CAGE ~日本国防省異形生物災害対策係公認特別外郭組織戦線譚~

納豆菌

PROLOGUE  神が死んだ日

大理石の床は一面血に染まっていた。

横たわるのは胸元に青い十字架があてらわれたキャソックを身に着けている男たち、時折女も交じっているのはさしても『信仰心』の顕れだろうか。

そしてそれらの多くがばっさりとたち切られている。

袈裟に、横に、から竹に。

やわらかい人肉のあいだからは黄色い脂肪や青紫の臓腑、それと大量の血液が漏れ出ており、その死体がなにか鋭い刃物で、一閃のもとに断ち切られたのが見て取れた。

傍らにはMP5K。それも多量の空薬きょうが散らばっている事から、『発砲済み』であるH&K社製傑作サブマシンガンが落ちていた。

『女』はそれをひろいあげると、慣れた動きで弾倉を外して残弾を確認する。

金に輝く9mmパラベラム弾が二連に装填されているが重量からして装弾数はすくない。きっと戦闘訓練すらまともに受けていなかったのだろう。


「アキラくん、これ─」


『アキラ』とその青年をよんだ女、うなじ上まで伸びた浅い茶髪が凛々しいショートカットの彼女はアキコと言った。仁井村アキコ、それが彼女の名前である。

彼女もまた、この戦闘─いや、『虐殺』というべきか。とかく、戦闘経験もほぼないであろう『信徒』たちとアキコと、アキラと呼ばれた青年が戦うのはもはや虐殺以外の何物でもないだろう。



アキラと呼ばれた青年は、教会のステンドグラスから透き通るように降り注ぐ飴色の光に身をたたえ、血脂でべったりと濡れそぼった日本刀を手に 立ち尽くしていた。

良心の呵責だろうか、同じ『ヒト』をこんなにも大量に戮してしまった事への罪悪感を感じているのだろうか。──いや、その瞳は違った。

まっすぐに、その目は己の心のみを見据えている。短機関銃を撃ちまくりながらも死に脅えていた男を、女を、断ちすてたその興奮に身を湛えている。

にやり、と口元が音もなくうごき、手にした布キレ─きっとヒトをきり殺した時に身体にへばりついていたキャソックの一部を使って刀身をぬぐい、しゅっ。と露払いするように刀身を振りとめると、アキコのほうを向く。

「いいやァー…おれは使わないー…それよりアキコ…おまえが持ッとけよォー…やっこさん、おめえも戮すっていきおいだぜえー…」


カタナを鞘に納めると、ごろごろと死体がころがるレッド・カーペットを歩いてくる。足元の『死体』すら、路傍の石コロか、それ以下のように見做しているかのように、まったく気にもせず、相棒に近寄ってくる。


かちん。とMP5Kの弾倉を戻すと、アキコはこくんとだけ頷く。


「イイ子だー…それよりも、何人やったー…?」



彼の名前はヤマオカ、山岡アキラ。


ここから少し前の期間、『デビルハンター』となり、殺戮のすべてを学んだ男である

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