褒め上手ですねって廃屋が笑う夜
モ
斜め隣の家の人から聞いた話
「最近、あの空き家から声がするんだよ」
斜め隣の家主である山田さん(仮名)は、そう言って目を細めた。
その空き家は奥まった場所にあって、もともとは近くに住んでいる人の親族が住んでいた。
数年前までは高齢のご夫婦が暮らしていたが、旦那さんが亡くなり、奥さんもその後病院で息を引き取った。
それ以来、人が住むことはなくなった。
最初のうちは月に一度ほど親族が手入れに来ていたそうだ。草刈りや掃除がされていて、まだ生きている家だった。
だが、半年ほど前から誰も来なくなり、雑草が膝丈まで伸び、庭は荒れ放題になった。
雨が降ると玄関先はぬかるみ、2階の窓には雑にブルーシートが貼られている。
「いよいよ取り壊すのかねぇ」と山田さんは語っていた。
そんな折、夜になると、妙な声が聞こえるようになった。
「笑い声とか、歌ってる声とかさ。最初は風の音かと思ったけど、違うんだよ」
山田さんは最初、幽霊話の一つだろうと笑い飛ばした。
だがある晩、ゴミを出しに外に出ると、確かに聞こえたという。
「褒め上手ですね〜」
女の声だ。
「モテモテって何〜」
女の声だ。年齢はわからないが、若くはなさそうなトーン。
山田さんは怪訝な表情を浮かべながら語る。
「一人でしゃべってるんだよ。しかも夜中の1時とかにだ、明け方にも聞こえたことがある」
薄気味悪そうに腕を組みながら語る。
「まだ幽霊の方がマシだと思うよ、本当」
空き家の方向を見ながら眉を八の字にしてポツリと言った。
「不気味なのはね、あの空き家の鍵は閉まってるはずなんだ。誰が入ってるんだろう」
山田さんは、最近空き家の前を通るときは少し足早になるのだという。
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それから、しばらくして「それ」の正体を見たようで、山田さんはポツリポツリと語り始める。
「夜だったかな、普段見ない軽が空き地に止まってたんだよ」
この辺りは田舎で、見知らぬ車が止まっているとすぐにわかる。
実際私も山田さんの家の敷地に駐車させて頂いたが、玄関先で立ち話をしている時に近隣の住民から好奇の視線を向けられた。山田さんが説明してくれなかったら不審に思われていただろう。
「駐車してあった軽から疲れてそうな若い女が出てきてさ、懐中電灯と何かを持って空き家に近づいていくんだよ」
山田さんはまるで排水溝に溜まったゴミを見る目をしながら「それ」を語る。
「空き家の鍵持ってたみたいでさ、鍵開けて入って行った」
やがて、誰かと会話しているような声が、空き家の奥から滲んで聞こえてきた。
山田さんは日付が変わる前に寝たらしいが、夜中の3時にトイレに起きたとき、まだその声は笑い続けていた。
「あれは幽霊じゃない。だけど、何をしてるのか想像もしたくないんだよ」
山田さんはそう言って、ふと背後を気にするように視線を外した。
「朝になってさ、散歩しようと思って外に出たら、軽に向かっていく眠そうな女を見たよ」
その表情は満足そうだが、どこかせつなそうだったという。
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