第一夜

始まりの死

第1話




  魔法少女。それは、突如として現れる怪物と呼ばれる化け物を、特殊な変身道具や言葉などを用いて変身し、人々を守る存在。



  どれだけピンチになろうとも、力尽きるその最後まで抗い続け、最後には仲間と共に笑って勝つ。全国の女の子達が一度は憧れ夢を見る、それが、魔法少女だ。




  かく言う俺、『甘乃香あまのか 夜影よかげ』も、そんな魔法少女達の姿に心を打たれた一人で、今では大の魔法少女アニメ好きになっていた。




 「よっし……、今日も滅茶苦茶グッズ買えたなぁ…。」



  現在、俺はアニ〇イトからの帰りで、両手には魔法少女アニメのグッズが入った袋を持っていた。



 「あー、最近はグッズの買い過ぎで金欠気味だなぁ……。もっと、シフト増やして見るかぁ?」



  バイトのシフト表をスマホで見ながらそう呟いていると、信号機は赤から青に切り替わった為、俺は横断歩道の白線に向かって歩いた。



 「家に帰ったら、勉強しながらまたあのアニメ1話から見直そ…。」



  そんな事を考えていると、突然真横から眩しい光が差し込んで来た。



 「っ…、なんだ…?」



  反射的に光が差し込んで来た方向を見ると、そこには大型のトラックが迫って来ていた。



 「はッ…!?」



 気付いた時には、もう遅かった。俺の足は思う様に動いてくれず、トラックも、たった今俺の存在に気付いたのか、ブレーキが掛かりけたたましい音が鳴り響いた。



 「ッ…!せめて、この子達グッズだけでもッ…!」



  俺は、必死の思いで両手に持っていた袋を向かいの歩道にぶん投げた。このトラックに粉砕されるくらいだったら、こっちの方がまだ損傷は抑えられるだろう。



 「……ははっ、ホントに全部が遅く見えるじゃん。」



  俺の投げた袋がゆっくりと地面に着いたと同時に、俺の視界は真っ黒に染まった。





 ■






  ──きて。



  ─きて、──。




 「………こら!そろそろ起きなさい寝坊助さん!」

 「ふひゃぁあッ!?」

 「もー、やっと起きたぁ。ご飯出来たから、下で食べよ?」



  へっ?誰この女の子…? 病院……では絶対無いだろうし…。



 「あ、あのー…、ここって何処です…?」

 「へ?星華そら、もしかして寝ぼけちゃってるの? ここは星華の部屋だよ?」



  え、ここって俺の部屋なの? て言うか、 "星華" って誰!? もしかして、俺のこと言ってるの!?



 「? 星華、どうしたの?」

 「う、ううん!何でもないよ! ちょっと、寝ぼけちゃってたみたいで……。」

 「そう? 私、先に下で待ってるから降りてきてね。お父さんもお母さんも、星華の事待ってたから。」

 「う、うん。分かった…。」



  俺がそう返事を返すと、目の前の女の子はドアを開いて何処かへと行ってしまった。



 「……えーっと、マジでどういう事…? いつもより視界が低い気がするし、声も全然違う気がするし…。」



  突然の出来事に、俺は混乱していた。



 「ッ…、そうだ、鏡はあるのかな…。」



  周りを見渡すと、少し大きめの鏡があった為、俺は鏡の目の前まで歩いた。



 「……は?」



  俺は思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。目の前の鏡に写し出されたのは、なんと幼い女の子の姿だったからだ。



 「へ、あ?うん…? 待って待って…? これ、もしかして俺の姿…?」



  右手を上げてみたり、ピースを作ってみたり、頬をゆっくりと引っ張ったりしてみたが、鏡に写ってるその人物は、見事に動きが一致していた。



 「は、はぁぁぁぁッ!?!?なんでぇぇッ!?!?」



  目の前の鏡に写ってるこの幼女が自分だと確信し、俺は驚きで叫んでしまった。



 「待て待て待てッ…!もしかしなくても、俺…!」




 「この女の子に、転生しちゃったのかよ…!?」



  トラックに轢かれて、次に目が覚めたらTS転生してたとか、アニメとか創作物の主人公じゃん!?



 「ま、マジかぁ……。転生って、ホントにあるんだな…。」



  創作でしか有り得ない話だと思ってたのに、まさか自分が体現する事になるとは……。



 「と、取り敢えず……、下に降りて待ってるって言ってたし、降りるか…。」



  これ以上待たせてしまったら、心配されるか不審に思われるかの二択だ…。転生して早々、問題は起こしたくないからな……。



 「やっべ…、めっちゃ歩きづらい…。」



  さっきまで166cmの男子高校生の身体だった為、今の自分の姿で歩く事がとても難しかった。



 「これ、歩くのに慣れるまで物凄く時間かかる奴だ、絶対……。」



  壁に手を付きながら、俺はなんとか部屋から出ることに成功した。俺はそのまま、壁を伝いながら下に降りた。




 「あ、星華。さっき何か叫んでたみたいけど、大丈夫?」



  下に降りると、先程の女の子がこっちを見ながらそう言った。



 「あー、うん。大丈夫だよ。」

 「そっか、なら良かった。何か困った事があったら、お姉ちゃんに言うんだよ?」

 「う、うん。」



  この女の子、この身体のお姉さんだったのか…。 ……まぁ、考えたらそりゃそうか。同じ家に住んでて、髪や目の色も殆ど同じってなったら、お姉さん以外の何物でも無いよなぁ。



 「よし、星華も起きた事だし、冷めない内にご飯食べるか。」

 「ふふ、それもそうね。」



  向かい側に座っている、恐らく母親と父親であろう人達がそう言うと、一斉に『いただきます。』と言い、お椀を持ち始めた。



 「母さん、テレビ付けていいか?」

 「えぇ、大丈夫ですよ。」



  父親……、いや、もうお父さんと言っておこうか…。お父さんは、持っていたお椀を置きテレビを付けた。



『今年は、 "怪異" の出現報告が昨年より2%多くなっているとの事ですが……、岩本さん、これに関してはどう思いますか?』



  テレビが付けられると、アナウンサーの女性が、隣に居る眼鏡を着けた男性にそう言っていた。



『そうですね…。やはり、このグラフを見たら分かる通り、年々怪異の出現報告が多くなって行っている事が分かります。このまま怪異が多くなってしまうと、怪異と戦う "魔法少女" 達の数に合わず、対処が間に合わなくなるかも知れませんね。』



 「へっ…?」



  俺は、岩本と呼ばれたキャスターの言っていた言葉に、耳を疑った。魔法少女? 居るの、本当に?



 「2%、か…。」

 「花火、最近の調子はどう? 大丈夫…?」



  両親達は、俺の隣に居る女の子に心配そうな顔をしながらそう言った。



 「うん。私は大丈夫だから安心して、お父さん、お母さん。私には、とっても信頼出来る相棒が居るし、危なくなっても、とっても強い先輩が居るから。」

 「そ、そうは言ってもだな…。花火の親としては、とても心配なんだ…。」

 「うん…、だけど、私や他の魔法少女が頑張らないと、今度はお父さん達が危なくなっちゃうから……。」

 「花火…。」



  え? もしかして俺のお姉さん、魔法少女なの? マジで?



 「え…、花火お姉さ……ちゃんって、魔法少女なの?」

 「え?あ、そっか…、星華には言ってなかったよね。お姉ちゃん、魔法少女なんだよ? 凄いでしょ〜?」

 「う、うん…!凄い…、本当に…!」



  いや、本当に凄いな…。どんな確率よ…? 転生したら幼女になってて、そこは魔法少女の居る世界で、しかも転生先のお姉さんが魔法少女とか。



 「なぁ、花火。星華が魔法少女になる可能性って、あったりするか…?」

 「うーん…。星華の中に "魔力根源" があったら、もしかしたら魔法少女として覚醒しちゃうかも…。」

 「そうか…。」



  お父さんは、俺の顔を見たあと、心配そうな面持ちでお姉さんにそう聞いた。 ……え、俺もその "魔力根源" って言うのがあったら魔法少女になれるの?



 「私も、お姉ちゃん見たいに魔法少女になれるの?」

 「うーん、お姉ちゃんには分かんないかなぁ? でも、星華が魔法少女になりたい!って思ったら、なれるかもね。」



  そう言いながら、お姉さんは微笑みながら俺の頭を優しく撫でた。あっ…、待って、この人滅茶苦茶頭撫でるの上手いわ……。



 「えへへ〜…。」

 「ふふっ、星華の顔可愛い〜…!流石私の妹だよぉ…!」

 「花火も星華も、さっきから会話だけでご飯全然食べてないわよ? 二人の仲が良いのは知ってるけれど、ご飯はキチンと食べてね。」

 「「はーい!」」



  俺はそう返事をすると、お椀とお箸を持ち、黙々と食べた。




  ちなみに、ご飯は滅茶苦茶に美味しかった。





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