第17話
ルクス特使と大統領の面会から数時間後。
大統領は急遽、ホワイトハウスの執務室に閣僚らを集めて会議を行なっていた。
大統領との面会を終えたルクス特使はすぐにワープ装置を使いテルシス星へと戻っていった。
近いうちに必ず地球を訪れると言い残して。
ルクス特使がテルシス星へと戻った後、面会で話し合われた内容についてすぐに政権幹部らと意見交換が必要だと感じた大統領は閣僚らに招集をかけた。
物理的に離れた距離にいて集まれないものについては、オンラインで会議に参加していた。
「どう思うね?」
「そうですね。ルクス特使との会談内容は概ね成功と言っていいのではないでしょうか」
「私もそう思います」
「何より大きいのがテルシス星がナチス政権や大日本帝国政府側につかないことを確認できたことだ。仮に宇宙人がわれわれの敵勢力の味方となった場合、われわれは非常に危険な立場に置かれることになっていた」
「ふむ…続けたまえ」
閣僚たちはルクス特使と大統領の会談の内容を成功だと評した。
テルシス星が自由と法の支配を重視するアメリカの価値観に同調し、アメリカの側につくと断言したことが、今回の会談の最高の成果だった。
2週間前の銃撃事件のことについても、ルクス特使は大統領の謝罪を受け入れ、理解を示した。
大統領や側近たちは、銃撃事件がルクス特使を殺すためにアメリカ政府が仕組んだものだと勘違いされることを最も恐れていたが、ルクス特使の口からアメリカを非難する言葉は一つも出なかった。
さらに会談では、テルシス星からアメリカ合衆国への技術移転についての話も出た。
地球よりもはるかに文明的に進んだテルシス星からの技術が、アメリカ合衆国にもたらされる意味はとても大きい。
仮にテルシス星とアメリカ合衆国の技術協力が実現した場合、アメリカ政府はナチスドイツや日本との技術競争において圧倒的に有利な立場に立つことになる。
今回の会談では、銃撃事件についての謝罪を行い、理解を得るのがアメリカ側の最大の目的だったが、いざ会談が始まってみると謝罪があっさり受け入れられ、銃撃事件にアメリカ政府が関わっていないという理解が得られただけではなく、テルシス星はアメリカ政府を支持するという表明、そして技術移転という二つの、アメリカ側が思っても見なかった成果が転がり込んできたと言った具合だった。
閣僚たちの会談は大成功だった、という評価もあながち誇張表現でもないように思われた。
「しかし彼らはなぜそこまで大日本帝国政府にこだわると思うかね?」
テルシス星との技術協力に関して互いに意見を述べ合っていた閣僚に、大統領が疑問を投げかける。
「我々の最大の敵勢力は大日本帝国よりもヨーロッパ全土を支配するナチスドイツだ。大日本帝国よりもナチスドイツの方がはるかに勢力としても大きく、また技術的にも先に進んでいることは向こうも十分に知っているはずだろう?」
「さあ、全く見当もつきませんな。彼らがなぜ日本にこだわるのか…」
「もしかしたら我々が握っていない何らかの日本に関する情報を彼らは持っているのかもしれない」
「現時点ではナチスドイツの方が我々にとって強大な敵ですが、将来的には日本こそがアメリカ政府の最大の敵になると、もしかしたらテルシス星はそう考えているのかもしれません」
「ふむ…日本がナチスドイツを超える、
か……現状からはなかなか考えにくいが…」
大日本帝国は支配地域こそナチスドイツよりも広いものの、技術的、経済的にはアメリカ合衆国やナチスドイツに後塵を配している。
しかし、資源や人口といった面では大日本帝国はナチスやアメリカに引けを取らないどころか、優っている面がある。
特に中国全土を支配している大日本帝国は、人的資源という面では無視することのできない可能性を秘めている。
もしかりに日本が将来的にそれらの人工資源、天然資源を背景に飛躍的に勢力を拡大することがあれば……その時はナチス政権に変わり、大日本帝国政府こそがアメリカひいては自由世界最大の敵となるだろう。
もしかしたらテルシス星はそのことを予見しているのかもしれなかった。
「憶測を飛躍させるのは早計ですな。もしかしたら我々には及びのつかないことを考えているのかもしれません。とにかく、我々にとって大事なのは、テルシス星との友好関係をどう維持し、どれだけの技術提供を受けられるかです」
「そうですな。テルシス星からの技術協力があれば……我々の経済も軍事も、革命的な発展を遂げるでしょうな」
「しかし、今持ってわからないのはなぜテルシス星が我が政府にこうも肩入れをするかということだ。テルシス星にとっては、我々との間に何の利害関係もないはずなのに」
「そうですな……彼らは一体何が目的で地球にやってきて、何を成すために我々に干渉しようとしているのでしょう?」
「さあ、わかりませんな。我々よりもはるかに高度な文明に住む知的生命体が考えることは想像もできない」
「…とにかく我々にできることは、アメリが合衆国、ひいては自由世界の発展のために全身全霊を持ってテルシス星との関係を深化させることだけですな」
「…ふむ。それに関しては諸君らのいうとおりだ」
会議は遅くまで続いた。
ああでもない、こうでもないと議論をしてい
る閣僚たちを横目に、大統領は結局宇宙人の素顔を拝むことはできなかったなとそんなことを考えていた。
携帯ワープ装置でテルシス星へと戻った俺に、すぐにアーカード閣下からの連絡が入った。
「ルクスくん。無事かね?そこは地球か?」
「いいえ、閣下。私は今テルシス星に帰ってきています。あれからつい先ほどまで、地球のとある国家に滞在していました」
「ほおそうか。それで……成果の程は?」
「はい。2週間の滞在を持って地球の政治情勢、各勢力の関係などについて、概ね把握しました。今回滞在したアメリカという国の政府とも会談を行い、生産的な関係を築くための約束事などを行なってまいりました」
「それは素晴らしい。たった2週間で、かなりの進展じゃないか…!我がテルシス星における対地球政策について……何か見えたものがあったということなんだね」
「はい。現時点での私の所感ですと、アメリカ合衆国との関係を軸に地球に対して干渉を行うやり方が1番効率的かと考えています。アメリカ合衆国は、地球における自由連合の盟主であり経済規模という観点で最も優位に立つ国家です。政府や国民の間で共有されている価値観も非常に我々と近いものがあり、友好関係を築く国家として1番妥当と判断しました」
「…ふむふむ。国家か。懐かしい響きだ。地球にはまだ星を統一する政府がないのだね」
「はい。地球はまだ100以上の国家が独自の政府を持っている、我が星でいうところの数100年前レベルの発展段階にあります」
「そうか……まぁ、地球のことに関しては君に任せるよ。権限の範囲内で好きにしてくれたまえ」
「ありがとうございます」
「ただし……地球人を殺してはならぬぞルクスくん」
「はい、承知しております」
「宇宙人権管理委員会の連中にこれ以上内政干渉の大義名分を与えたくはない。地球人との取引はあくまで穏便に頼むぞ」
「承知しております。絶対に地球人を殺さずにこの任務をやり遂げてみせると誓います、アーカード閣下」
「いい返事だよルクスくん。やはり君をこの任務に選んで正解だった。期待しているからね。頼んだよ」
大統領は何度も何度も俺に地球人を殺してはならないと念を押してから、通信を終えた。
「ふぅ…」
アーマーフレームを脱ぎ、一息つく。
駆けつけてきた省庁のスタッフから着替えを受け取りながら、俺はつぶやいた。
「安心してください大統領。地球人を俺が直接殺すことは絶対にありませんから」
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