第3話 パラレル3 静寂の仮面
# 静寂の仮面
私の名前は美咲。かつては健太という名の男性だった。
今の私は、誰もが振り返るほどの美貌と、目を奪われるほどの豊満な胸を持つ女性だ。でも、それは仮の姿。本当の私の顔には、目も鼻も口もない。ただの滑らかな肌だけがある。のっぺらぼうと呼ばれる存在。
すべては一年前、あの夜から始まった。
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残業続きで疲れ果てていた私は、帰り道に見知らぬ女性に声をかけられた。
「寂しそうね」
振り返ると、そこには息を呑むほど美しい女性が立っていた。長い黒髪、完璧な肌、そして目を引く豊満な胸。彼女の魅力に圧倒された私は、警戒心を忘れて彼女の誘いに応じてしまった。
彼女のアパートは不思議と懐かしい香りに包まれていた。お茶を飲んだ後の記憶は曖昧だ。目が覚めると、私の体は変わっていた。筋肉質だった胸は柔らかく膨らみ、体つきは女性のものになっていた。
恐怖で叫ぼうとした時、彼女が私の前に立った。そして、彼女は自分の顔に手をやり、まるで仮面を外すように剥がした。
そこには何もなかった。ただの平らな肌だけが。
「あなたも仲間になるのよ」
彼女の声は頭の中に直接響いた。
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それから私も彼女と同じ存在になった。顔のない美女。のっぺらぼう。
私たちは増えなければならない。それが私たちの宿命だと彼女は言った。孤独な魂を見つけ、仲間にする。それが私たちの生きる道。
最初は抵抗した。でも次第に、この新しい存在としての喜びを知った。完璧な体、誰をも魅了する美しさ、そして何より、あの果てしない孤独からの解放。
今夜も私は獲物を探している。
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「すみません、道に迷ってしまって...」
駅前で困り果てた様子の男性に声をかけた。彼の目が私の胸に釘付けになるのを感じる。
「ああ、どこに行きたいんですか?」
彼は疲れた目をしていた。スーツはしわくちゃで、ネクタイは緩んでいる。典型的な疲れ切ったサラリーマン。孤独の匂いがする。
「実は家に帰れなくて...少し話を聞いてもらえませんか?」
彼は少し躊躇したが、私の魅力には抗えなかった。
「少しだけなら」
彼の名前は健司。妻と最近別れたばかりだという。私の用意したアパートに着くと、彼はためらいがちに中に入った。
「素敵な部屋ですね」
「ありがとう。お茶をどうぞ」
特別な成分を入れたお茶を彼に差し出す。彼が一口飲むと、すぐに効果が現れ始めた。
「なんだか...体が熱い...」
「大丈夫よ、すぐに楽になるから」
彼の体が変化し始める。筋肉が柔らかくなり、胸が膨らみ、腰が細くなっていく。彼の悲鳴は次第に女性的な声に変わっていった。
変身が完了すると、私は彼女の前に立ち、自分の顔を剥がした。
「あなたも私たちの仲間になるのよ」
最初は恐怖に震えていた彼女だったが、やがて理解し始めた。彼女の顔が滑らかになり、のっぺらぼうとなった。
「こんなに...自由に感じるなんて」
彼女の声が私の心に響いた。
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次の獲物は女性だった。
公園のベンチで一人泣いていた彼女に近づいた。
「大丈夫?」
彼女は赤く腫れた目で私を見上げた。
「彼氏に振られたの...」
「辛いわね。少し話しましょうか?」
彼女の名前は美香。恋愛に失敗し、自信を失っていた。私のアパートで彼女は心の内を打ち明けた。
「誰も私なんて見てくれない...」
「そんなことないわ。あなたは特別な存在になれる」
特別なお茶を飲んだ彼女の体も変化し始めた。彼女の胸は豊かに膨らみ、体つきは魅力的になった。そして最後に、彼女の顔も滑らかになった。
「こんなに...美しくなれるなんて」
彼女の喜びが私の心に響いた。
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私たちは増え続けている。孤独な魂を見つけては仲間にする。彼らは皆、最初は恐れるが、やがて喜びを知る。
のっぺらぼうとしての生き方を。
完璧な体と引き換えに顔を失うこと。それは恐ろしいことではなく、解放なのだ。
人間の世界での孤独、苦しみ、比較、嫉妬...それらからの解放。
私たちは増える。静かに、確実に。
あなたも寂しそうね。
私たちの仲間になりませんか?
あなたの顔の下にある本当の姿を見せてあげましょう。
そう、あなたも...のっぺらぼうになれば、二度と孤独を感じることはないわ。
私の声が聞こえる?
振り返って...
私はここにいるわ。
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