雪国の見守り人・外伝(2) -若き気象予報士のディレンマ-

風雪詩人

第1話 夕方のニュース番組

 山形県の置賜おきたま地方、吾妻あづま山の麓に広がる米沢盆地。冬の夕暮れ、雪が静かに降り積もり、街灯の光が白い息に滲む。凍てつく街中を抜ける一本道の通りに、民間気象会社・置賜予報センターがある。


 田上たがみ健次郎けんじろうは、この会社の若手気象予報士だ。毎夕、地元のニュース番組「イブニングニュースOKITAMA」の気象コーナーを担当する。番組は、地域の出来事や事件、ちょっとした話題を紹介したあと、終盤にさしかかるとおなじみの「天気予報」コーナーに入る。ここが、田上の出番だ。



 まずは「今日の空の映像」。放送局のスタッフがその日中に撮影した、置賜各地の空模様が映し出される。青空に浮かぶ雲、吹雪の街並み、霧が立ち込める山々――日常の空が、田上のナレーションとともに流れる。



 続いて「明日の概況」。ここでは、気象庁のスーパーコンピュータによる予測データをもとに、雨雲や寒気の動きをCGアニメーションで視覚化した映像が使われる。


 以前のニュース番組の天気予報と言えば、天気図を使って等圧線や前線の配置から解説を試みるスタイルが多かった。しかし、最近は「見た目のわかりやすさ」が重視され、CG映像に取って代わられているようである。



「明日の概況」の後は、エリア内・主要5地点の「明日の予報」。3時間ごとの天気、気温、降水確率がテロップで表示され、田上がそれに沿って解説する。



 最後は米沢を代表地点とした「週間予報」。こちらも、天気・最高気温・最低気温・降水確率を淡々と紹介する。



 しかし、これらのデータの提供元は、大手気象会社だ。コンテンツは番組用にあらかじめ整えられ、放送局に送られてくる。つまり、天気予報でありながら、田上自身が直接予測を組み立てる余地はほとんどない。彼はただの「伝書鳩」に過ぎなかったのだ。


 そのことに、田上は少なからず不満を抱いていた。気象予報士として、もっと自分の言葉と判断で空を語りたい――そう思いながらも、立場上それを表に出すことはできない。



 ただ、ひとつだけ、を出せる余地がある。コーナーの最後、番組の余白の時間に入る「お天気ワンポイント」だ。地元の気象現象や季節の話題を織り交ぜ、田上の情熱が光る瞬間。


 SNSには「田上さんのワンポイント、いつも楽しみ!」「地元ならではの情報助かる!」と声が寄せられる。彼はこのコーナーに心血を注いでいた。視聴者の小さな反響が、雪国の寒さの中でも彼の心を温めた。



 一方、『イブニングニュースOKITAMA』の番組ディレクターを務めるのは、この放送局の元記者・山下やました直樹なおき。事件取材の現場から番組制作に異動した彼にとって、気象情報の世界は未知の領域だった。天気図も専門用語も、最初はさっぱりだった。


 それでも、彼には心強い相談相手がいた。かつての取材現場で知り合った気象予報士・「おやっさん」こと高峰たかみね哲四郎てつしろう。番組の外ではこっそりと彼に助言を求めつつ、山下は何とか天気コーナーをディレクションしていた。



 日々の天気が当たり前に感じられる地方都市の夕方。だが、その裏には、空を伝える者たちの、ささやかで確かな葛藤と情熱がある。

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