こちら怪異局、調査記録はこちらです。

緋星

集落のカミ編

集落のカミ 壱

「じいちゃん」

 呼びかければ、祖父は振り返る。

「どうして、ここに住んでいるの?」

「そうさなぁ……カミがおるからなぁ」

「カミ?」

「ひとりにしては、いかんのよ」

「……?」

「ひとつ、約束をしようか。一人で山の社には行ってはいかん。必ず、じいちゃんと一緒に行くんじゃ」

「うん……わかった」

 頷くと祖父は、皺だらけの顔で目を細めた。


* * *


 祖父はとある山間部にある小さな集落に住んでいた。交通網からも外れ、他の集落との行き来も不便だった。限界集落と呼ばれるような場所だったと知ったのは、成長してからだった。

 祖父をはじめとして住人たちは林業と農業を生業なりわいにして暮らしていたが、時代の波には抗えない。住民が一人、また一人といなくなって最後には祖父だけが残った。その祖父も体調を崩しがちになり、少し遠方の街に住む息子一家――要は我が実家だが――で余生を過ごすことになった。祖父本人は最後まで頑なに反対していたが、説得を繰り返し最終的には折れてくれた。

 そして、居を移してからすぐに祖父は亡くなった。自分が小学生から中学生になる頃の話だ。

「ああ、これで……終わる」

 没する少し前に、祖父はそう呟いた。

 住民がいなくなった集落は、ひっそりと朽ちていくのを待つばかりになった。

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