羊、5

 ふかふかの草の上、今日もわたしは丸まっていた。

 けれど、いつもと違って周囲はざわついている。

 遠くから大勢の足音が響き、重い鎧やローブの音が近づいてきた。

 あの神聖術庁の連中と冒険者ギルドの者たちだ。


「ナイトメア・ラムの討伐は我々神聖術庁の使命だ!」

「いや、希少種として保護すべきだ!むやみに攻撃してはならない!」

「七大罪の魔物を野放しにするわけにはいかぬ!」

「討伐隊に支援を要請する!」

「冒険者ギルドも協力しろ!」


 声はどんどん大きくなり、険悪な空気が周囲に充満していた。

 わたしはそんな喧騒をぼんやり聞き流しながら、うとうとしていた。


(……また面倒なことが起きてるなあ……)


 彼らは目の前で激しく言い争い、剣を抜き、魔法を準備し始めた。

 まるで何か大事件が起きたかのように見えたが、わたしにはよくわからなかった。


(まあ、私は寝てるだけだから関係ないか)


 しばらくして、神聖術庁の指揮官が高らかに声を上げた。


「動け!ナイトメア・ラムを確保しろ!」


 その声とともに、武装集団が一斉に動き出した。

 わたしは重たいまぶたをゆっくりと開ける。


(そろそろ起きるか……)


 そして、ふわりと体を起こし、ふかふかの草からゆっくり浮かび上がった。

 そう、まだ使っていなかったスキル「低空飛行」を初めて使う時だ。


 ふわふわと空中を漂う感覚は予想以上に気持ちがよく、思わず笑みがこぼれた。


「な、なんだと……?ナイトメア・ラムが飛んだぞ!」

「嘘だろ……まさか魔物に飛行能力があったとは!」


 冒険者ギルドの者たちも驚きを隠せない様子だった。


(よし、ついでに新しいスキルも使ってみよう)


 わたしは深く息を吸い込み、スキル「眠気爆発(エナジースリープ)」を発動した。


 爆発的な眠気の波動が辺り一帯に広がる。

 周囲の敵は次々に目をとじ、よろよろと倒れていった。


「うっ……この眠気は……!」

「耐えられん……ぐう……!」

「七大罪怠惰の魔力……これが……!」


 彼らの必死な叫びも、わたしには遠い世界のことだった。


(ふふん、これは使えるかも)


 そうして、わたしはゆるゆると風に身を任せるように漂い始めた。


「こんな騒ぎはもういいや……森のほうへでも行ってみよう」


 風は次第に強まり、わたしを魔物が跋扈する深い森のほうへ運んでいった。

 そこは人の手がほとんど届かない危険地帯だったが、わたしは気にしなかった。


(めぇ……Zzz……)


 ゆるゆるとわたしはまた眠りの中へと沈んでいった。


 神聖術庁の高位術士たちは眠らされた状況に激怒し、討伐隊の増強を決めた。

 冒険者ギルドは希少種保護の立場を堅持しつつ、新スキル出現の研究に動き出す。

 二つの勢力の緊張は高まるばかりだった。


 けれど、それらはすべて、わたしには無関係な世界の出来事だった。


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