陽鷹灼と”お嫁さん”

 カシャリとスマホから音が鳴る。


 スクリーンショットで聖との大切な会話を、なにかあったときも見返せるようにしよう。

 

 それにどんな会話をしたか覚えておかなきゃ。


 私は彼女と結婚するのだ。

 私がお嫁さんなのか、彼女がお嫁さんなのかは分からないけど、夫婦になる。


 それを考えるだけで血液が温かくなって、心臓が少し高い音で鼓動している気がする。


 学年でも有名な「男遊びをしている女子生徒の空井聖」

 彼女はとても可愛いけど、遊んでるという割にはウブな女の子にも見えた。


 話してみればまっすぐな感性で生きているのが分かるし、彼女からは嘘も軽薄さも、恋愛中毒のような気質も感じない。


 素敵な人だと思う。

 そんな子にプロポーズをされて、私は彼女の手を取ることに決めた。


 それにしても女子ってあんなに返信早いんだ。

 クラスラインはよく動いてるけど、みんなで会話してるから早く見えるだけかと思ってた。


 どうにもスマホの入力は慣れない。

 言葉にするのは得意なのに、上手く指が動かない。


 プロポーズしてくれてありがとう。

 私はあなたを大好きでいられるように頑張るから。


 口にするなら簡単なこともスマホで打とうとすると一苦労。

 それにこれらの美辞麗句だって、口で伝えても本心と取ってもらえるか分からない。


 いきなりプロポーズされて、それを受けたんだから。

 簡単に信じてもらえないかもしれない。


 私は理屈っぽいみたいだから、気をつけなきゃ。

 誤魔化したり、口だけだって思われないようにしなきゃいけない。


 少しでも私なりに愛情表現をして、伝えよう。

 花畑のようなついついうっとりしちゃうような言葉を探そう。


 部屋の外から漏れ聞こえた人の声と、ソファの軋む音に耳を閉じて、私はまたスマホの中にある”お嫁さん”からの言葉にそっと微笑みを返した。

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