第15話 喧嘩
「え……?」
「私も、精霊術を覚えたい。戦えるだけの力が欲しいの」
覚悟は決めた。いや、昨日悪霊と対峙した時にはすでに、心のどこかで覚悟はしていたのかもしれない。
「悪霊たちのせいで、おばあちゃんみたいに被害が出る可能性があるのなら、そんなの放っておけない。しかも……封印が解けたことに、私が関係しているのなら……。私は、その責任を取る必要がある」
「夜雲さんに罪はありません! 仮に関係していたとしても、貴女は被害者です! 責任を感じる必要などありません!」
「ありがとう。でも、これは私の気持ちの問題よ。じゃあ、逆に聞くけど、ジュンナはどうするつもりだったの?」
「それは……」
ジュンナはこの後の発言で自身が不利になることをわかっているのか、苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
「私は……少しずつでも、悪霊を祓っていくつもりでした……」
「しかも、一人で、でしょ? ジュンナが戦ってくれているのに、それを気にせずのうのうと過ごすなんて無理よ!」
「私は良いんです! 精霊術師として、こんな状況放っておけません! それに、これが精霊術師の使命でもあります!」
ジュンナは意外にも声を荒げて言い返してくる。
「だから、私も精霊術師になるって言ってんの! 放っておけない気持ちは同じよ!」
「危険です!」
「そんなのわかってるし、一人で戦おうとしてるジュンナに言われたくない! 戦力は少しでも多い方が良いはずよ! この体質なら、きっと役に立てるわ!」
「だからと言って、貴女が危険を犯すのは認められません!」
「さっき、私にも背負わせてくれるって話になったでしょ!」
「そ、それは話を共有するところまでです!」
「はぁ!? そんなの屁理屈よ!」
静かな神社に、二人の息切れが溶けていく。
こんなに感情的になって人と言い争ったのは初めてだ。互いに一歩も譲らず、このまま続けても話は平行線のままなのが容易に想像できる。自分が頑固で負けず嫌いな性格だということは自覚していたが、意外なことに、ジュンナも同等かそれ以上に似た性格なようだ。
私は一つ妙案を思いついた。ジュンナには悪いけれど、彼女を説得するには、少し卑怯な手を使うしかないのかもしれない。
「……ジュンナが精霊術を教えてくれないっていうのなら、仕方ないわね……。もし悪霊を見つけたら、なんの抵抗手段も持たず、丸腰で戦っちゃうかも。こんな体質なんだもの、悪霊を探すことくらいできるわ」
「……夜雲さん、それは卑怯です……。恩を仇で返すような真似はしないのでは……?」
大袈裟な手振りも加えつつ、挑発するようにそう告げた。
ジュンナは声を荒げて言い返すことはしなかったが、もう不満を隠す気もないらしい。
優しくて綺麗だった目も、今は私を鋭く睨みつけてくる。
「こうでもしないと、ジュンナ折れなさそうだしね」
「およそ人に教えを乞う人間のやることとは思えませんね……」
「それだけ覚悟してるってことよ。どうしても、これ以上被害は出したくないし、ジュンナが一人で危険な目に遭うのも見たくないの。なんでもするし、絶対に足は引っ張らない」
ダメ押しと言わんばかりに、私は地面に手と膝をついた。
「な!? 夜雲さん、何を……」
「……お願いします。私に、精霊術を教えてください」
額すらも地面につけて、誠心誠意の土下座をした。
誰かの役に立つための力、それが手に入るのなら、これくらいなんてことはない。相手がジュンナなら尚更。ここまでしてダメだったら、もう殴り合いの喧嘩をするしかない。
「や、やめてください! 私、そんなつもりでは……」
「無理」
「わかりました!夜雲さんの気持ちは十分伝わりましたから!顔をあげてください!」
「じゃあ……!」
「……っ、私の負けです……。精霊術を教えます……」
顔を上げると、ジュンナも膝をついて私と目線を合わせてきた。その目には、困ったような怒っているような、複雑な感情が見てとれた。
「その代わり、決して無茶はしないと、約束してください。それが条件です」
「も、もちろん! 約束する!」
差し出されたジュンナの手を取り、支え合うようにして立ち上がった。
「全く……夜雲さんがここまでするとは思いませんでした……」
「私だって、土下座なんて初めてしたわよ。昨日、ジュンナに土下座されたからね。これならジュンナ折れてくれるかなって」
「薄々感じていましたが、夜雲さんって結構頑固ですよね」
「それはお互い様よ」
やっぱり、私たちはこの短い時間で濃い体験を共有し過ぎだと思う。
いつの間にか、太陽が御神木の真上にまで昇っていた。
温かい日差しに照らされ、私たちは微笑み合うのだった。
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あとがき
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