トランスクリプション 〜文字起こし〜
スキヤキ
キラー
単一起源説
この文章は、かつてアメリカの大手匿名掲示板サイト『4chan』にて、"アメリカ軍の極秘の資料ファイルを流出させる"という内容のスレッド内で投稿されたビデオの文字起こしを日本語訳した物である。
投稿時に添えられたコメントによるとこの映像は"1975年にタンザニアで発見されたビデオテープ群をつなぎ合わせた物"なのだという。
当然ながら映像はもとよりスレッド全体が創作じみた物であり(例として、2008年の四川大地震をCIAが予言していたという内容など)、信憑性については今一つ欠けている。
しかしその映像に映っていた数々の不可解な現象や存在は、最新のCG技術をもってしても創作し得ないリアルさがあり、映像内で失踪した人物についても同時期に捜索願が出されている模様である。
この物語はフィクションとは限らないことを留意した上で是非ともご覧いただきたい。
【ビデオ1】
「録画は?…もう回ってる?…分かった始めよう。」
(カメラの前にジャケットを着た初老の男が立つ。背景には明るい林が広がっている。)
「…私の名前はジョージ・サマソン。コロンビア大学で自然人類学を教えている。…どこら辺まで話した方がいい?……うん…もういい。フィルムも無駄になるだけだ。全部話しておこう。」
(ゼミ生のものと思われる声を遮って教授はカメラに向かって話し出す。)
「今私がいるここは…最初の人類が生まれたとされている東アフリカ地域、タンザニア連邦共和国だ。本来はもっと早くに来訪するつもりだったがクーデターも相まってようやく今年来ることができた。」
(カメラの向きが少しずれ、林の方向を映す。)
「えー…50年代以降、人々は宇宙開発や航空機の開発にばかり目を向けている。それ自体はとても素晴らしいことであるし科学者として人類の発展は喜ばしい限りだが、しかし私はそんな今だからこそ、再び過去に向き直り人類の現在地を理解するべきだと考えている。」
(再び被写体が教授に移る。)
「今回の発掘調査が自然人類学、ひいては人類全体に大きな発見になることを期待している。」
(10秒ほどの沈黙)
「はい、OKです!」
(若い男の声が枠外から入る。先ほどのゼミ生のものと思われる。)
「こんなの本当に撮る必要があるのか?映画サークルの合宿じゃないんだぞ?」
(教授が不機嫌そうにゼミ生に話しかける。)
「まぁ、趣味が高じてこうなってる節はありますが、実際に凄い発見があったらこれは立派なドキュメンタリーになりますよ?」
「だからそういう…」
(教授の発言をゼミ生が遮る。)
「それに、調査をそれらしく拵えてナショジオの子会社に売り込めばきっと研究予算増額につながりますから!」
(教授は下を向いてため息をつく。)
「分かった分かった。流石に調査の邪魔になるようになったら止めるが、好きにしろ。」
「よしっ!」
(ゼミ生はガッツポーズをしたのか、服が擦れるような音がする。)
【ビデオ2】、【ビデオ3】、【ビデオ4】
編集する際に用いる予定だったと思われる動物や林の映像であるため割愛。
【ビデオ5】
(ビデオ1とは違い、一行が列になって林の斜面を登る様子が録画されている。)
「え〜、今回の調査のクルーを紹介しまぁす。」
(疲労からか少し間延びしたゼミ生の声が聞こえる。)
(先頭の教授にカメラが向けられる。)
「僕のゼミの、サマソン教授でぇす。」
「さっき撮ったんだから私はもういいだろ。」
(後ろを歩く3人にカメラが移る)
「こっちは友人のリーですぅ。」
(リーはカメラに向けてはにかんだ笑顔で中指を立てる。なお、同姓の学生が失踪していることに関しては別資料参照。)
「後ろの2人はガイドのエババとぉ、ハンターのアーネストさんでぇす。」
(現地住民と思われる男と銃を担いだ男が笑顔を向ける。)
「視聴してる皆さぁん、アーネストは本当にすごいんですよぉ?なんと彼、ベトナムから無傷で生還してきた退役軍人ですよぉ?」
(アーネストは見せびらかすようにスプリングフィールドライフルをカメラの前に向けてみせる。)
「そういや、一応監督兼カメラマンの紹介はしないのか?」
(リーが皮肉らしく声をかける。)
「あ、そうだった。(咳込み) 僕の名前はサミュエル、サミュエルで〜す。」
(サミュエルはカメラを持ち替えて自身の顔を写し、小さく手を振る。彼もリー同様失踪している。)
「では早速!教授、今回の調査の具体的な意義を教えてください。」
(教授はカメラを横目に進みながら話し出す。)
「この度の調査はホモ・ネアンデルターレンシスの…もう少し噛み砕いて説明するか。言ってしまえば猿が人類に進化した瞬間を探すことが今回の目的だ。」
「人類に進化した瞬間…ですか?」
「そう、そもそも人間の身体的特徴は他の動物と乖離している。直立二足歩行はさることながら、頭頂部や性器周辺にのみ毛が集中しており黒目が異様に小さい。これだけ特異な性質を兼ね備えてるのは地球上で人類だけだ。」
「つまり人類がその性質を手に入れる途中段階の生物の化石を探しているわけですね。」
「あぁ、5年前に人間は初めて月に行ったが、そもそも自分の先祖すら知らないようじゃ"霊長"類なんぞうかうか名乗れまい。そして、もう一つ、私が気になっていることがある。」
「それはなんですか?」
「人類が猿から進化する過程で、分岐していた可能性もあり得るのだ。例えば、網翅上目からカマキリとゴキブリは分かれて進化した。ゴキブリの方がずっと環境の変化に耐えれるよう出来ているが、カマキリだってそれに負けないくらい繁栄している。」
「つまり人間の亜種にあたる、それも人間と似ても似つかない姿になった生物がこの地に繁栄していたかもしれないのだ。」
「なんなら、今もまだ生息していたっておかしくはないぞ?」
「つまり、人間のもう一つのあり得た姿を発見したいわけですね?」
「平たく言えばそういうことだな。」
「化石を見つけた暁には、教授とアームストロング船長のどっちがより偉人になりますかね?」
「あぁ…流石にアームストロングだ!!」
(教授を含めた全員が大声で笑う。)
【ビデオ6】
(遠くのサバンナを移動するヌーの群れを撮影している。一方でこのビデオにはリーとサミュエルの雑談が記録されている。)
「なぁサム、モケーレ・ムベンベって知ってるか?」
「リー、今ヌー撮ってんだから後でいいか?」
「どうせ音声は使わないだろ?そんなことよりさ、アフリカにはモケーレ・ムベンベとかいう恐竜みたいな怪獣がいるっていう都市伝説があるらしいぜ?」
「なに、信じてんの?」
「な訳ないだろ。たださぁ、ちょっと気になったこともあって。」
「何が気になったんだよ。」
「今回の調査先さ、長年の紛争で危険だったから今まで誰も来たことなかったらしいけど、実際のところ理由はそれだけじゃないらしいんだよ。」
「は?」
「村で聞いたんだが、植民地時代のずっと前からこれから行く地域には何度も行商人やら兵隊やらが通ることがあったらしい。でも、向かう人はいても帰ってくる人は誰もいなかったんだとかなんとか…」
「モケーレ・ムベンベはいるかいないか分からないけど、そういう事件は何度も起こってるんだろ?何千人もの失踪だぜ?よほど厳しい気候条件かそれこそ…そういう得体の知れないなにかがいたり…そもそも、借金苦つってたエババ以外みんなガイド断ってること自体おかしいだろ!?」
「はぁ、あのなぁ…もう地球上のあらゆる陸地が人工衛星で調べ尽くされた現代でそんな化け物だの超常現象があると思うか?」
「俺だってそう思うけどさぁ…」
「そんなことよりさぁ…聞いた?高校時代よく女連れてたカインドいたじゃん?あいつ妹とヤッてたのが親にバレて縁切られたらしいよ?」
「マジで?詳しく詳しく」
「俺も人伝で聞いたんだけどさ…」
(映像が切れる直前に一瞬巨大な鳥のような生物が映る。なお、映像自体の不鮮明さと画角に全体が入る前に映像自体が切れてしまっているため、詳細不明。)
【ビデオ7】
「1、2、3、どうぞ!」
(再び教授が映る。背景にはこれまでとは違い赤褐色のなだらかな岩山が広がっている。)
「ここエヤシ湖周辺の地域は生物学的側面と文化的側面の両方から、人類が初めて誕生した土地だと考えられている。タンザニアに到着してから-」
「おい、教授さん。アイツはなんだ?」
(アーネストが教授の発言を遮り、山の麓にある水辺を指差す。)
「ん?"アイツ"って?」
(一行とカメラが水辺に視線を向ける。ズームすると二匹の鹿のような生き物が水を飲んでる様子が見て取れる。)
「ただのガゼルじゃないのか?」
「よく見てみろよ。動物図鑑は来る前に諸々読んだがあんな生き物は初めて見るぞ?」
(より細かくズームされ。生き物の全貌が見えてくる。シルエットこそ鹿に似ているが毛がほとんど生えていないベージュの皮膚、頭頂部のみに生えた長い毛、そして人間のような平たく短い顔が確認できる。)
「エババ、知ってるか?」
(カメラがエババに向けられるが無言で首を横に振っている。)
「なんだあの動物は?…偶蹄目なのか奇蹄目なのかははっきりと見て取れないがどう見たって新種の哺乳類だ。」
「どうする?一匹仕留めるか?この距離ならいけると思うが。」
(アーネストは銃のボルトハンドルを起こしている。)
「教授、人類学も大切ですけど、ここは多分アレを捕まえるのを優先した方が…」
(リーもまた教授に話しかける。)
「…生け捕りは難しいか?」
「足だけ撃つこともできるが、多分それでも出血か壊死で町に連れてく前に死ぬな。」
「やむを得ん。なるべく苦しめないでやってくれ。」
「了解。」
(カメラが再び動物を映す。6秒後、銃声と共に胸が撃ち抜かれその場に倒れ込む。もう一匹の動物は近くの草むらへ逃げていく。)
「よし、見に行くぞ。」
(教授が一行に声をかける。)
【ビデオ8】
「改めて見ても、不思議な動物だ…」
(一行が動物の周りを取り囲む。)
「人間のような平たい顔、黒い体毛…いや、髪というべきか。それに見てみろ!こいつの前足を!」
(全員が前足の手首を見る。カメラも遅れてズームインする。)
「まるで人間そのものじゃないか!指がいささか短いが五本生えているし、少し生えた毛も爪の構造も人間の手と全く同じだ!」
(教授が興奮気味に動物の腕を撫でる。)
「なぁ教授さん。この生き物…もういい、鹿人間ってことにしよう。何がそんなに面白いんだ?俺からしたらただ不気味な化け物なだけなんだが?」
(アーネストが銃身で鹿人間をつつく。)
「分からないかアーネストくん!この生き物の素晴らしさが!」
(教授はアーネストの両腕を掴む。急に掴んだこともあって2人は少しふらつく。)
「この…鹿人間は体型と大きさ以外はほぼ我々と同じ人間なんだ!細かい検査はできないが関節の数も性器の形状も歯の構造もそっくりそのまま人間!つまり、道中に話していたような我々の亜種にあたる存在かもしれないんだぞ!」
「ま、まぁ第一線で研究してるアンタがそう言うならそうなんだろうが…いやぁ〜流石に気味が悪すぎて受け入れ難いな…」
「素晴らしい…現実は小説より奇なりとはよく言ったものだ!」
(教授はカメラの方は振り向く。)
「サミュエルくん!当然全て撮っているよな!」
「は、はい!重要なところは全て…」
「よしっ!」
(教授は笑顔でガッツポーズをする。)
「これで遺体を持って帰れなくても物的証拠を確保できた!でかした!お手柄だぞサミュエルくん!!」
「あ、ははは!」
(サミュエルの照れ笑いのような声が聞こえてくる。)
【ビデオ9】
(周囲は暗くなり、調査メンバー全員で焚き火を囲んでいる。エババと教授は地図を見て話し合っている。)
「これも撮る必要あるか?」
(エババと教授が笑いながらカメラを見る。)
「こういう帰りの苦労話も大切な記録になりますから。」
「それもそうだな!ハハハハ!」
(教授は上機嫌そうに笑う。)
「それで、結局いつ頃戻る予定です?」
「あぁ、それがな…どうやらあの動物を持って帰るにせよそうでなくても、調査は明後日まで続ける予定だったからそれまで迎えは来ないらしい。民家の光一つ見えない荒野の中だし、行商人にも会えなそうだしな。」
「ジープ、頼むべきでしたね…」
「まぁな…しかし、今更たらればを言っても仕方ない。それらの苦労を鑑みても価値ある発見はできたんだ。200ポンドもある鹿人間を徒歩で運ぶのも大変だし、食料に関してはまだあるだろ?」
「はい、その辺に関しては安心してください!」
(3人が話し合う一方でリーがどこかに向かおうとする。)
「ん?リー?どうした?」
「トイレだよ。」
「1人で大丈夫か?ハイエナとか出そうだが?」
「人に糞してるとこ見られるくらいならハイエナに見られる方がマシだよ!」
(一行が笑い出す。)
【ビデオ10】
(再生が始まって早々、慌てた様子のリーが現れる。)
「うわぁああ!!」
「どうしたんだ?リーくん?」
(教授が心配そうに話しかける。)
「む、向こうにモ、モカ、モケレ、ムベベが!」
「何言ってんだよガキ。」
(アーネストがぶっきらぼうに言いつつ、リーが走ってきたと思われる方向に銃口を向ける。)
「ひょっとして、昼言ってたモケーレ・ムベンベか?」
(サミュエルも教授同様、カメラを向けつつ話しかける。)
「ムベンベ?あんなの都市伝説に決まってるだろ?」
「教授、鹿人間が現れてるのに今更そうやって切り捨てるのはどうかと思いますよ?」
「おい教授さん、学生、ガイド。よく分からんがその化け物がこっち来てるってことでいいのか?」
(アーネストは暗闇に銃口を向けつつ少しずつ進んでいく。)
「どうなんだ?リーくん!何フィートくらいあるんだ?毒液を吐いたりするのか!?」
(震えるリーに対して教授は必死に聞き出そうとする。一方で、恐怖心からかエババが喘ぎ声を上げている。そんな中リーが少しずつ言葉を発する。)
「ム、ムベッベが、ムベンベが!」
「死んでたんだ!!」
【ビデオ11】
(一行が懐中電灯を持ち、辺りを照らしている。なおサミュエルのみビデオカメラに付属しているライトを使用している。)
「こいつか…」
(先頭を歩いていたアーネストの前に、巨大な肉の壁が現れる。リーは震えながら彼の後ろをつけている。)
「にしても馬鹿でかいな…少なくてもゾウなんかじゃねぇ。」
(アーネストは壁に沿ってゆっくり歩いていく。そのうち壁はカーブし、2人の姿が見えなくなる。)
「くそっ!!」
「ど、どうした!」
(アーネストの驚く声に教授は心配して聞き返す。)
「教授…こいつもだよ…」
(カメラを持ったサミュエルが急いでアーネストの元へ走っていく。直後、へたり込んだリーと銃を構えるアーネスト、
そして苦悶の表情を浮かべて倒れた、髪の生えた巨大な恐竜の顔が写り込む。)
【ビデオ12】
「素晴らしい!!今日は、もうっなんて素晴らしい日なんだ!!!」
(教授は恐竜の顔を前にして叫び続け、アーネストは頭をガサガサと掻いている。)
「気持ち悪いバケモンばっか出てきやがって…くそっ…」
「鹿人間と違ってこの…ブロントザウルス人間?は規格外に大きいですね。」
(サミュエルだけが教授に話しかける。)
「きっとこの地域では彼がゾウのニッチを占めているんだろう。首が長いだけで体重はゾウと近いように見えるしな!」
(教授は胸部へと回り込み、サミュエルもそれに続く。ブロントザウルス人間の足も鹿人間と同様掌に似た構造をしている。)
「見たまえサミュエルくん!乳首が、乳首があるぞ!哺乳類しか持ち得ない、我々の専売特許をこの巨人も備えている!間違えなく人間なんだ!」
「おお!」
「この調子ならヘソも…」
(教授は腹部を前にして言葉を失う。)
(カメラは皮膚が裂け筋肉と腸が露出したブロンドザウルス人間の腹部を写しだす。)
(肉と臓物の周りには血が池を作っており、サミュエルが足を踏み入れかけてしまう。)
「そうか、こいつはライオンか何かに襲われてしまったんだな…」
「違う…」
(声に驚き、2人は勢いよく振り返るとそこにはリーが立っていた。恐怖のあまり失禁しているのか、ズボンがぐっしょりと濡れている。)
「違うも何も、怪我で抉れた傷とは思えなくないか?」
「違う…いや、そうなんだけど、そうじゃない…」
「何言ってるんだ?」
「そんな傷!さっき見た時はついてなかったんだよ!!」
(直後、死骸を挟んだ反対側から悲鳴が聞こえてくる。)
「今度はなんだ!?」
「助けてぇ…もうやめてぇ!」
(教授が驚愕する一方、リーは逃げ出そうとする。)
(すると突如死骸の足の隙間から大きな口が現れリーの頭に噛みついた。)
(リーはしばらくもがくも、すぐに全身が脱力してしまう。)
「なんてこった!大自然はいつも私の想像を超えてきてくれる!!」
(もはや発狂に近い状態に陥った教授は腹部から飛び出し、リーの体がまだ挟まっている口の前に鎮座する。)
(一方でサミュエルは頭沿いに死骸から離れ、教授と口の持ち主を撮影し出す。)
(長い髪の毛と薄橙色の皮膚を持つ巨大な肉食恐竜のような動物を前にして教授は涙を流す。)
「サミュエルくぅん…見ているかいぃ?ヘソが、ヘソが見えるよぉ?人類はぁ…一種類じゃなかったんだねぇ…他にもお友達いたんだねぇ?…嬉しいなぁ…十余年おっかけてた甲斐あったよぉ…楽しかったなぁ…」
(教授は人間のように五本の指が備わった肉食竜に腹を掴まれ、そのまま口へと運ばれていく。)
(撮影者のサミュエルが恐怖からか死骸の陰に隠れ、カメラも同様に撮影できなくなる。
(サミュエルの啜り泣く声と形容し難い叫び声が響き渡る。)
【ビデオ13】
完全に損傷しているため再生不可能。
【ビデオ14】
(断続的な銃声と咆哮が遠くから聞こえてくる。)
(泣きじゃくる音と砂利を踏む音が聞こえる。)
(手ぶれが激しいため映像の詳細は判別できない。)
(5分間同じような映像が続いたのち、サミュエルが小さな岩山を見つけ隠れる。)
「みんな…みんな…うっ…うぅ…」
(3分間泣き声のみが記録される。)
「うっ…うぅっ……うっ…えっ……あれ、何だ?…」
(壁に壁画のようなものがあることに気づく。)
(そこにはさまざまな動植物と共に恐竜や本来この地域にいない生物が描かれている。)
(サミュエルはしばらくカメラを向けた後、ゆっくりと壁画に沿って洞窟の奥へと進んでいく。)
「…すごい…」
(カメラの前に岩山に突き刺さるような形で埋まった流線型のロケットのようなものが現れる。)
(船は青く光っており、周囲には四角いコンテナが散らばっている。)
「……よし。」
(サミュエルはカメラの方向を変え、自分の顔を写す。)
「僕の名前はサミュエル・ロマ。アメリカのコロンビア大学の学生です。このカメラのテープがそのまま残ってたらそっちを参考にして欲しいけど、僕たち化石発掘チームは捜索の道中未知の生命体に出会い、おそらく…いや、僕以外の人間が生き残っている確率は…低いと思います。」
「それでも僕は…別に
「そして…ハァ、それからですね…僕は今から…」
(カメラを再びロケットに向ける。)
「あのロケット…いや、宇宙船を調べてみたいと思います。」
「幸い、ここは入り口が小さな洞窟の中なので…あのティラノザウルス人間も入ってこれないはずです…」
(サミュエルはゆっくりと歩いていく。)
「食料も無線機も置いたままですし、ガイドのエババは最初に食べられたから帰り道も分からないし、はっきり言って僕はもう…詰んでます。」
(ロケットのすぐ近くまでやってくる。)
「それでも…アメリカもソ連も作れないようなこの精巧かつ美しいロケットを見過ごすのは…流石に一生後悔しそうです…」
(サミュエルはロケットの表面を撫でる。)
「…触感は、新品の車の表面みたいな感じです…触るたびにそこを中心に…光の波紋みたいなものが広がってます。」
(カメラはロケットの上部に開いた円形の穴を写す。)
「これは…入り口…なんですかね?」
(サミュエルはロケットの上へよじ登り入り口の真横に立つ。)
(少し躊躇するようなため息を出したあと、左足からゆっくりと入っていく。)
(腕以外の全身が入ったあと、入り口の横に置いていたカメラを手に取り、ロケット内部へ向ける。)
「こいつは…人類史が変わる大発見だぞ!」
(船内は有機的なパーツで大部分が構成されており、ムカデのような形状のワイヤーや液体の入った人の背丈ほどのフラスコが配置されている。)
「こんなフラスコも…肉のような物体で構成された時計も…人類が作れる代物じゃない…」
(サミュエルは目の前のモニターのような物体を撫でる。)
(その直後、モニターが突然光だし、7枚の写真のようなものを浮かび上がらせる。)
(チンパンジーが写った写真を中心に放射状に紐付けられたその他の写真が並んでいる。)
(6枚の写真にはそれぞれ、
鹿人間、
ブロントザウルス人間、
ティラノザウルス人間、
大きな鳥のような人間、
ムカデのような人間、
そして、我々人類の写真が写っている。)
「これってつまり…皆さん!」
(サミュエルはいきなり自身にカメラを向ける。)
「とんでもない発見ですよ!!我々人類は…」
「おい!クソガキ!」
(突如怒号が割って入る。反射的にサミュエルがカメラを向けると、そこには左腕を失い血塗れになったアーネストが銃を片手に立っていた。)
「お前ら…お前らのせいだからなぁ!!」
(アーネストはサミュエルへ殴りかかり、映像がブレる。サミュエル自身は説得をしようと何か呟いている。)
「てめぇらがこんなクソみたいなところ連れてこなけりゃ!俺は今頃ベットで、左手でマスかきながら寝れてたんだぞぉ!」
(アーネストは馬乗りになり顔面を殴り続ける。なお、サミュエルはなおカメラを手放さず彼を捉え続けている。)
「なぁ…おい、いつまで撮り続けてんだよ!そんなもんあったって何になるってんだ!」
(サミュエルの口に銃口を突きつけた彼は罵声を浴びせ続ける。)
「死ね!ゴミインテリが…ぎゃあ!」
(アーネストが引き金を引こうとした直後、顔面に胴が細長い小柄な人間が飛びかかった。)
「どけっ!クソ猿!死ねっクソが!」
(彼は顔に張り付いたムカデ人間を引き剥がそうともがき、銃を乱射する。)
(カメラは瀕死のサミュエルが引き摺っており、よろめきながら出口へ向かっていることが見て取れる。)
(直後、船内のコンピューターが爆発し、船内にいた3人は爆炎に巻き込まれる。)
(爆風に吹き飛ばされたカメラは偶然にも船外へ吹き飛ばされ、クルクルと宙を舞った後砂の上に落ちる。)
(カメラはなおもロケットの入り口を映している。)
「はぁ…はぁ…痛い…」
(息を荒げるサミュエルの声と共に入り口から腕が見えてくる。)
「○○○○○○…」
「え…えっ?」
(彼の上半身が入り口から這い出たタイミングで、判読できない言語の声と共に全体が小刻みに震え出す。)
「ちょ…ちょ、ま…ちょっと待って!」
(サミュエルの悲痛な声も虚しく、全体を包む光がエンジンと思われる部位に集中する。)
「待って!誰か!嫌だ!誰か助けてぇ!!」
(ロケットは勢いよく光の束を噴き出し、凄まじい速さでサミュエル諸共岩盤を突き破って飛んでいく。)
(カメラは衝撃波に巻き込まれ、洞窟の外まで飛ばされる。)
(カメラは天高く登っていく緑色の光を捉え、その後テープが切れる。)
(映像終了。)
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