第1話 偶然の遺稿
出版社の狭いデスクで、遥はため息をついた。
終わらない原稿の山に囲まれ、肩が凝る。
「美咲、これ見てくれる?」と声をかけると、明るい笑顔が返ってきた。
「また遺稿の整理? そんなのいつまで続くのよ」
「誰かの大切な物語かもしれないだろ」
ふと、書庫の隅に積まれた埃だらけの箱が目に留まった。
気まぐれに手を伸ばし、そっと開けてみる。
そこにあったのは、見知らぬ名前が書かれた一冊の脚本。
朝倉玲司――その名前が、遥の胸を強く打った。
帰り道、スマホを取り出し彼の名前を検索する。
出てきたのは、数年前に業界から忽然と姿を消した脚本家のニュース記事。
「若くして天才と呼ばれたが、突然の失踪。理由は謎のまま。」
余命宣告を受けているという噂もあった。
「なんでこんな話が今になって…」
遥は知らず知らず、その物語に引き込まれていた。
その夜、遥は決意する。
「この脚本を、完成させたい。彼の人生の続きを、誰かに届けたい。」
ここから、彼女の新しい物語が動き始める――。
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