第24話


「どうしたの颯汰。食べないの?」


「ごめん母さん。今日はいい」


「あらそう……」


食事は全く喉を通らなかった。


雨宮は一口も夕食に口をつけずに、自分の部屋に引っ込んだ。


夕食どころではなかった。


頭の中では、つい数時間前に日本解放戦線の隠れ事務所でのことがぐるぐる巡っていた。


『神田さんが捕まった…!』


『神田さんを助け出すんだ…!』


『今こそ武装蜂起の時だ…!!」


『帝国陸軍が、アジア戦線で負けている今ならいける…!!』


『今しかない…!命をかけて戦うんだ!きっと神風が吹いてくれる…!』


日本解放戦線のリーダーである神田智則が捕まったことで、武装蜂起が計画されているらしい。

神田智則は、日本解放戦線におけるカリスマ的な存在だった。


顔を見たこともないのに神田智則の信者になっているものも多い。


雨宮も、神田智則の思想に共感し、尊敬しているメンバーの一人だった。


そんな神田智則が、政府によって拘束されたという。


放っておけばおそらく死刑は免れないだろう。


日本解放戦線は、神田智則のカリスマ的魅力によってまとまっていたと言ってもいいので、このままだと空中分解する可能性がある。


すでに神田智則を助けるために武装蜂起が計画されており、雨宮もそれに参加するように誘われた。


「…武装蜂起か」


雨宮はこっそりと引き出しを開けた。


中から小さな小銃が出てくる。


日本解放戦線のメンバーに配られる武器。


これを使って帝国陸軍と戦え、というのが現在解放戦線の上からきた命令らしい。


こんなちっぽけな武器で戦えるのか?


雨宮は不安だった。


本当のところを言うと、武装蜂起は無謀に思えた。


確かに現在日本軍がアジア戦線においてアメリカに負けているのは事実かもしれない。


だがだからと言って武装蜂起が成功するとは限らない。


あっさりと制圧されて、関わった人間皆死刑ということもあり得る。


武装蜂起に参加するということは、ほとんど死を選ぶことと同義だった。


「…っ」


雨宮の頭の中に家族や大切な友人の顔がよぎる。


武装蜂起に参加すれば、もう彼らと会うこともない。


今なら引き返せる。


この銃を捨てて、日本解放戦線のことなんか忘れて、明日から普通の学生として生きればいい。


本音を隠し、取り繕い、政府の指示に従えば、少なくとも平穏は約束されている。


考える自由の許されない、家畜の平穏だが。


「くそっ…」


雨宮は悪態をついた。


結局、自分の気持ちを誤魔化すことはできない。


間違ったことを間違っているとも言えずに、家畜の平穏に安住することは自分には不可能だとわかっていた。


それができたらそもそも日本解放戦線なんかに入っていない。


雨宮は覚悟を決めて、ペンを取り、ノートに遺書を書き始めた。


自分が死んだ後、家族が引き出しの中からこれを見つけるはずだ。


父さん母さん、俺は自由のために死にます。


雨宮は、おそらく自分が死んだ後にこれを読むことになるであろう家族のことを思い、表情を歪めるのだった。





「ねぇ、雨宮くん。どうしたの?」


「なんだよ」


「なんか元気なさそうだなって思って…」


翌日の学校でも雨宮はずっと武装蜂起のことについて考えていた。


今朝、ポストに投函されていた秘密の手紙によって雨宮にも指示が与えられていた。


雨宮は陽動作戦に駆り出されることになった。


雨宮は今日の夜、仲間と共に政府庁舎を襲う。


だがそれは揺動で、本体は皇居へと向かう。


軍部によって操られている天皇陛下に直談判し、神田智則を解放してもらうというのが、解放戦線の作戦だった。


雨宮には杜撰で無謀な試みに思えたがしかしやるしかない。


どのみち日本解放戦線がなくなれば、政府に対する抵抗勢力はなくなる。


そうなれば、日本国民が自由を手にすることは永久になくなってしまうかもしれない。


「雨宮くんったら…」


「なんだようるせぇな!!!」


何かを察したのか、学校にいる間中、安田がひっきりなしに話しかけてきた。


イライラした雨宮は、安田を怒鳴りつける。

安田は怒鳴られると、悲しそうな顔をして自分の席に戻っていった。

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