第42話『カラス』

 九条菜々花ボクは夕食の買い出しにスーパーへ来ていた。


 今日は中華の気分だ。青椒肉絲チンジャオロースにしよう。

 ピーマンや豚肉をカゴに入れるとお菓子コーナーが目に入る。引き寄せられるようにスナック菓子の前に来た。

 やっぱポテちんはのり塩味が定番だよねぇ……あれ?期間限定わさび醤油味だとぉ!!これは悩むなぁ。うーん、どうしよぉ……

 優柔不断を発揮して、どれくらい経っただろうか……ようやく会計を済ませて帰路に着いた。マイバッグに食料品と一緒にポテちんが2入れて……。


 夕食を作り終えて、ポテちんわさび醤油味の袋を開けた時だった。

 ピロリン♪

LIKEライク』のグループ『学園祭実行委員会』の着信音が鳴った。

 菜々花ボクは、ポテちんを頬張りながら父に借りているスマホを開いた。

「誰だろ?」

『やあ、学園祭実行委員会の諸君。私はDr.ペストだ。3丁目の雑木林ぞうきばやしの大木に面白いを飾ってきた。是非、見に行くといい。ではまた』


 ぞくり……


 菜々花ボクは全身に鳥肌が立った。

「メッセージの既読は5……るぅちゃんを除いた菜々花ボク達メンバーが5人と黒崎刑事…………」

 嫌な予感しかしなかった。菜々花ボクはエプロンを外すのも忘れ、家を飛び出した!!


 雑木林に着いた頃には陽もだいぶ傾き薄暗くなっていた。生い茂る木々は、まるでボクを囲むように不気味な影を作り出していた。

 ふと空を見上げると、やけにカラスの集団が集まっている場所がある。耳障りな鳴き声は、乾いた笑い声にも聞こえた。

 菜々花ボクは、身の丈程の草木をかき分けてその方向へ進んだ。



 は大木の前に立ち尽くしていた。

 微動だにせず、ただを見ている。そして、目をつむり深呼吸をした。その時、カサカサと草をかき分ける音を耳にした。男は、音のする方向と反対側へと走り去った。

 雑木林から出ると軽トラックへ乗り込んだ。塗料の付着した白いつなぎの袖をまくり、くわえた煙草に火をつけた。ひとつ煙を吐き出すと、エンジンを掛け走り去った。



 天音凌来あまねりくは、生い茂った草場を抜けると、大木にたどり着いた。

 ギャー……ギャー……

 数羽のカラスが大木の枝に止まり、不気味な鳴き声をあげている。大木に何かが吊り下がっているのが見えた。凌来りくはカラスに警戒しながら、落ちた枯れ木をパキパキと踏みそちら側へまわった。

 そして……を見つけた。

 凌来りくは全身が震えた。

 おもむろにスマートフォンを取り出しカメラを起動する。震える手を沈めシャッターをきった。

 何度も何度も何度も………

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 凌来はガクガクと膝が笑いその場に膝まづいた。それとは裏腹に、凌来の表情は恍惚こうこつに満ち溢れていた。



 菜々花ボクは生い茂る草木で手をすり切りながら、大木まで辿り着いた。そして、膝を地面に着いた凌来りくちゃんが目に入った。明らかに様子がおかしい……

 「凌来りくちゃん!!大丈夫?一体何が……っ!!」

 菜々花ボクはがく然として気が遠くなった。あごがカタカタと震え、全身に鳥肌が立った。


 大木の枝から吊り下げられた神山千春ちぃちゃんは、紫色の顔で脱力していた。

 腹部は引き裂……中身……垂……下……

「いやぁああああああああ!!!!」


 雑木林に菜々花ボクの叫び声が響き渡った。

 落ちたに群がるカラス共は、人間を馬鹿にするような醜い笑い声をあげていた。

 まるで、Dr.ペストのように……


「ど、どうしてこんなぁ……ああっ!!」

 菜々花ボクは、ちぃちゃん無惨な姿をの当たりにして、酷い眩暈めまいに襲われた。


「な、菜々花ななか!!」

 気が付くと、凌来りくちゃんが倒れた菜々花ボクの肩を揺らしていた。


菜々ななちゃん!!」

菜々花ななかぁ!!」

 國枝彩希さきねぇ乙葉野キリトキリちゃんが草むらから飛び出して来た。

 異常な生臭さが鼻についたキリちゃんと彩希姉さきねぇは、辺りを見回した。

「うわぁあああっ!!」

「いやぁああっ!!ち、千春ぅ!!」

 二人は、変わり果てた親友の姿に吃驚きっきょうし、膝から崩れ落ちた。

 程なくして現れた伊集院継治つぎちゃんは、少し離れた所でちぃちゃんが見え、立ち尽くし震えていた。


 これだけの人間が現れても尚、カラス共はちぃちゃんをついばんでいる。

「この野郎!!」

「離れろ!!」

 キリちゃんと凌来りくちゃんは、落ちていた木の枝を振り回し、カラス共を追い払った。


「皆っ!!何があった?大丈……なっ!!」

 黒崎守刑事も駆けつけた。そして、ちぃちゃんの無惨な姿を見て言葉を失った。

 しかし、直ぐに冷静さを取り戻した黒崎刑事は皆を一箇所に集めた。黒崎刑事は、ちぃちゃんには申し訳ないが、菜々花ボク達を落ち着かせる為、ご遺体から背を向けるよう指示をした。

 みんな恐ろしくて仕方がなかった。何故こんな目に遭うのか……?Dr.ペストは何が目的なのか?一体……誰なのか?


「今、署に連絡したからもう直ぐ救急車が来るよ!!」

 黒崎刑事は菜々花ボク達に小さな希望のような言葉を掛けてくれたけど、みんなちぃちゃんは亡くなっている、もう助からないと理解していた。

「1、2、3、4、5……関君、関瑠羽太君は?」

 キリちゃんは、るぅちゃんが行方不明で連絡すら取れない事を黒崎刑事に説明した。


 黒崎刑事は眉をしかめて腕組みをした。

 「皆、間もなく警察が来る。証拠品として皆のスマホを没収される筈だ。そうなると厄介だ、今直ぐにこの場から立ち去ってくれ。またSNSで連絡する!!」

 皆は急いで雑木林を抜け、それぞれの帰路に着いた。身も心もボロボロで、この日、グループに連絡してくる者は誰一人いなかった。

 菜々花ボクは神山家の親御さんの気持ちを考えると、とても耐えられなかった。

 今夜は一睡も出来ない……と、誰もが思った。しかし、みんな深い深い眠りについた……まるで現実から目を背けるかのように。これから起こる事に備えるかのように……



 











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