願いペット★ミラクルハント
ソコニ
第1話「学校消滅!?感情パニック大事件!」
「みんな、逃げて!」
教室の空気が一瞬で凍りつく。
窓ガラスがビリビリと震え、蛍光灯が不気味に点滅した。
遅かった――。
クラスメイト全員の頭上で、透明な何かが苦しみ始めた。
羽根をバタつかせるもの、丸まって震えるもの、光を失っていくもの。
みるみるうちに、その透明な生き物たちが真っ黒に染まっていく。
黒い霧が教室を侵食する。
壁にヒビが走り、床がギシギシと歪み始めた。
なぜか私、願野ミラだけが、この恐怖の光景をはっきりと見ている。
「あなた、見えるのね」
教室のドアに寄りかかる銀髪の少女。
彼女の頭上では、ドロドロした漆黒の何かが、まるで生きているかのように脈打っていた。
「はじめまして。私、ハーゼル」
少女の唇が、三日月のように歪む。
「この学校、もうすぐ消えるわ」
---
キーンコーンカーンコーン。
いつもの月曜日、いつもの朝のはずだった。
「今日は転校生を紹介します」
担任の田中先生の声が教室に響く。
私はぼんやりと窓の外を見ていた。
なんだろう、空から金色の粒子が降ってくるような――
「願野さん!聞いてますか!」
「は、はいっ!」
背筋がピンと伸びる。
クラス中の視線が私に集まって、顔が熱くなった。
ガラガラとドアが開く音。
銀髪の女の子が、まるで滑るように入ってきた。
「ハーゼルです」
それだけ。
自己紹介はたった一言で終わり、彼女は窓際の席へ。
私の隣だ。
席に着くなり、ハーゼルが小声で囁いた。
「ねえ、さっきから私の『ペット』見てたでしょ」
「え?ペット?」
心臓がドクンと跳ねた。
確かに私は、彼女の頭上でうごめく黒い影を見ていた。でも――
突然、給食当番が運んできたプリンから、不気味な黒い霧が立ち昇った。
「きゃああああ!」
「な、なんだこれ!」
「頭が、頭が痛い!」
教室中がパニックになった。
でも違う。みんなは霧が見えていない。
苦しんでいるのは――
委員長の頭上で、眼鏡をかけた青いフクロウが羽をバタつかせている。
翼から青い光の粒子がポロポロと剥がれ落ちていく。
「ホー!ホー!」
やんちゃな健太の上では、炎をまとったオレンジ色のトカゲが縮こまっている。
炎が黒く染まり、今にも消えそうだ。
「ギャオ...ギャ...」
「願い消去薬ね」
ハーゼルが退屈そうに呟いた。
「プリンに仕込まれた、願いを殺す毒よ」
「願いって...まさか!」
「そう、願いペット。みんなの『願い』が形になった存在」
彼女の言葉で、すべてが繋がった。
この子たちは、クラスメイトの心の中の願いなんだ!
「助けなきゃ!」
立ち上がった瞬間、ポケットが眩しく光った。
取り出したのは、見たことのない虹色のデバイス。
画面に文字が次々と浮かび上がる。
『緊急起動:願いブック Ver.1.0』
『ウィッシャー認証:願野ミラ』
『感情ゲージシステム、解放』
画面にハート型のゲージが3つ出現した。
```
【感情ステータス】
希望 ■■■■■□□□□□ (5/10) 金色
勇気 ■■□□□□□□□□ (2/10) 赤色
不安 ■■■■■■■□□□ (7/10) 紫色
```
「ウィッシャー?」
「願いを守護する者」
ハーゼルの瞳が、一瞬だけ寂しそうに曇った。
「でも無理よ。初心者に願い消去薬は――」
「やってみなきゃ分からない!」
負けたくない。
この子の見下した態度が、逆に私の心に火をつけた。
希望ゲージが急上昇!
■■■■■■■□□□ (7/10)
「私の願いペット、出て!」
願いブックを高く掲げると、頭上に虹色の光が集まった。
光の中から、手のひらサイズの美しい小鳥が現れる。
「ピルル〜!希望の光だピル!」
虹色の羽を持つ小さな相棒――ミラクルバード!
「ミラクルバード、みんなを助けて!」
「了解ピル!」
小鳥が羽ばたくと、金色の音符が教室中に散らばった。
♪〜♪〜♪〜
音符が黒く染まった願いペットたちに触れる。
少しずつ、本来の色が戻り始めた。
「へえ、天然のウィッシャーね」
ハーゼルが初めて興味深そうな表情を見せた。
そして、パチンと指を鳴らす。
瞬間、給食のプリン全てが宙に浮いた。
黒い霧をまとったプリンが渦を巻きながら一つになっていく。
「なにあれ!?」
巨大な黒いブタが出現した。
体長3メートル、全身から黒い霧を噴き出している。
「ブヒィィィ!プリン全部、オレ様のもの〜!」
独り占めブタ――誰かの「独り占めしたい」という歪んだ願いが、願い消去薬で暴走した姿だ。
「ミラクルバード!」
「ピル!」
希望の光をまとった体当たり。
でも、黒いブタには傷一つつかない。
「ブヒャヒャ!そんな攻撃、プリンみたいに柔らかいブヒ!」
巨体が跳ね上がり、破壊的な踏みつけ!
ドゴォォォン!
床に巨大なクレーターが出現。
衝撃波でミラクルバードが吹き飛ばされる。
「きゃあ!」
不思議なことに、私の右肩にも同じ痛みが走った。
願いペットとシンクロしてる!?
不安ゲージが急上昇。
■■■■■■■■■□ (9/10)
「諦めるの?」
ハーゼルの挑発。
でも――
「諦めない!」
勇気ゲージも同時に上昇!
■■■■■□□□□□ (5/10)
『新スキル解放:震える希望』
『希望ゲージ5 + 不安ゲージ5 = 複合感情技使用可能』
「え?複合感情技!?」
画面に新しい表示が出現。
金色と紫色の光が、螺旋を描いて混ざり合っていく。
「分かった...恐いけど、だからこそ前に進める!」
ミラクルバードの体が、金と紫の光を同時に放ち始めた。
小さな体が震えながらも、瞳には強い意志が宿っている。
「ピルル!新しい力ピル!」
「行くよ、ミラクルバード!」
『複合感情技:震える希望』
瞬間、ミラクルバードが残像を残しながら高速移動!
紫の軌跡を描きながら、金色の光弾を連射する。
ドドドドドド!
「ブヒ!?見えないブヒ!」
独り占めブタの巨体に、次々と光が突き刺さる。
不安による回避能力と、希望による攻撃力が組み合わさった技だ。
「すごい...でも、まだ足りない!」
教室を見渡す。
クラスメイトたちは苦しみながらも、必死に立ち上がろうとしていた。
「見えないけど...なんか、頭の上があったかい」
「うん、守ってくれてる気がする」
みんなの願いペットが、かすかに光り始めた。
「みんな!見えなくても信じて!」
私は叫んだ。
「みんなの『願い』が、今、戦ってる!
一緒に力を貸して!」
委員長が眼鏡を整えて立ち上がる。
「分からないけど...ミラがそう言うなら!」
青いフクロウが、知恵の光を放つ。
健太がガッツポーズ。
「おう!なんか燃えてきた!」
炎トカゲが、勇気の炎を吹き上げる。
一人、また一人と立ち上がる。
それぞれの願いペットが、色とりどりの光を放ち始めた。
私の希望ゲージがMAXに到達!
■■■■■■■■■■ (10/10)
金色のオーラが、教室全体を包み込む。
「みんなの願い、借りるよ!」
願いブックが激しく振動する。
画面に新たな文字が浮かび上がった。
『全員の感情エネルギー、集束開始』
『必殺技解放:ホープ・ライト・ストリーム』
ミラクルバードの周りに、クラス全員の願いの光が集まっていく。
青、赤、黄、緑、紫――まるで巨大な虹の翼のように。
「これが...みんなの願いの力!」
「ピルルルル!!」
ミラクルバードが高らかに鳴く。
その小さな体から、想像を絶する巨大な光の奔流が放たれた!
ゴォォォォォォォ!!
七色の光線が、螺旋を描きながら独り占めブタを貫く。
「ブヒィィィィ!!」
黒い霧が剥がれ落ち、巨体がみるみる縮んでいく。
「ブヒ...ブヒ...」
手のひらサイズまで小さくなった子ブタが、ポテンと床に落ちた。
よく見ると、とても寂しそうな顔をしている。
「ほんとは...みんなと一緒に食べたかったブヒ...」
そうか、この子も誰かの願いペットだったんだ。
独り占めじゃなくて、本当は――
カラン、と澄んだ音。
オレンジ色の宝石が、床に転がった。
『友情の願珠、獲得』
『願いブック経験値:+100』
『新機能解放まで、あと2個』
願珠を手に取る。
温かくて、優しい光を放っている。
パチパチパチ。
ゆっくりとした拍手の音。
「初回で願珠ゲット、さらに複合感情技まで」
ハーゼルが席から立ち上がる。
彼女の頭上の黒い影が、一瞬、巨大な竜のような形になった。
教室の壁のヒビが、みるみる修復されていく。
まるで時間が巻き戻されるように。
「ねえ、ミラ」
彼女の瞳が、底なしの闇のように深い。
「願いは人を幸せにすると思う?」
「...もちろん!」
即答した。
でも、ハーゼルは寂しそうに微笑んだ。
「じゃあ、なんで争いが起きるの?」
窓の外を指差す。
空に、12個の光が円を描いて浮かんでいた。
まるで時計の文字盤のように。
「13の願珠を集めたら、分かるかもね」
彼女の声が、急に遠くなる。
「この世界の『本当の願い』が――」
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り響いた。
一瞬で、教室が元通りになる。
クラスメイトたちは、まるで何事もなかったように席に着いた。
願いペットたちは、相変わらず見えない。
でも確かにそこにいる。生きている。
「私...ウィッシャーになったんだ」
手の中の願珠が、ドクンと脈打った。
これが、私の冒険の始まり。
13の願珠を集める、ミラクルハントの第一歩――。
窓の外で、黒い影が不吉に揺れていた。
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