20
結果発表の後、ボクと麗寧は綾瀬さんから今後の説明を受けた。
それが終わって会場を後にしたボクたちは、二人並んで帰り道を歩いていた。
空は夕焼け色に染まっていて、ボクたちの足元には二人分の影が伸びている。
ボクの身体は夏の暑さとは違う理由で、ずっと火照っていた。
その熱は心の中にも浸透しているかのようで、心身ともにじんわりと熱を放っている。
叫び出したい気持ちはさすがにもう収まっていた。
けれど、オーディションに合格したという興奮がまだ冷めきっていないんだ。
少なくとも今日一日はこの火照りが収まることはないかもしれない。
「すごく嬉しそうだね」
隣を歩く麗寧が、微笑ましいものを見るように言った。
「え……?」
「だってさっきから顔がニヤけているし、今にもスキップをしそうな足取りだったよ」
思わず自分の頬を触る。
……ボクがニヤけていた?
確かに、触れると口角が上がっているような……。
ボクとしては嬉しさを隠しているつもりだった。
けれど、どうも滲み出てしまっていたらしい。
ボクは頬を両手でぐにぐにと揉んでどうにか誤魔化そうとする。
そうしたら麗寧に笑われてしまった。
……笑うなよ。
ボクは恥ずかしさに、不満顔を意識して麗寧から顔を背けた。
そんなボクに。
「おめでとう、晴希」
麗寧はそう言ってくれた。
照れ臭さが湧き上がってきて、ボクは素直な言葉を返せそうになかった。
だから代わりに「……うん」と頷く。
それから足元に目をやる。
ボクと麗寧の影が重なっていた。
なんとなくそれを見ながら歩く。
口を開いて閉じてを繰り返したり、時々夕焼け空に目を向けたり……。
そうやって言おうか言わないかを考えて……。
結局、言うべきだという結論に至る。
「……あのさ」
麗寧の顔は見られないまま、指先で頬を掻きながら麗寧に声をかけた。
「なにかな」
「その……。麗寧も、おめでとう」
「ありがとう」
麗寧はボクと違って素直に言ってくれた。
そんな麗寧に、ボクは少し悩んでから拳を突き出す。
ふと、思いついたことがあったんだ。
「……これは?」
「麗寧も拳出して、ここに合わせるんだよ」
「どういう意味があるのかな」
「なんというか、その……。やったぜってこと」
よく映画なんかで見る仕草、フィスト・バンプというやつだ。
ボクと麗寧はオーディションに合格することができた。
そしてボクたちは称え合ったわけで、そうなるとまさしく今やる仕草だと思ったんだ。
「……なるほど。君らしいね」
――そしてボクたちは、夕焼け空の下で拳を合わせた。
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