第9話


一瞬何が起きているのか理解できなかった。

人々の悲鳴と怒号が状況をより一層と混沌とさせる。


その場に集まっていた人間たちが右へ左へと逃げ惑い、先ほどまでのお祝いムードは完全に吹き飛んでいた。


「どうなっている?」


『敵性反応を確認しました』


俺の視界に検知された敵性反応が赤い輪郭で表示される。


そいつは俺の背後に控えていた部隊の中の一人で、ちょうど今ライフルのマガジンを交換しようとしているところだった。


「何が起こった?」


『攻撃を受けました。銃撃によるアーマーフレームの損耗率は誤差レベルです』


「俺は今、安全か?」


『はい。命の関わるような危険はありません』


「そうか」


状況はよくわからないが命の危険はないようだ。


しかしどうして俺は攻撃を受けたのだろうか。


俺の何かしらの行動が向こう側に脅威であると認識されたか?


あるいは最初から俺を殺すつもりだったの

か?


「うぅ…ぐぅう…」


「大統領!大丈夫ですか!?」


「しっかりしてください!!」


「大統領!!」


俺は背後を仰いだ。


大統領が地面に倒れ、呻き声をあげていた。


俺へ向けて発射された銃弾の流れ弾が当たったようだ。


腹を押さえながら、地面に蹲っている。


すぐにSPたちが駆けつけて大統領を守るように周囲を取り囲んだ。


「少なくとも国家の意思ではない、のか?」


大統領が被害を受けたとなれば、アメリカ政府が俺を殺そうとしたわけではないようだ。


「ああ、なんてことだ。だから言ったのに…!」


人々が逃げ惑う中、若い男が一人、俺の方へ駆け寄ってきた。


そいつは俺の元までやってきて、大声で捲し立てた。


「逃げてくれ…!!ここは危険だ…!」


「…?」


「僕はアレックス…!君にメッセージを送った研究者だよ…!!!」


「…?」


「僕は君の敵ではない…!ああ、どうしてこんなことになったんだ…!だから僕は反対だったんだ…!!!君を地球に迎え入れる特別な日に、部隊を動員するなんて…!!」


研究者を名乗るアレックスという男は、そう言って悲痛な表情を浮かべた。


よくわからないが敵ではなさそうだ。


『銃弾の装填を終えたようです。再び攻撃が開始されます』


自律戦闘システムからの警告があった。


パパパパパパパパ!!!!


再び銃撃が開始された。


無数の銃弾がアーマーフレームの装甲に当たって地面に落ちる。


「よせ、やめろぉおおおおお!!」


先ほどの研究者の男が叫んでライフルを持った男に突っ込んでいった。


男は迷うことなく、研究者に対して銃口を向ける。


「ぐ…」


銃撃を受けた研究者が地面に倒れた。


男はニヤリと笑い、2度目のマガジン交換の動作に入った。


『対象を排除しますか?』


「いや、待て…殺してはダメだ」


『対象を排除しない場合、被害は拡大していきますが』


「くそ…人権委員会の連中め…」


俺は歯噛みをした。


そもそも宇宙人権委員会が余計な介入をしてこなければ、被害はここまで大きくはならなかったはずだ。


自律戦闘システムが極めて初期の段階で敵性反応を探知し、敵を排除していたはずだ。


それができないのは、宇宙人権管理委員会からの要請によって実質地球人の殺害が禁止されているからだった。


もし俺が地球人を殺せば、テルシス星の特使が地球人を殺したとして大統領が銀河連盟に告発され、非難を受けることになる。


そうなれば、現在の政権はおそらく吹っ飛び、俺の次期大統領の推薦の話も当然破談になってしまうだろう。


なんとか地球人を殺さずにこの状況に対処しなくてはならない。


「対象を殺さずに無力化することはできるか?」


『可能です。命令を実行する場合、対象に接近する必要があります』


「了解だ」


おそらくこのアーマーフレームに搭載されている遠距離武器……プラズマウエポンなどを使うと、対象を殺してしまう。


無力化するには、対象に接近する必要があるのだろう。


俺は二回目のマガジン交換を終えて再び銃撃を開始した対象に近づいていく。


男は俺が接近してきたのを見ると、ライフルを捨てて懐から小さな楕円形の何かを取り出した。


「あれは?」


『爆発物のようです』


「危険なのか?」


『フレームの装甲を貫通するほどの威力はありません』


「だったらこのまま突っ込むぞ」


俺は男に向かって速度を上げて突進する。


男の瞳に一瞬怯えの色が映ったのが見えた。


パァン!!!


1発の乾いた銃声が響き渡った。


こちらへ向けて爆発物を投擲しようとしていた男が、目を見開いたまま地面に倒れた。


「死んだのか?」


俺は足を止めて、男の生死を確認する。


『対象は死亡しました。周囲に敵性反応は確認できません』


「…そうか」


どうやら銃撃犯は単独だったようだ。


これ以上被害が拡大しないことがわかり、俺はほっと胸を撫で下ろした。


「それにしても…一体なんなんだ?仲間割れか?」


俺は首を傾げる。


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」


撃ち殺された男の横で銃を構えたまま肩で息をしているのは、おそらく銃撃犯と同じ部隊に所属していると思われる一人の軍人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る