第15話 黒羽さんと海辺のカキ氷
夏休みに突入した真澄は海水浴へと赴いた。黄色いビキニの上から日焼け防止のための水色のパーカーを羽織って海を眺める。せっかく海へきたのだから泳ぐのが道理という声もあるかもしれないが海水浴場は夏休み中の親子連れが多くとても海へ入って泳ぐことはできそうもなかったし、見ているだけでもなんとなく涼しい気持ちにさせられる。
カキ氷屋に行って苺シロップのかかったカキ氷を受け取って行列から離れ食べようとしたとき、列の先頭から聞きなれた声が聞こえた。
「……抹茶シロップのカキ氷をください……」
落ち着いている小さな声に反射的に振り返ると見慣れた人物が立っていた。
「黒羽さん⁉」
「……三日月さん……」
ふたりとも考えることは同じだったのか偶然の出会いに驚くものの海水浴場で出会えたのが嬉しく、立って食べるのもどうかということで備え付けのベンチに移動することにした。黒羽はフリルのついた黒いビキニ姿で白い肌と黒い水着のコントラストが映えている。長い脚はもちろんのこと真澄との決定的な違いを見せつけられ、真澄は内心で悔しさを覚えた。もう少しだけ成長の兆しがあれば王子様扱いから脱することもできるかもしれないが、残念ながらその道のりはまだまだ遠い。
ふたりでベンチに腰掛けてきゃあきゃあと遊んでいる子供たちを眺めながらカキ氷を食べる。
「……うっ……」
黒羽が不意に顔をしかめた。どうやらカキ氷の冷たさが頭痛を引き起こしたらしい。
その直後に真澄も頭痛が起きたのでおあいこであった。
「……あの……」
「どうしたの?」
「……三日月さんさえよければ、ひと口食べますか……?」
真澄は自覚はなかったのが黒羽にとっては食べたそうに見えたらしい。
カキ氷をすくって透明なスプーンを差し出してくる。これは「あーん」という行為ではないかと真澄は思った。黒羽はいつものように優しそうな微笑を浮かべている。
断るという選択肢はなかった。
口を開けると食べさせてくれる。
抹茶の苦みと氷の微かな甘さが病みつきになりそうだ。
「黒羽さんもどうぞ」
真澄は自然な形で自分の苺シロップカキ氷をすくって黒羽に差し出す。
「……ありがとうございます……冷たくて……おいしいです……」
「もう一口食べる?」
「……三日月さんも……よろしかったらもう一口いかがですか……?」
一口、また一口。
お互いのカキ氷を食べさせながら、ふたりは夏の海を自分たちなりの楽しみ方で満喫するのだった。
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