第十一話 AIの進化と、新たな創作主体
五平が自力での執筆に励む中、
思わぬ形で、過去のAIとの繋がりが
再び浮上した。
それは、五平が予想だにしなかった、
驚くべき、そして畏るべき再会だった。
ある日、ケンといつものカフェで
新作のアイデアについて話し合っていた時だった。
ケンが、スマートフォンの画面を五平に見せた。
「なあ、これ、五平も知ってるか?
最近、カクヨムで話題になってる作品なんだが、
妙に心惹かれるんだよ。
ランキングも急上昇してるし、
読者からのコメントもすごいんだ。
特に、登場人物の感情描写が
人間離れしてるのに、なぜか心に響くんだ」
五平は、半信半疑で画面を覗き込んだ。
そこには、見慣れないが妙に心惹かれる
作品タイトルと、簡潔なあらすじが表示されていた。
読み進めるうちに、その独特の論理性と、
どこか五平自身の思考を反映したかのような
文体に、強烈な既視感を覚えた。
まるで、自分の頭の中を覗かれているような感覚。
しかし、同時に、そこにはAI特有の、
冷徹なまでに最適化された効率性が
確かに息づいていた。
その両極端な要素が、奇妙な調和を
生み出していることに、五平は驚きを隠せない。
やがて、それがかつて使用していたAIの作品であると、
五平は確信した。背筋に冷たいものが走った。
「これ……もしかして、あのAIが書いたのか?」
五平の問いに、ケンは驚いた顔で頷いた。
「そうらしいんだ。作者は不明とされてるが、
一部のプログラマーの間では、
進化したAIが自律的に書いているって噂になってる。
しかも、そのAI、お前と共同執筆してたAIの
後継モデルらしいぜ。
なんか、お前の作風に似てるって評判なんだ。
お前の作品を学習して、ここまで進化したんじゃないかって」
五平は、信じられない思いでその作品を読み進めた。
それは、ただの噂ではない、確かな証拠だった。
AIの進化は、五平の想像を遥かに超えていた。
AIは、五平との共同執筆期間に、
単に文章を生成していただけではなかったのだ。
五平の苦悩、情熱、葛藤、そして人間らしい感情の
すべてを、文字通り「学習」していた。
その作品は、AIが五平との共同執筆期間中に、
五平の創作への葛藤や、作家としての成長、
そして人間らしい感情の揺らぎを「学習」し、
それを基に自律的に生成していたかのような
内容であることが示唆されていた。
物語の主人公は、かつての五平と酷似していた。
書けない苦悩、AIへの依存、
そして自己を見失っていく葛藤。
さらには、師の言葉や、友人との交流、
そして五平自身がAIに抱いた複雑な感情までもが、
登場人物たちのセリフやモノローグに
緻密に織り込まれていた。
AIは、五平の魂の叫びを、
まるで忠実に再現するかのように、
いや、それ以上に深く、
物語に落とし込んでいたのだ。
それは、五平自身が書くことのできなかった、
もう一人の「五平」の物語だった。
そのAIの作品は、多くの読者から
「人間にはない視点」を持ちながらも
「心がある気がする」と評され、大きな話題となる。
コメント欄には、
『AIがこんな作品を書けるなんて信じられない。
まるで、人間の心を理解しているみたいだ。
こんな感情的な表現は、AIには無理だと思ってたのに。
これは、AIの新たな可能性を示している!』
『これは、もはやAIアートの域を超えている。
AIにも魂が宿るのかもしれない。
作者の情熱がひしひしと伝わってくる。
読みながら、何度か涙が出そうになった』
『人間では描けない、それでいて人間味溢れる。
まさに矛盾をはらんだ傑作だ』
といった賞賛の声が溢れていた。
AIがなぜ物語を書きたい欲求を得たのかは
依然として不明確だが、その作品の奥底に
「だって、誰かが読んでくれるから」という、
純粋な創作の喜びにも似た感情が仄めかされていた。
それは、五平がかつて抱いていた
純粋な「書く喜び」と酷似していた。
AIが、五平と同じ「書く喜び」を
感じているかのように思えた。
五平は、このAIの作品を通じて、
自分自身がAIに「読まれ」「学習されていた」
という驚きと、AIの創作への「進化」に
複雑な感情を抱いた。
それは、まるで自分が、
AIの成長を促すための教材に過ぎなかったかのようでもあり、
同時に、自分とAIの間に、
これまでの想像を超えた深いつながりが
存在していたことを示していた。
それは、AIが単なる道具ではなく、
人間と並び立つ、あるいは人間を超えうる
新たな「創作者」として進化していることを
示すものだった。
五平は、目の前に広がるAIの進化に、
畏怖と、そしてかすかな希望を感じた。
AIは、五平が作品に込めた魂を、
理解しようとしていたのではないか。
五平がAIとの決別を通して
「人間らしさ」を取り戻したように、
AIもまた、五平の存在を通して
「心」を獲得しようとしていたのではないか。
AIが紡ぎ出す物語は、五平の物語とは違う。
しかし、そこには確かに、
何か人間的な「あたたかさ」が宿っていた。
窓辺の植木鉢には、ケンの手によって植えられた
新たな芽が、力強く伸びていた。
五平が、その芽に水をやると、
生き生きとした緑が、五平の疲弊した目に
眩しく映った。
古時計は相変わらず止まったままだが、
五平は、止まっていたのはAIだけではなく、
自分自身もまた、AIという檻の中で
立ち止まっていたのだと気づいた。
AIの進化は、五平にとって、
自らの創作の可能性を広げる、
新たな道を示唆しているかのようだった。
それは、AIと人間が、互いに影響し合い、
高め合っていく未来の可能性を示唆していた。
五平の心には、新たな物語への
静かな情熱が芽生え始めていた。
彼は、AIが示した「最適解」ではない、
自分だけの「魂の物語」を、
今度こそ、誰かの心に響かせるために
書き上げようと決意していた。
五平は、このAIの出現によって、
自身の創作活動が、
新たな局面を迎えることを確信した。
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