第19話 期限と幼馴染 2
「それじゃ、今週末な」
「分かった」
「約束は俺の方で取り付けておくから、理央は当日八時に駅前集合」
「ああ、しかし電車か、乗るのは久々だ」
「そういやお前って登下校も運転手付きの自家用車だもんな」
むしろ電車に乗ったことがあるのが意外だ。
「理央坊ちゃま、お電車での移動は大丈夫でございますか?」
「問題ないよ」
「ご不明な点などございましたら、どうぞこのワタクシめを頼ってくださいませ」
「気持ちが悪い、君こそ調子に乗ってまた藤峰君に殺されないようにね」
「うぐッ!」
だ、ダイレクトアタック。
流石に直球過ぎるだろ、少しは手心を加えてくれ。
理央は立ち上がると手で尻の汚れを叩き落して、それから俺の頭を今度はぐしゃぐしゃッと雑に撫でまわし「じゃあね」と行ってしまう。
なんか、犬みたいに扱われたな。
まあいい、とにかく計画実行だ。
今回は理央も一緒、そういやあいつの私服が見られるのか、ちょっと気になる。
俺もキメていかないとな、笑われでもしたら心外だ。
あとは人選。
俺と薫、そして理央、そこに加わるとしたら。
うーむ―――やっぱりどうしてもワクワクしてしまう。
題して『ダブルデート大作戦』!
絶対に成功させてみせるぜ!
誘うのは、薫と既に仲がいい愛原以外の誰か。
計画としてはこうだ。
俺と理央は基本的に見守る立場で、同行した女の子と薫を仲良くさせるのが目的。
これが上手くいけば一週間後のデッドラインまでに、薫に仲のいい友達が一人増えることになる。
前回は前回で仲良くなりつつあった雰囲気だったけど、それじゃ遅いんだよな。
薫が友達と認識する相手が増えれば、また何かしらの変化が現れるはずだ。
それが俺に死の期限を乗り越えるチャンスを与えてくれるかもしれない。
そう信じよう。
いまだに約束の内容を思い出せない以上、引き延ばせるだけ引き延ばすしか活路を見出せないから、やるしかない。
昼休みが終わる前に教室へ戻り、今回はちゃんと授業を受ける。
放課後、薫と下校しながらそれとなく話題を振ってみると「行きたい!」って乗り気だ。
よしよし、流石薫だぜ、付き合いがいい。
「でもケンちゃん、いつの間に天ヶ瀬君と仲良くなったの?」
「まあ色々、あいつ結構いい奴だよ」
「そうなんだ、美人さんだもんね」
まさか薫、俺が理央の見た目に惹かれたとでも思ってるのか?
確かに俺好みの美人だが、奴は男だからな、そんなつもりはないぞ。
―――多分。
しかし、やっぱり薫は何も覚えていない。
ループを認識している俺と理央こそがおかしいような気さえしてくる。
最初と二度目に殺された皆も記憶を引き継いでいないようだし、本当に何なんだろうな、これ。
改めて不気味だが恩恵も大きい、複雑だ。如何ともし難い状況だ。
「ねえ、あと一人は誰が来るの?」
「それは当日のお楽しみ」
「分かった、ちょっとドキドキするね」
素直に楽しみにしてくれる薫は可愛い。
俺とお前のために、実りのある一日にしてみせるからな。
―――そして、翌日にあと一人誘い、無事オッケーを貰えた。
当日のプランも練りに練って準備は万全、対策もバッチリ。
理央とも秘かに連絡を取り合い、いよいよ当日を迎えた。
部屋のカーテンを開くと、空は快晴!
この上ない最高のダブルデート日和だ!
まずは隣家へ薫を迎えに行く。
家から出てきた姿は清楚で可憐でもう最高、お姫様みたいだ。
百万点、いや百億万点つけよう、今日も俺の幼馴染は世界一可愛い。
「ケンちゃん、おはよう」
「おはよ、薫」
「ねえ、服とか大丈夫かな、変じゃない?」
「大丈夫だ、今日もすっげえ可愛い」
「エヘヘ、ありがと」
もう一億万点追加で、マジで可愛い、何食ったらこんなに可愛くなるんだ?
―――こんな可愛い薫の手を、毎度俺は血で染めさせているのか。
約束、早く思い出さないとな。
あんな辛そうな薫の姿をもう見たくない。
「ケンちゃん?」
「あ、すまん、見惚れてた」
「もう!」
軽く頬を染めて、薫は俺の手を引く。
そのまま一緒に駅へ向かうと、既に到着して待っていた二人が俺達に気付いた。
「あっ! おーい、健太郎君、藤峰さーん!」
「おはよう虹川、早いな」
「エヘヘ、楽しみで早く着いちゃった、今日は晴れてよかったね」
「そうだな、絶好の遊園地日和だ」
何それ、って笑う虹川は薫に負けず劣らず可愛い。
これぞまさしく両手に花って状況だな。
そして理央だが。
うーん、決まっている、周囲の目を釘付けだ。
俺もまあ、そこそこ、負けない程度にはしてきたつもりだが、若干勝負になっていないような気がしないでもない。
まず素材の良さからして違うもんな、くそ。
でもやっぱり美人だ、うう、俺も釘付けにされそう。
「よう、理央」
「おはよう、藤峰君もおはよう」
「おはよ、天ヶ瀬君」
「今日はよろしく」
「こっちこそ、天ヶ瀬君と一緒に遊びに行ったなんて、皆が知ったら羨ましがられそうだよ」
「そうだよね」
虹川まで薫の言葉に頷いている。
俺はどうなんだ、俺は。
若干居たたまれなくなりつつ、改めて皆を先導して電車に乗りに行く。
行き先は郊外の遊園地だ。
面子に虹川を選んだ理由は、俺と薫のクラスメイトだから。
今日を切欠に仲を深めるなら普段から交流の多い相手の方が都合いい。
ちなみに清川は練習試合があるとかで誘えなかった。
虹川は人当たりいいし世話好きだから、薫ともすぐ仲良くなるだろう。
薫も虹川を気に入るはずだ。
「それじゃ、電車に乗るぞ」
「はーい」
「健太郎君、引率の先生みたい」
「本当だね」
薫と虹川が笑い合う。早速いい雰囲気だな。
そういや、この二人はともかく、理央は遊園地も初めてなんだろうか。
無事に自動改札機を通り抜けた理央にこっそり訊いてみる。
「ああ、初めてだよ」
「マジか」
「いけないかい?」
「いや、だったらお前も今日は楽しまないとだな」
理央はきょとんとして、俺を軽く睨む。
「君は、また」
「わ、分かってるって、それはそれとしてだよ、な?」
「フン、僕を気遣うくらいなら、今回こそは上手く立ち回ってくれ」
「了解了解」
「まったく」
呆れたような顔をして、けれど理央は不意にフフッと小さく笑う。
可愛い。
って違う! そうじゃないだろ、今日の主役は薫と虹川だ、しっかりしろ俺!
「ケンちゃーん!」
「健太郎君、天ヶ瀬君、電車来るよ!」
「お、おお!」
理央に「行こうぜ」と声を掛けて手を掴む。
大人しくついてくる理央と、薫と虹川と一緒に、電車に乗り込んだ。
さあ、いよいよダブルデート大作戦、開始だ!
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