿は、まさに災厄そのものだった。
それを迎え撃つように、白銀に輝く滑らかな船体が、雲を突き破って飛翔する。
空を裂く推進音と、光の尾を引く軌跡。
操縦席に座るのは、空色の髪の青年。
「距離三百メートル。あいつが来る!」
「了解っ!」
目前に現れる深雲獣。空の法則すら歪める、〈深雲海〉の覇者――。
その咆哮が空を震わせ、圧倒的な質量が迫りくる。
「こっちの速度についてくるのか……! もう一段階、出力を上げる!」
白銀の船体が閃光をまとい、空を切り裂くように駆け抜ける。
すれ違いざま、主砲が展開され、青白い粒子が一閃の光線となって放たれた。
――ドガガガガガッン!!
「ギ……ャ……グギギ……%ERROR:VOCAL_DATA//再構築中//……ア”ァ”ァ”ア”!!!」
外殻を貫かれた獣が咆哮し、黒い粒子を撒き散らす。
「補助翼制御は頼んだよ! 最大出力でいくぞ!」
『“ルミナーク”――全リミット解放!』
スタークリスタルがきらめき、船全体が青白い粒子に包まれる。
次の瞬間、船体が白く脈動し、動きが跳ねるように鋭くなる。
雲の裂け目を走り抜け、獣の下面から――白銀の閃光が急上昇する。
「今度こそ、仕留める!」
全エネルギーが主砲に集中し、マズルが急速に輝き始める。
「――スターレイ、発射!!」
深雲の闇を切り裂いて、光の帯が獣の深核を貫き天を突く。
一瞬の静寂のあとに風が吹き荒れ、衝撃が雲海に波紋のように広がる。
獣の影が崩れ落ち、やがて粒子となって消えていく。
切り裂かれた雲の隙間から、まばゆい陽の光が差し込む。
「ふぅ……何とかなったな」
――そう、これはまだ始まりにすぎない。
空に浮かぶ世界〈アステール〉。
そのはるか下に眠る深雲海。
そして、そのさらに先に隠された、誰も知らない世界の真実。
これから語られるのは、
のちに“星雲の飛翔士”と呼ばれることになる少年の――。
壮大な冒険の物語である。
◇◆◇
「スカイ! いつまで寝てるの!」
「早く起きないと、朝ごはん片づけちゃうからね!」
……あぁ、またか。
目を開けなくても、声の主が誰かはすぐにわかった。隣に住む幼なじみの、マイルだ。
オレの両親は数年前に遺跡の研究をしてくると出かけて行ったまま帰ってこなかった。
それからマイルは、毎朝こうして朝ごはんを作りに来てくれる。
明るいピンクのミディアムヘアに、黒目がちな大きな瞳。気さくで、誰とでも分け隔てなく接する性格で、村の男子からの人気はけっこう高い。
「わ、わかったってば。今行くよ……!」
マイルを本気で怒らせると、後が大変だ。前に一度怒らせたときなんて、翌朝、朝ごはんの代わりに拳大の石が2つ置いてあった。しかも無言で……。
昨夜は興奮してなかなか寝つけなかった。
それはもちろん。今日は、〈星降りの儀式〉の日だからね。
オレたちが暮らすハイノ村では、十五歳を迎えると聖域へ行き、〈星石〉に“クラスの力”を宿すための儀式を行う。
星石は、この空に浮かぶ世界〈アステール〉で生きていくために欠かせない存在だ。
島と島をつなぐ交通手段として使われているのが〈飛翔船〉。その運用に、星石の力を使う。
飛翔士と呼ばれる操縦者クラス、戦闘系・医療系・クラフト系・料理系など、さまざまな職能クラスが存在する。
ほかにも、飛翔船の動力や制御にも星石は使われている。
「ご飯早く食べちゃってよね! 儀式に遅れちゃうよ!」
「わ、わかったって」
「ちゃんと噛んで食べるのよ」
「……はぁ、母さんみたいなこと言うなよ」
「いま何か言った?」
「……何でもないよ、いただきます!」
なんだかんだ、マイルの料理は美味しいんだよな。
――もぐもぐ……ごちそうさまでした!
◇◆◇
朝食を済ませて、オレはマイルと一緒に村長宅へ向かった。
今日はまず儀式の参加者が一度そこに集まり、順番に聖域へと出発することになっている。
本来なら全員一緒でもいいらしいけど、人数が多いときはグループ分けして出発するのが慣例らしい。
当初マイルは仲良し三人組の女の子たちと行くんだろうなって思ってたんだけど──
「スカイ一人だと、心配だから」って言って、オレとペアを組んだ。
オレは「一人で大丈夫だ」って言ったんだけど、あっさり却下された。
おかげで、村のみんなには微笑ましい目で見られてしまった。
◇◆◇
「時間じゃな。そろそろ、ガイは出発しなさい」
そう言ったのは、ハイノ村の村長・ムライさん。聖域への出発は、まず一人組から。
一人目は〈ガイ〉で魔獣ハンターの息子。
二人目は〈シモン〉村一番の商家の息子。
三人目は〈リューク〉で村長の孫。
四・五人目が〈リンとマリ〉で、元気な双子の姉妹で農家の娘。
最後に、オレとマイル。
◇◆◇
マイルとは家がお隣同士で、親同士も仲がよく、物心ついた頃からずっと一緒に過ごしてきた。
オレの両親は、空を飛びながら配達を生業にしつつ、古代文明の研究もしていた。仲間とともに、この世界〈アステール〉に残された古代の遺跡を巡っていたらしい。
……でも、ある日を境に帰ってこなかった。
調査に同行していた仲間たちが訪ねてきて、ある遺跡での調査中、二人が行方不明になったと聞かされた。
状況からして、誤って〈深雲海〉に落ちた可能性が高いらしい。
〈深雲海〉――それはオレ達が暮らす空島の遥か下、鉛色に渦巻く雲の海。今の科学や飛翔船では到底たどり着けない、未知の領域だ。
だけど最近の研究では、その深雲海の下にも空島があるとする古代壁画が発見されている。
かつては深雲海の先にも人が住んでいて、古代の人々は雲の層を越えて行き来していたんじゃないかと考える学者もいる。
だから、オレの夢は世界一の飛翔士になって、深雲海の秘密を解き明かすこと。
そしていつか、あの空の先で、深雲海に消えた両親を探し出すんだ。
「……どうかしたの? スカイ」
「いや。なんでもないよ」
「そっか。じゃあ、そろそろ行こ」
「ああ。頑張ろう、マイル!」
村を出て、整備された小道を進むのは、なんだか久しぶりの冒険みたいでワクワクする。
隣を歩くマイルも、鼻歌まじりにご機嫌だ。
「ねえ、スカイ。二人でこうして村の外を歩くの、久しぶりよね!」
「そうだな。外には〈淵獣〉が出るから、なかなか許してもらえないからな」
〈淵獣〉《えんじゅう》――それは、アステール全土で目撃される危険な魔物のことだ。
不思議なことに、村の中には決して入ってこない。
理由はいろいろな説があるけど……正直、誰にもはっきりとは分かっていない。
だから、みんな何となく「そういうもの」として受け入れて暮らしている。実際、困らないからね。
「淵獣が出ても、わたしが守ってあげるから心配しないで」
「いやいや、それはオレのセリフだろ!」
「あら?スライムで泣いてたのは、誰だったかしら?」
「その話、もう七年前のことだろ!」
「だって、スカイが成長してるように見えないんだもん。寝坊はするし、部屋の片づけも――」
「はぁ、オレが悪かったよ……」
マイルが勝ち誇ったように胸を張る。
昔から彼女は、オレのことを何かと気にかけて世話を焼いてくる。同い年なのにまるで年上のお姉さんみたいだよな。
そんな他愛ない会話を交わしながら、一時間ほど歩いたところで分かれ道にたどり着いた。
一つは、隣村のスミカ村へ続く道。もう一つが、オレたちの目的地――〈星降りの聖域〉へと向かう山道だ。
スミカ村は人口五百人ほどで、オレたちのハイノ村より少しだけ大きい。
島で唯一の空港もあって、外の島々への定期便が出ている。
オレもいつか、自分の飛翔船でこの空の外へ旅立つんだ。
『――今日の星降りの儀式は、その夢への第一歩だ』
そんな想いを胸に、オレたちは山道へと踏み入った。
◇◆◇
聖域へ向かう山道は、今までの舗装された道とは違い、両脇に木が生い茂っていて足元も悪い。草刈りも行き届いておらず、ところどころ白くて小さな花が、ひっそりと咲いている。
「みんな、順調に進んでるみたいだな」
「うんうん、みんな気合入ってたもんね!」
マイルも嬉しそうに頷く。
「マイルは、儀式に使う星石は現地で探すのか?」
「わたしは、おじいちゃんがくれた星石を使うつもり」
「そういえば、マイルのじいちゃん、変わったもの集めるのが趣味だったな」
「ほとんどガラクタだけどね……スカイはやっぱり、あの星石にするのよね?」
「ああ。両親がオレにプレゼントしてくれた、大切な星石だからな」
オレがいつも身につけている小さな星石。
それは、両親が古代遺跡で見つけて、オレへのお土産として持っていたものだ。
ふたりが帰ってこなかったあの日、この星石と一通の手紙が、荷物と一緒にオレの元に届けられた。
『私たちの大好きなスカイへ。いつも外にいてばかりで、構ってあげられなくてごめんね。
この星石は、古代遺跡で見つけた珍しいものよ。
今年は、あなたの誕生日に間に合いそうにないから、せめてプレゼントだけでも送ります。
喜んでくれると嬉しいな。
誕生日おめでとう! あなたのパパとママより』
それ以来、オレはこの星石を肌身離さず持ち歩いている。
いつか両親に再会して、「ありがとう」って伝えるために。
「スカイ、大丈夫?」
「ああ、ごめん。ちょっと思い出してただけ」
「きっと会えるよ。絶対、見つけようね!」
「ああ、必ず見つけるさ!」
◇◆◇
それからも、順調に聖域への道を進む。
「……ちょっと疲れたかも。休憩しない?」
「じゃあ、あの丸太に座ろうか」
同時に「ふぅー」と息をついて、顔を見合わせて笑う。
「もう半分くらい進んだかな?」
「二時間くらい歩いたし、たぶんそのくらいじゃないかな」
「――はい、スカイ。お水」
「ああ、ありがとう」
マイルから受け取った水を、一気に飲み干す。
季節は春とはいえ、舗装されていない山道はやっぱり疲れる。
先に出発したみんなも順調に進んでるみたいだし、オレたちも頑張ろう。
「よし、そろそろ出発しようか」
「うん! あと半分、がんばろー!」
マイルが元気よく気合を入れたそのときだった。
――ガサガサッ
山道の脇の草むらが揺れ、小さなウサギが飛び出してきた。
「……わっ、ウサギちゃんか。びっくりしちゃったよ~」
マイルが笑いながらそう言った。オレもちょっと驚いたけど、それは秘密だ。
けれど……ウサギの様子が何かおかしい。よく見ると、後ろ足を引きずっている。
「……えっ、片足が、ない?!」
血を流しながら逃げるウサギを見た瞬間、全身に寒気が走る。
「グラアァァァァァァッ!!」
そいつは、突如として現れた。
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