耳に翼を夜目に星を

「あなたは誰?」


 心霊スポットと名高い廃旅館の屋上で端正な顔立ちの女性が仰向けで寝転んでいた。精巧な翼のピアスが目立つ。星が照らしているとはいえ暗い。


「となると君は幽霊か」

「残念ね。私が流した噂よ。ここが心霊スポットなのは」


 適度に捲れた赤い外壁はここを心霊スポットたらしめていた。とはいえ、ここ数年で流れた噂だった。


「なんでそんな噂を?」


 仰向けのまま星を見つめる彼女に問いかける。彼女は顔を歪めた。風もないのに彼女の耳につけてある精巧な翼のピアスが揺れる。


「ここは綺麗に空が観れる場所だから。あなたこそなんでこんなところに」

「空が好きだから。昨日だって空を飛ぶ夢を見た」


 彼女は上半身を起こし私を見る。そして愉快そうな表情に変わる。


「今笑ったってわかったでしょう? 夜目がきくのね」

「なんでそんなことがわかる」

「あなたと同じ病気だからよ。耳を触ってごらんなさい」


 彼女に言われ耳を触ると何か柔らかい毛のようなものがついている。


「翼よ。それ。私と同じ。だから空が綺麗に見える。私たちは鳥なのよ。空に憧れてるでしょ」

「君も空に憧れが?」

「あるから見てる。嫌いなものを長時間見ないでしょう」

「私たちは鳥になるのか?」

「きっと。空を舞えるはず」


 彼女はそう呟くと、そのまま黙りこみ、そして羽根になった。一枚の綺麗な羽根に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る