第15話「心のシンクロ・バースト」



13個の願珠が、私の手の中で脈打っていた。


友情、勇気、愛情、信頼、希望、成長、自由、正義、知恵、調和、夢、絆、そして創造。


全てがそろった。


でも、どうすればいいのか分からない。


「ミラ、見て」


ハーゼルが空を指差した。


夜空に、巨大な亀裂が走っている。


まるで、ガラスにヒビが入ったように。


「世界が...壊れ始めてる」


そうか。ノクターンが消えて、バランスが崩れたんだ。


願いと無、感情と理性、全てのバランスが。


「このままじゃ、世界が...」


レイの言葉が途切れた。


亀裂から、黒い何かがあふれ出してきた。


違う。よく見ると、それは――


「消えた願いペットたち!」


今まで戦いで消えてしまった、無数の願いペットたちだった。


持ち主を失い、行き場をなくした願いの亡霊。


「助けなきゃ」


でも、どうやって?


新しい願いブックは、まだ真っ白なままだ。


使い方も分からない。


その時、フェニックス・ミラージュが私の肩に止まった。


「ミラ、心を開いて」


「心を?」


「みんなとつながるの。言葉じゃなく、心で」


深く息を吸った。


目を閉じて、仲間たちのことを思い浮かべる。


ユイの勇気。タケルの情熱。レイの冷静さ。ソウタの優しさ。


そして、ハーゼルの後悔と希望。


すると、胸が温かくなった。


目を開けると、みんなも同じように光っていた。


「感じる...みんなの心が」


ユイが涙を浮かべた。


「ミラの不安も、でも、それ以上に強い希望も」


タケルがうなずく。


「こんなの初めてだ。まるで、心が一つになったみたい」


でも、私は首を振った。


「違う。一つじゃない」


みんなが不思議そうに見つめる。


「それぞれ違うから、美しい」


そう、バラバラだけど、つながっている。


それが、本当のシンクロ。


新しい願いブックが、ついに反応した。


ページが勝手にめくれ、文字が浮かび上がる。


でも、それは私たちが書いたものじゃない。


心が、直接記している言葉だった。


『願いは、一人では叶わない』

『でも、心をつなげば、奇跡は起きる』


13個の願珠が、ひとりでに浮かび上がった。


くるくると回りながら、螺旋を描いて上昇していく。


「始まるよ」


私が言うと、みんなが手をつないだ。


6人で輪を作り、願いペットたちも一緒に。


「心のシンクロ・バースト、本当の姿を見せて!」


叫んだ瞬間、世界が光に包まれた。


私たちの体が、ふわりと浮かび上がる。


願いペットたちも、より大きく、美しく輝いている。


でも、姿は変わらない。


進化じゃない。これは――


「ありのままの姿が、一番強い」


フェニックス・ミラージュの声が響く。


そうだ。無理に変わる必要なんてない。


今の自分を、仲間を、全て受け入れる。


それが、本当の強さ。


13個の願珠が、激しく輝き始めた。


そして、一つに溶け合っていく。


違う。溶けているんじゃない。


それぞれの個性を保ちながら、調和している。


虹色の、いや、もっと複雑な光。


言葉では表せない、心の色。


『エモーション・クリスタル完成』


巨大な結晶が、空中に浮かんでいた。


でも、これで終わりじゃない。


亀裂から溢れ出す、迷える願いペットたち。


彼らを救わなければ。


「みんな、力を貸して」


全員で、エモーション・クリスタルに手を伸ばした。


触れた瞬間、すごい力が流れ込んでくる。


でも、苦しくない。


むしろ、心地いい。


「これを、みんなに分けてあげよう」


クリスタルの光が、さらに強くなる。


そして、無数の小さな光となって、飛び散った。


光は迷える願いペットたちに降り注ぐ。


すると、奇跡が起きた。


消えかけていた願いペットたちが、再び形を取り戻していく。


そして、新しい持ち主のもとへ飛んでいった。


世界中の、願いを持つ人々のもとへ。


「すごい...」


ハーゼルの願いペットも、変化していた。


黒い塊から、小さな白い蝶が姿を現す。


まだ小さいけど、確かにホープバタフライの姿。


「ありがとう、ミラ」


ハーゼルが泣きながら微笑んだ。


空の亀裂も、少しずつ修復されていく。


世界が、新しいバランスを見つけたんだ。


でも、これで全てが解決したわけじゃない。


これからも、きっと問題は起きる。


感情は時に暴走し、願いは衝突する。


それでも――


「一緒なら、乗り越えられる」


私がそう言うと、みんながうなずいた。


新しい願いブックが、優しく光る。


もう、機械じゃない。


心そのものが、願いブックになった。


朝日が昇り始めた。


新しい一日の始まり。


そして、新しい冒険の始まり。


13個の願珠は一つになったけど、願いは無限にある。


これからも、きっと新しい出会いが待っている。


「さあ、学校に戻ろう」


私が言うと、みんなが笑った。


普通の日常に戻る。


でも、もう前とは違う。


心でつながることの大切さを知った私たちは、きっと強い。


フェニックス・ミラージュが、朝日に向かって高らかに鳴いた。


その声が、希望の歌のように響き渡る。


第三のエモーション・クリスタル、そして最後の完全体。


全てを手に入れた今、新しい物語が始まる。


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