第6話 スイスゾンビ 3

西暦3001年9月21日、第4次世界大戦が勃発した。

アメリカ、スイス、ルーマニアなど10か国の「虐殺国」と、ドイツ、ロシア、サウジアラビアなど12か国の「先攻国」とが対立した。


世界はすでに第三次世界大戦の後、かつてとは大きく変わり果てていた。

人類文明は数世紀退行し、人口も激減していた。

核兵器はもはや存在せず、人工知能もドローンも失われていた。


3001年9月21日、アルプス山脈のどこかにスイス軍が駐屯していた。

その夜、上等兵ブルーノ・バーゼルと一兵士ルドルフ・ホモセクスエル・ホーエンシュヴァンガウは歩哨任務に就いていた。


ブルーノはごく普通の軍人だった。家庭も友人関係も平凡であった。

ルドルフもまた平凡な兵士だった。強度の近視を抱えていたが、それ以外に異常はなかった。


二人は監視哨に立ち、時折退屈を紛らわすために会話を交わした。

ブルーノはルドルフよりも口数が多かった。


だが、ある瞬間、ブルーノは何も言わなくなった。動きもしなくなった。

ルドルフが心配して問いかけても答えない。


突如、ブルーノが泣き出した。

それは悲しみの涙ではなく、肉体の激痛に耐えかねた叫びだった。


口から血が流れ出し、ついには血混じりの嘔吐を繰り返した。

やがて嘔吐は止まったが、頭が震え始め、激しく左右に振られた。

首の血管は異様に膨れ上がり、まるで首輪を巻いたように見えた。


次の瞬間、顔面から何かが撃ち出されるように弾け飛んだ。

彼の顎が吹き飛び、頭部の裂け目からは巨大な鳥の嘴のようなものが生え出した。

それは嘴に似ていたが、内側にはぎっしりと牙が並んでいた。


ブルーノは苦悶の叫びを上げた。

口腔は変形し、人間の言葉はもはや不可能だった。

ルドルフは目の前の光景に混乱し、どうすればいいのか分からなかった。


ブルーノの体は膨張していた。軍服が裂けそうに膨れ上がっていた。

彼はかつて低い声を持つ男だったが、今は性別も分からぬ奇怪で弱々しい悲鳴をあげていた。


白目を剥き、血の涙と鼻血を流し続ける。

数秒後、その声は虎の咆哮と化した。


肉体は裂け落ち、新たな肉と骨が芽吹くように生まれ変わった。

他の部位は膨張し、異形へと変化していく。


ブルーノの頭部は、かつて地球に存在したドロマエオサウルス科の恐竜に似た姿へと変貌した。

口は裂け、無数の巨大な牙を晒し、瞳は漆黒の宝石のように輝いていた。


肉体は人型を保ちながらも、筋肉は人類の限界を超えて発達し、灰色の粗い皮膚で覆われていた。

口からは煙が漏れ出し、獣のように怒り狂って咆哮を上げた。


ブルーノは咆哮とともにルドルフの頭を喰い千切った。

防弾ヘルメットごと咀嚼もせずに飲み込み、絶叫と共に哨所を破壊して飛び出した。


その頃、ドイツ軍はアルプスを越えて進軍していた。

ドイツが先に攻撃を仕掛け、銃声が響き渡った。


ブルーノは銃声に引き寄せられ、藪をかき分けて戦場へと走った。

スイス兵の首を噛み砕き、銃弾を浴びても厚い皮膚は傷ひとつ負わなかった。

彼はスイス軍陣地を蹂躙し、そのままドイツ軍へ突進した。


数十名の兵士が一斉に発砲したが、数秒後には彼らの肉体はブルーノの牙により引き裂かれていた。


どんな武器もこの怪物には通じなかった。

ドイツ軍もスイス軍もほとんど喰い尽くされ、怪物は再び咆哮した。

口元に付いた血を舐め取り、彼は地面に穴を掘り始めた。

素手で岩を砕き、深く、さらに深く掘り進み、やがて眠りについた。


以後、アルプスを訪れた兵士は数多くいたが、その怪物を見つけることはなかった。


戦争は終わり、人類は再び歴史をやり直した。

ヨーロッパの多くの国々は絶対王政を採用した。

キヨグフ王国はかつてドイツ、スイス、フランス、オーストリア、イタリアと呼ばれた土地をすべて支配する大帝国となった。


アルプス山脈は広大な森と化した。



























ある日、森のどこかで、1000年前に死んだルドルフの死体が復活し、巨大な亀のような怪物の声を轟かせた。

その声は、洞窟で眠っていたブルーノと、彼に喰われ変異した小さな怪物たちを目覚めさせた。


深い眠りから覚めた彼らは、ルドルフの声のする方へと進んだ。

まだ半ば眠りに沈むブルーノは、ゆっくりと、極めてゆっくりと動き出した。

小さな怪物たちは素早く這い出した。


数時間後、ブルーノは気付いた。

自分たちと同じ怪物ではない、別の“何か”の存在を。

それらの声が聞こえ、興味に駆られて後を追った。


彼らの背中を見つめながら、着ている衣服に気付いた。

制服。

その光景にブルーノの胸に特有の感情が芽生えた。

それは怒りに近い感情だった。


獣と化したブルーノは抑制を知らぬ存在だった。

目前の二足歩行の者たちを片手で次々と気絶させ、その脚を踏み潰して砕いた。

小さな怪物たちも現れ、ブルーノに従った。


やがて、三人の人間だけが残った。

ブルーノは激怒した。理由は分からない。ただ怒りに包まれた。


今すぐ死体を一つ掴み、

叩き潰さねばならないと。

























To Be Continued.....

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