歪な愛

俺は今2人の女と付き合っている。本命が日下日菜くさか ひなで、今んところの二番手が有沢怜奈ありさわ れいなだ。


日菜はかの有名な日下財閥の一人娘で、このまま結婚すれば一生遊んで暮らせることが確定してるようなもんだ。怜奈もまあまあいいトコの嬢ちゃんで、男性経験が無かったため簡単に落とせた。


まぁ、アレだ。どっちに転んでも紐が確定ってわけだ。でも俺的にはやっぱり日菜と結婚して日下財閥の当主にでもなる方がいいと思ってる。もうこの会社に新卒で入って3年目だし、もう25歳だし、もうそろそろ身を固めたいところだ。



「……くん、いつきくんってば」

「ああ、悪い悪い、ちょっと考え事しててな」

「早くしないとステーキが冷めるよ?」


今日は日菜とデートに来ている。今日も日菜の奢りでホテルのディナーに来てA5ランク和牛のステーキをご馳走になっているところだ。


「樹くん、その……」

「ん?」

「食べ方、もうちょっとこう、綺麗に……」


「ごめんな、俺育ちが貧乏で、テーブルマナーも教えてもらえなかったんだ」

「樹くん……。ごめんなさい、辛い過去を思い出させてしまって」

「いや、日菜だからいいんだよ」


そう談笑しながらステーキを味わっていると、聞き慣れた、でもここで聞くことはないはずの声が聞こえた。


「え……樹くん?」

「れ、怜奈!?」

「樹くん、その女性は……」


やべぇ……どう言い訳すればいい?そこで、日菜がスッと立ち上がった。


「私は、ここにいらっしゃる倉川樹くらかわ いつきさんとお付き合いをしている日下日菜と申します」

「申し遅れました、有沢怜奈と申します。ところで、お付き合い……?私も樹さんとお付き合いをしているのですが……」


ここでふたりは顔を見合わせ、俺の方に向き直って言い放った。



「「どういうことですか、樹さん?」」



「え、ええと……これはその……」

「はぁ……つまり二股していた、という認識であっているでしょうか?」

「ひ、日菜……そんなこと言うなよ、怜奈コイツが嘘をついてるんだよ」


何が何でも日菜を手放すわけにはいかない。だってコイツは俺の恋人ATMなのだから。


「見損ないました、樹さん」

「日菜さんのおっしゃる通りです、樹さん」

「や、やめてくれよ日菜、そんな薄情な……!」



「「樹さん、別れましょう」」



「う、うわああぁぁ!お、俺のATM……!」

「……ATM?日下財閥も舐められたものですね」

「有沢家を見くびらないでくださいね、樹さんクズ野郎



なんで、なんでなんでどうして!俺は一体どこで間違えた!?


ああそうか、コイツらは俺を見下して嘲笑っているんだ。俺がのに。


「……許せない」



許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない



「はは……死にやがれ、このクソアマ」


俺はステーキ用のナイフを手に取り、背を向けて歩きだしたクソアマどもに刃を向け走りだした。


ははっ、俺を見くびるからこうなるんだ。ざまぁ、クソ女。



「はは、ははははは!」



ナイフを背に突き刺そうとした瞬間、視界がぐるっと回った。


次の瞬間には、俺は床に叩きつけられていた。



「なん、で……」



「こういった事態も想定して、日下財閥で護身術は習っていますのよ」

「有沢家もそうですわ」

、これはれっきとした殺人未遂です」


「ま、待ってくれ……!」

「警察を呼びますね」

「ひ、日菜、怜奈、許してくれ……!俺は、お前らをこんなにも愛してやったのに!」



「「今度こそさようなら、倉川さんクソ男」」




近づいてくるサイレンの音を聞きながら、俺はその場に崩れ落ちた。

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