第2話 んもー。

俺は恐らくだが嫁に殺された。

何故そう言えるのかといえば簡単である。

嫁に何か変なものを飲まされた後。

倒れた後の記憶がない。

つまりこれは恐らく殺害された、と思う。


そんな俺だが気絶して意識が無くなった後。

俺は亡くなりそのまま若返った様だった。

何故かといえば過去に帰っている。

10年前の世界に。

アイツが居るのが...証拠だ。

幸奈が居る事が。


でも殺害されただろうが何だろうが。

絶対に奴を許さない。

幸奈には申し訳ないが俺は...絶対にあのクソ嫁を許さない。

鮫島優樹菜(さめしまゆきな)を。

次に会ったら殺してやる。


「...」


俺はその様な思いを抱きながら翌日を迎えた。

10年前の翌日、か。

そう思いながら俺は鏡を見る。

そうしてネクタイを締めてから俺は厳つい顔を何とか戻そうとしているとインターフォンが鳴った。

朝早くからなんだ。


「って...幸奈?」

「まなちゃん」


それから俺はドアを開ける。

そこに幸奈が制服姿で立っていた。

俺を見ながら柔和な顔を浮かべている。

その姿に目を丸くしつつ「どうしたんだ?」と聞いてみる。

いつもなら...電車の時間もあるから。


「まなちゃんが心配」

「...ありがとうな。そんなに心配してくれて。本当に嬉しいが...大丈夫だぞ」

「そう?」

「俺は死んでも起きても愛美だ」

「...だね」


そして笑顔になる幸奈。

俺はその顔に柔和になりながら「そうだ。途中まで一緒に行くか?」と聞いた。

すると幸奈は「あ、そうだね」とニコッとする。

俺は急いで鞄を持って来る。


「行こうか」

「だねぇ」


それから俺達は表に出る。

親が早めに出るので誰も居ない家の玄関。

留守になるのでカギをかける。

そして歩き出す。


「幸奈」

「ん?なーに?」

「お前の心配さ。本当に...助かってる」

「...だと良いけど」

「お前が心配してくれるからさ。俺...なんだか生きようって思うんだ」

「え?そんな極端な」

「...」


極端な話ではない。

それは事実の話である。

真実の...全てが嘘偽りない。

俺は顔を上げながら幸奈に向く。

それから「まあ極端だな」と自嘲する様に言う。

幸奈は「だよ?」と苦笑して言う。


「...でもお前の存在は大きい」


すると幸奈は頬をぼりぼり搔いた。

それから「どれぐらい?」と聞いてくる。

俺は「...そうだな。抱きしめたくなるぐらいには」と冗談を言う。

幸奈は「...」と無言になる。

そして赤くなる。


「...その。なら。今してくれる?」

「ああ。...うん?何を?」

「抱きしめたくなるんでしょ?」

「あ、ああ。で?」

「じゃあ私を抱きしめて」

「は?...いや。あのな。ジョークだって」

「...」


幸奈はなんか不満げだった。

俺は「...」と数秒間考えてから「なら抱きしめてやろうか?子供の頃、よくやってたしな」と言う。

すると幸奈は目を輝かせた。

そして子犬がしっぽを振る感じで飛んで来る。


「お前な。好きな人が居るんだよな?」

「そうだね」

「ならこうするのはまずいんでは?」

「えへ。大丈夫。ノープロブレム」


そして幸奈は俺にゆっくり抱き締められる。

身長差が20センチぐらい違う。

当時だけで170はあったしな。

その為、なんだか...すっぽり収まる。

俺の中に、だ。


「えへ。まなちゃん」

「お前は子供かよ。まったく」

「いいじゃん別に。まなちゃんだって暖かいでしょ?」

「暖かいけどさぁ」


それから幸奈は満足したのか離れる。

そして柔和な顔をする。

満足げな顔ともいうかもだが。

幸奈はゆっくり歩き出した。


「まなちゃん」

「なんだ?」

「...えへへ。呼んだだけ」


訳が分からない。

そう思いながら俺は恋人の様な感覚を受けながら苦笑する。

それから俺も歩き出した。

そして俺達は駅前にやって来た。


「幸奈」

「ん?なに?まなちゃん」

「お前の好きな人って...身近な存在なのか?」


その様に聞いてみると幸奈は「んー。...まあ身近だね」とニコニコした。

それから「でも内緒だから」と次には笑顔になる。

内緒っていうのが気になるんだがまあ本人がそう言うなら仕方がない。

そう考えてから俺は苦笑する。


「じゃあまた今日は放課後だな」

「うん。放課後だね」

「楽しんで来いよ。学校」

「何言っているの?毎日行っているんだから」


いや。

青春は一度きりだ。

ただ俺の場合は論外なだけだ。

そう考えながら俺は幸奈を見る。


「まあ青春を楽しめよって意味だ」

「んもー。なに言っているのか分からない。...でも一理あるかも」

「だろ?例えずっと同じ世界でも視点を変えれば別物だよ」

「まなちゃんがなんかおかしい」

「なんでや」


そして俺は手を大きく振ってから駅に吸い込まれて行く幸奈を見る。

俺はまた苦笑しながら顎に手を添える。

先程の抱きしめた感覚を思い出す。

まさかアイツ...いや。

それは無いよな?

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