第1章 影の猫 - 15
サンが目覚めたのは、それから3日後だった。気が付くと全身に包帯が撒かれ、人間のソファーのうえで横になっていた。
そしてゼニノスケが枕元にいて、
「おっ、よかった! 目が覚めたんっスね」
サンはゼニノスケから、何が起きたかを聞いた。決着がついた後、カゲトラはゼニノスケを始めとする曼荼羅商店の猫たちを集め、ボロボロになった猿とサンをここまで運んだ。ゼニノスケ曰く「不眠不休の本気治療と、動物園から盗んで作った最新設備の力で」、幸いにも全員が一命を取り留めた。
その翌日に、事を知った山猿の大ボス・ギンジの手下がやってきて、治療中のモモたちを山へ連れて行った。ギンジらは「若い衆の勉強代」として、大量の果実を残していった。
そしてサンは、自分が何をしたかを改めて聞いた。自分が別の猫に変身し、カゲトラを散々に痛めつけた。しかし、最後の最後でカゲトラの拳をマトモに食らって失神。奥歯を3本失っていて、しばらく食事は無理だという
さらにゼニノスケは、こんなことも言った。
「多重猫格ってやつだと思います。人間でもたまになるらしいんっすよ。凄いストレスが掛かった時に、自分の中に別の猫各が出来ちゃう心の異常っす。ま、野良猫やってたら、『自分のせいだけど、誰かのせいだと思わないとやってらんない』みたいなことって多いじゃないっすか。そういうストレスで生まれた別の猫格が、サンくんの中にはいるんっすよ。カゲトラさんが言ってました。サンくんと違う名前を名乗っていたって。たしか……」
サンの記憶に、その名ははっきりと残っている。だから彼はゼニノスケに答えた。
「レイ……。そう名乗っていました」
「そう、それっす」
ゼニノスケが言った。
そのとき、
――オレから逃げられると思うか?
声がした。
――オレはずっとここにいる。お前にはオレが必要だから。
サンの右手が震え始めた。まるでそこだけ自分の体でなくなったように。
――すぐに分かる。お前だけじゃ、生きていけないことが……。
サンを嘲笑うかのように、右手は震え続ける。
「ぐっ!」
サンはくぐもった声を出し、その右拳で砕かれた頬を殴った。途端に激痛が襲ってきて、彼はベッドの上で悶絶する。
「……大丈夫っすか?」
ゼニノスケが不安そうに訊く。
「大丈夫、大丈夫です。痛い方が、ずっとマシです」
サンはそう答えた。そして彼は、カゲトラの居場所をゼニノスケに訊いた。
「今日は天気がいいっすからね。上で日向ぼっこするって、言ってたっすよ」
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