第11話 レオンハルトの真摯なアプローチ、そして新たな影
『黒の爪団』の要塞攻略作戦は、
完全な成功を収めた。
レオンハルトの指揮と、
私の狙撃が、勝利を決定づけた。
兵士たちの間では、
私の「ゼロ」としての実力が、
疑いの余地なく認められ始めていた。
しかし、その実力が、
同時に私を孤高の存在として
際立たせることにもなった。
私は、相変わらず、
誰とも深く関わろうとはしなかった。
作戦終了後、レオンハルトから、
私への個人的な招待があった。
それは、任務とは関係のない、
食事の誘いだった。
私は、一瞬戸惑った。
これまで、任務以外で、
誰かと二人きりで過ごすことなど、
考えたこともなかったからだ。
だが、彼の目には、
私への興味と、
そして、確かな信頼が宿っている。
私は、その誘いを受けることにした。
王国の首都、ヴァルシュ=ゼネリク。
要塞の攻略で消耗した私は、
治療と休息のため、
レオンハルトの屋敷に招かれた。
広々とした客室で、
私は傷の回復に努めた。
そして、その日の夜。
夕食の席には、レオンハルトと私、
二人だけが座っていた。
豪華な食事が並ぶが、
私はほとんど手を付けなかった。
食事は、生存のための、ただの作業。
美味だとか、そういう感情は、
私には存在しない。
レオンハルトは、そんな私を咎めることなく、
ただ、静かに自分の食事を進めていた。
その沈黙は、居心地の良いものではなく、
私の心をざわつかせた。
何を話せばいいのか。
何を求められているのか。
私の頭の中は、
疑問符でいっぱいだった。
「今回の作戦、ご苦労だった。」
レオンハルトが、
最初に口を開いた。
「君の狙撃がなければ、
あれほどの損害で済まなかっただろう。」
彼の言葉には、偽りがない。
私は、ただ頷いた。
「君は、本当に素晴らしい腕を持つ。
そして、その冷静さは、
私を凌駕するほどだ。」
彼は、私をまっすぐに見つめ、
そう言った。
その言葉は、私を称賛している。
だが、同時に、
私という存在を、
深く見つめているようでもあった。
「……あなたの意図が、読めない。」
私は、静かに尋ねた。
「なぜ、私を食事に誘った?」
レオンハルトは、私の言葉を聞くと、
微かに微笑んだ。
「知りたいと思ったからだ。」
彼の瞳が、私を射抜く。
「君という人間を、もっと深く。」
その言葉に、私の心が、
小さく震えた。
私の過去を知ろうとしているのか。
また、あの冷たい言葉を突きつけられるのか。
私の警戒心が、高まっていく。
「君は、常に孤独だ。」
レオンハルトは、続けた。
「誰とも深く関わろうとしない。
それは、君が強すぎるからか?
それとも、何か、
過去に傷を負ったからか?」
彼の言葉は、まるで、
私の心の奥底に封じ込めた傷を、
そっと撫でるかのようだった。
私は、何も答えなかった。
沈黙は、私にとっての、
唯一の防御手段だった。
レオンハルトは、私の沈黙を咎めず、
ただ、グラスを傾けた。
「私にも、大切な者を失った経験がある。」
彼の声は、静かだが、
深い悲しみを秘めていた。
それは、妹セリーネのことだろう。
「だから、君の孤独も、
少しは理解できるつもりだ。」
彼は、そう言って、私を見つめた。
その瞳には、私への共感と、
そして、私を理解しようとする、
真摯な思いが宿っていた。
「君は一人じゃない。私が見ている。」
彼の言葉は、私の心の壁に、
温かい光を灯した。
**凛の視点:**
(……一人じゃない、か。
そんな言葉、信じていいのか?
また、裏切られるのは嫌なのに……)
彼の言葉が、私の脳裏で反響する。
過去の痛みが、再び蘇ろうとする。
(それでも、彼の目には、
嘘がないように見える……)
私は、レオンハルトの瞳を見つめた。
そこに、私を欺こうとする影はなかった。
ただ、私という存在を、
深く、そして真摯に受け止めようとする、
強い意志があるだけだ。
私の心の壁に、
小さな亀裂が入り始める。
それは、私自身が、
最も恐れていたことだった。
食事を終え、レオンハルトは、
私を客室へと案内してくれた。
「何か、不便なことがあれば、
遠慮なく申し付けてくれ。」
彼の言葉は、私を気遣う優しさに満ちていた。
私は、ただ頷いた。
客室に戻ると、私はベッドに座り、
静かに息を吐いた。
レオンハルトの言葉が、
私の心に、深く残っている。
「君は一人じゃない。私が見ている。」
その言葉は、私の心を、
温めると同時に、
深い戸惑いも与えていた。
私は、誰にも頼らず、
一人で生きていくと決めたはずだ。
感情に振り回されるのは、もうこりごりだと。
だが、彼の言葉は、
私の中に、新しい感情を芽生えさせようとしている。
その夜、私は眠ることができなかった。
窓から外を見つめる。
王都の明かりが、遠くで瞬いている。
その光は、私を包み込むようでもあり、
私から遠ざかっていくようでもあった。
私の銃身に刻まれた「Ø」の記号が、
冷たい光を放っている。
それは、私の心を映し出す鏡のようだった。
私は、まだ「ゼロ」だ。
けれど、その「ゼロ」に、
少しずつ、何かが付け足されていく。
それは、温かさであり、
同時に、危険な兆候でもあった。
私が、レオンハルトとの出会いに、
そして、彼との交流に、
静かに心を揺らしている頃。
遠く離れた場所で、
私を追う影が、
より具体的に、行動を起こし始めていた。
ギルドに引き渡されたあの男は、
既に何者かの手によって、口を封じられた。
そして、現代からの刺客が、
この異世界に、
本格的に足を踏み入れたことが、
私にはまだ知らされていなかった。
だが、私の感覚は、
微かに、その不穏な気配を察知していた。
肌を這うような、冷たい感覚。
それは、私を再び「社会的な死」へと
引きずり込もうとする、
闇の予兆だった。
私は、その気配に、
無意識に銃を握りしめた。
私の安寧は、もう長くは続かないだろう。
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