夏の終わりを告げる花火

『台風17号「マチマチ」が関東圏に接近しております、皆様くれぐれも身の安全を第一に行動してください。繰り返します、台風17号「マチマチ」が関東圏に接近しております...』

「あ〜あ!せっかく夏休み最後は花火大会で締めようと思ってたのにな〜」

「流石にこの雨雲じゃ中止じゃないかしら、運営はギリギリまで粘るっぽいけど」


 花火大会、あたし達が住んでいる市で行われる最後の一夏を感じられるイベントなのだが、あいにくの台風接近で中止もやむなしといった様子でみーちゃんはいそいそとてるてる坊主を作り始めていた。


「ミナミ様それはツリツリ坊主ですか?」

「つり、なんだって?...違う違う、これはてるてる坊主だよ!」

「ツリツリ坊主ではないのか?」

「そのツリツリ坊主?...ってなんなのよ」

「首を吊ってるように見えるからツリツリ坊主だ」

「物騒すぎる!なんか吊るしにくくなってきた...」


 わかるわかる、あたしも最初聞いた時はびっくりしたもん。ちなみにそれを逆さまにした引き回し坊主もある、言わないでおくけど。


「はあ〜仕方ない...やるか」

「ナギ?」「ナギねえ?」


 十年ぶりの花火大会がこんな事で中止になるなんて嫌だ、あたしだって結構楽しみにしてたんだぞ!

 ベランダに出て雨粒を感じながらも台風の場所を確認する。


「向こうか」


 本来はこういう力の使い方は良くないけど一大事だししょうがないよね。

 呼吸を整え拳を台風の方向へと振り上げるとついさっきまで黒かった空が天色へと姿を変えた。


「よし、これなら花火大会は出来そう」


 浴衣は流石にサイズは合わないからいつも通り変装しよう、っとその前にシャワーかな結構濡れちゃったし。

 久々の全力を出したから少しだけ体が重い、けれど別に大した影響はない。家の中へと入るなりアイリスからタオルを受け取って濡れた髪を拭った。


「アイリス、あたしこのままお風呂入る」

「かしこまりました、着替えはどうしますか?」

「いいよいいよ、自分で準備する...「ちょーーーっと待って!!」から...なに?」

「何じゃないでしょ!なによ今の!?」

「なにって台風をぶっ飛ばしただけだよ、ほら」


 テレビの方を指差すとお天気のお姉さんが驚いた表情で「えっと、台風が...消え...ました...」と、開いた口が塞がっていなかった。

 ははっ、放送事故みたいになってるじゃん。


「ぶ、ぶっ飛ばした?台風を?」

「うん、あたしもみんなも花火大会楽しみにしてたしね、台風如きに邪魔されるなんて許せないもん」


 子供の頃イベントが雨で延期や中止になってた時に、「あの雨雲を消し飛ばせたら便利だよね」なんて思っていた。

 昔は無力だったが今は力がある、あたしをここまで強くしてくれた師匠には本当に感謝している。ありがとう師匠!フォーエバー師匠!


「はぁ〜、吸血姫にウサ耳のメイド...さらには妹の人外っぷり、なんか色々と疲れてきたわ。ひょっとしたらおかしいのはわたしなのかしら?」

「お姉ちゃんは正常だよ、安心して!」

「...時間まで寝るわ、多分決行するでしょうし」


 そう言うと、お姉ちゃんはフラフラと自分の部屋へと戻っていった。


「教師の仕事は疲れが溜まるんだね」

「違うと思うよ...」


 みーちゃん、そんなあんたが悪いみたいな目であたしをみないでよ、あたしが何したって言うのさ。

 妹の何か言いたがな目線を背に逃げるように洗面所まで来ると着替えを準備してくれていたアイリスが鏡で浴衣を合わせていた。

 彼女はあたしに気づくや否や、すぐに謝って出て行こうとしたが手を掴んで引き留めた。


「し、失礼しました...」

「アイリスもお祭りに行きたいんでしょ?」

「い、いえ、わたくしはここでお留守番していますので...!」

「ダメだよ、アイリスも行くよ!」

「わ、わたくしは...その、こんなですし...わたくしなんかが行ったら迷惑を...」

「そんなこと考えなくていいから、エルの魔法を使えばチョチョイのチョイよ」


 やはり魔法、魔法は全てを解決する!

 エルもアイリスに甘いところがあるから頼めばやってくれると思う。


「早く着替えてきな?着付けはみーちゃんが手伝ってくれると思うから」

「ナギサ様、ありがとうございます!」


 彼女は嬉しそうに洗面所を後にして、あたしは濡れた体を洗い流してリビングへと戻った。


「ナギサ様見てください!似合いますか?」


 エルの魔法で耳が消えてあたし達と何ら変わらない人の姿になったアイリスは月の模様が入った浴衣を着て楽しそうだった。


「似合ってるよアイリス、なんかメイド服じゃないから新鮮だね」

「ナギねえ、美波は?似合ってる?」

「似合ってる似合ってる、みーちゃんらしいよ〜」

「0点!」

「なんで!?」

「ダメだよそんな褒め方は!もっと...こう...あるじゃん!」


 妹がめんどくさい彼女みたいなことをいいはじめたんたけど。褒めるったって、綺麗とか似合ってる以外なくない?

 あたしの語彙力じゃこれが限界だ。


「フフン!凪沙よ、妾はどうじゃ美しいだろう?」

「エルって感じがしてとてもいいよ」

「なんか雑じゃないか!?」


 浴衣の褒め方なんかわからんって...


 閑話休題あたしは普通の私服


 無事開催できた花火大会の会場へと移動したあたし達、みーちゃんは高校の友人とお姉ちゃんは先生として見回り、お母さんは来賓席に用事があるかとそっちに行ってしまった。残ったあたし達は花火までが時間があったため屋台を楽しむことにした。


「何からやる?」

「あれはなんだ?」

「射的だね、アレで撃って倒れた商品が貰えるってやつ」


「やってみる?」と聞くとエルは頷いて射的のところへ行きおっちゃんに説明してもらいながらコルクを詰めてお菓子目掛けて標準を合わせた。


「ほっ!」


 掛け声と同時に引き金を引いたが狙いのお菓子に当たることはなく横へと逸れてしまった。


「残念だな〜、あと二発だぜ?」

「ハッ!二発もあれば充分だ!」


 土台に体を乗っけて前屈みになり距離を詰めて今度は外さないように標準を合わせて発射させたが倒れることはなかった。


「なっ...!?」

「ああ〜惜しいな〜、あと一発だぞ?」

「ふ、不正しておるだろ!」

「人聞きの悪いことを言うなよお嬢ちゃん、いやなら今すぐ辞めて貰ってもいいんだぜ?」

「ぐぬぬ...!ならこの一発で全部倒してやるぞ!」


 ムキになってしまったエルが最後の弾を入れていくのを横目にアイリスがボソッと耳打ちをしてきた。


「ナギサ様、下の方に...」

「わかってる、全く治安が悪いな相変わらず...」


 案の定、最後の一発は虚しく地面へと転がった。


「あぁ〜残念、じゃあ次はそこの赤い姉ちゃんがやってみるか!」

「いや、あたしがやるよ。いいよね?」

「...構わねえが、あんた何処かでみたことあるような?」

「さあ、他人の空似じゃないかな?」


 エルは一つも倒せなかったのが悔しかったのか涙目になりながらアイリスに慰められていた。


「わらわのオヤツ...」

「今度、大好きなクッキー作ってあげますよ」

「むお!ほんとうか!」


 ずいぶん安上がりな吸血姫だな、でもクッキーだけじゃ物足りない、どうせお茶会をするならお菓子のレパートリーは多い方がいいよね?


「さ、帽子の嬢ちゃんは倒せるかな?」


 このゲームには必勝法がある...それは客としてきた女の子達を隠し撮りしているゲス野郎を撃てばいい。


「ほい」

「いだぁ!!」


 あたしが狙ったのは景品棚に潜んでいた盗撮男だ、その男は突然狙われて驚いて体を上げたため棚に当たりあたり一面に景品のお菓子が地面へと落ちた。


「お、お前何してんだ!」

「いったた...か、カメラが...!!」

「ラッキー全部倒れた、じゃ貰ってくね」

「待て、全部はやめろ!」

「好きな方を選ばせてあげる、このまま逃げるかそれとも病院にお世話になるか、どっちがいい?」


 足元に落ちているカメラを踏みつけ睨みつけた。


「「ひ、ひいー!!!」」


 怖くなったのか男達は屋台ほっぽり出して人混みをかき分けて逃げていった、周りの人たちもポカンとしているが気にすることなく他の場所へと移動した。


「ん〜大量大量!」

「次は焼きそばでもいこ、お腹減っちゃった」

「妾、りんご飴が食べたいぞ!」

「いいね〜、アイリスは?」

「あの白いフワフワが食べたいです!」

「フワフワ...ああ、わたがしね。いいね」


 三者三様に買って食べる、立ちながらではあるけどこれも祭りの醍醐味だ。


「屋台の焼きそばいつもより百倍美味しく感じるんだよね」

「これもなかなか美味であるぞ!」

「甘くてフワフワでとっても美味しいです〜!」

 十年ぶりに楽しむ花火大会はとても楽しい、本当に帰ってこれてよかった。こんな楽しいことは向こうにいるみんなともいつか出来たらいいな。


「喉が渇いてきたな」

「何か買ってきなよ、あたしここで待ってるから。アイリスもついていってあげて一人にすると心配だから」

「かしこまりました、何がいいですか?」

「んー、ラムネ!」


 二人は近くの屋台で飲み物を買いに行ったの見送ったのと同時に見回りをしていたお姉ちゃんと再会した。


「あら、ここにいたの?」

「おねえひゃん」

「飲み込んでから喋りなさい」

「あれ?一ノ瀬先生の妹さん?」

「おっきい、モデルさんですか?」


 隣の二人は、同僚の人かな?


「わたしの同僚の熊谷先生と今田先生よ」

「んく...初めまして、一ノ瀬...」


 待てよ、とあたしは考えた。

「このまま自分の名前を言っていいのか?」と。

 今のあたしは不本意ではあるが有名人だ、もしこれでお姉ちゃんに迷惑がかかったら...


「紹介しますね、わたしの妹の一ノ瀬凪沙よ」

「「...ええ!?」」


 色々と誤魔化す方法を考えていたのにお姉ちゃんは構わず二人に見せびらかすように被っていた帽子をとってあたしの肩を掴んだ。


「ちょっとお姉ちゃん?いいの!?」

「わたしの自慢の妹を教えただけよ?」

「でも、そんなことしたら...」

「わたしにとってはあなたを隠すようなマネをする方がイヤ、迷惑とか考えなくていいから堂々としてなさい」


 あっ、やばい泣きそう。

 ひょっとしたらあたしは考えすぎなのかもしれない。


「あ、あの握手とかいいですか!」

「ほ、ほんもの...!!本物ですよね!?!?」

「ごめんなさい、少しだけ声のボリュームを下げていただけると。プライベートなので」


 あたしは国民的女優か!?何言ってんだろ。

 感極まっているからか言葉が上手く出てこなかった。

 それぞれ握手すると「もう手を洗いません!」なんて言っていた。だからアイドルの握手会じゃないんだよ。


「そろそろ時間ね、じゃあナギまた後でね」

「うん、えっと今田先生、熊谷先生、お姉ちゃんをお願いしますね」

「あなたもお気をつけて」


 三人と別れると飲み物を片手にアイリスとエルが戻ってきて「何かあったのか」と聞いてきたが、さっきまでの事を話した。


「よかったではないか、まあ妾達を受け入れた時点でな」

「いい家族を持ったのですね」

「あたしの自慢の家族...その中には二人も含まれてるからね?」

「わたくし達も...ですか?」

「そりゃそうでしょ、それともあたし達と家族はイヤ?」

「い、いえ!その、家族なんて初めて出来たので嬉しいです!」


 家族は勿論、エルとアイリスにはなるべく幸せに生きてて欲しい。

 ラムネで喉を潤そうと上を見ると夜空を照らす光がその場を覆った。


「うわ〜、こんな綺麗なものは見たことないぞ!」

「これが花火!綺麗ですね〜!」


 始めての花火を見る二人を見ているとますます幸せになって欲しいと心から願う、ずっと向こうで辛い思いをしてきた二人を見てきたあたしだからこその想いだ。


「ずっと一緒にいられたらいいのにな...」


あたしの願いは空に溶ける花火と共に消え去った。

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