第35話 追憶と幼馴染 2

「そういえば」と理央が切り出す。


「以前、君から頼まれたアルバムの件だが」

「ん? ああ」


俺じゃ気付けない違和感の正体を突き止めてもらおうと思っていたアレか。

―――最悪なことが起きて保留のままになっていたな。


「改めて君の家に窺おうか?」

「いや、それはダメだ」


きっぱり断ると、理央は「健太郎」と気遣うような顔をする。


「アルバムは持ってくるから、暫く預かってくれよ」

「分かった」

「悪いな、気付いたことがあれば何でもいいから教えてくれ」


構わないさ、と微笑み返してくれる理央に、今もまだ少し後ろめたい。

ごめん。

でも、有難う。


「それと、今週末は薫と二人で出掛けることにした」


理央はハッと真顔になる。


「そうか」

「おう」


けれど、今度は止めなかった。

俺の意を酌んでくれたんだろう。

薫の気が他へ逸れないから、今回は多分一週間後、俺はまた殺されるだろう。

それでも今度こそループを終わらせてやる。

俺だっていい加減薫に殺され続けるのはうんざりなんだ。


「頑張れよ」


励ましの言葉が胸にジンと響く。

理央、なあ理央。

見届けてくれ、今度こそやり遂げてみせるから。


「では、僕はまた弁当を用意しておこう」

「えっ、マジ?」

「おにぎり以外のレパートリーも増やしたいと思っているんだ、楽しみにしてくれると嬉しい」

「やったぜ! でも俺、理央が作ってくれるなら何だって美味いよ」

「お世辞は要らないよ」

「本当だって、何より気持ちが嬉しいからさ」

「そうか」


理央が俺のためにしてくれることは全部嬉しい。

ちょっとは愛情があるのかなって、勝手に思うくらいはいいよな?

この弁当も、こうして付き合ってくれるのだって、多少は好意があるからだろう、と思う。

まあ、そもそも男同士だ、期待なんてハナからしちゃいないが。


「なあ理央」


このタイミングで言うことでもないが。


「あのさ、その、この事が決着して、ループを抜け出せたら」

「なんだい?」

「その、俺とデートしてくれないか?」


理央は思いがけない様子で俺を見る。

さ、流石にデートって言い方はマズかったか?

二人で出掛けようって誘った方が無難だったか、ヤバい、引かれたかな。


「君とか?」

「お、おう」

「ふむ―――分かった」

「え?」

「いいよ」


いいのか!?

デートしてくれるのか、理央!


「頑張った君を労って、どこへなりとも付き合おう」

「ほ、本当か?」

「ああ」


いやっっっっっっっっっったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

デートだああああああああああ!

理央とデート! 理央とデートだ! よっしゃああああああああ!


「落ち着け、健太郎」


内心はしゃぐ俺を見透かしたように理央にいなされる。

か、顔に出てた? もしかして、ハハハ。

―――恥ずかしい。


「その前に、まずは為すべきことに集中したまえ」

「お、おお」

「気を抜くんじゃないぞ、いいね?」

「はい」


改めて真剣に頷く。

けど俺も健全な青少年、好きな相手とデートの約束を取り付けて、浮かれてしまうのも仕方ない。

うう、嬉しい。

手くらいは繋がせてくれるかな。

上手くいけばキスも、いやいや、流石にそれは、でもワンチャン、希望を捨ててはならない。

俺はいつだって前向きに物事を見据えるぞ、うん。


それにしても、やっぱりいい奴だよな、理央。

俺の巻き添えで酷い目に遭っても、こうして愛想をつかさず付き合ってくれる。

本当にいてくれてよかった。

―――好きだ、想いが溢れて止まらない。

もう性別なんて関係ない、そんなものとっくに些細な問題だ。

俺はお前だから好きなんだ、理央。


それから週末までの数日間。


俺は、毎度のループよろしく薫ファーストを心掛けつつ、昼休みだけは理央と過ごした。

理央は俺に週末の計画について何も訊かない。

信じて任せてくれている。

それが嬉しい、他愛ない話をして笑ったり、一緒に飯を食ったり、それだけのことが今の俺にはどれだけ貴重か、言わなくても理解してくれる。

かけがえのない貴重な存在、心の支えだ。

だからこそ二度と失いたくない。


今度こそループを終わらせよう。

また死ぬことになったとしても、次こそ俺は、薫を思いとどまらせてみせる。


―――そして。

遂に週末、薫とデートの日がやってきた。


「おはよう、ケンちゃん」

「おう、おはよう、薫」


隣の家の玄関先まで迎えに行って、薫と一緒に出発する。

空は快晴、絶好のデート日和だ。


「今日、晴れてよかったね」

「そうだな」

「ところでどこに行くの? そろそろ教えてくれてもいいでしょ?」

「うーん、まずは商店街の駄菓子屋だな」

「え?」

「それから俺達が通っていた小学校、中学校を見に行く」

「ええと?」

「あとは公民館、図書館にも行こう」

「ねえケンちゃん、それって」


俺達の思い出巡り。

そう、薫に答えて笑う。


「どうして?」

「まあ俺達何だかんだ高校まで一緒だけどさ、この先はどうなるかは分かんないだろ」

「うん」

「だから改めて俺と薫の歴史を辿っておこうかなーって」

「そう」


やっぱり気乗りしないか?

本当の狙いは俺が約束について思い出す切っ掛け作りなんだが、それはそれとして薫と懐かしい場所を巡ってみたい気持ちもある。

―――薫には辛いだろうか。

今からでも計画を変えるべきか、薫が好きそうな場所へ行ってリラックスさせてから話を聞きだす方が無難か?


「いいよ」


薫はニコッと笑う。


「思い出巡りか、楽しそう」

「おう、だろ?」

「でも意外だな、ケンちゃんがそんなこと言うなんて」

「なんでだよ」

「だってケンちゃん、昔の事なんか忘れたーってタイプでしょ? そういうロマンとは縁がないよ」

「失礼な」


俺だってロマンくらい理解する。

ムッとすると、薫はおかしそうにクスクス笑う。

まあでも、これなら当初の予定通りに進められそうだ。

思い出の場所を巡れば自然と昔の話になる、その流れで約束について何かしら触れる機会もあるかもしれない。

今回は無駄死にしないよう、慎重に立ち回らないとな。

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