ep.2
「きゃはは、やだぁ〜!」
オフィスに入ると、聞き慣れた猫撫で声が聞こえてきた。
まだ就業時間前。
皆、思い思いに過ごしている。
その中で一際目立っている集団がいた。
男性達に囲まれ、気分を良くしているその女性は相澤 夢花さん。
ふわふわと可愛いらしい、いかにも男性が好きそうな見た目の彼女はいつもこの時間は男性に囲まれている。
『……相変わらずですね』
「混ざってきていいのよ」
『勘弁してください。私男性苦手なんですから』
「美人なのに勿体ないわね」
『あはは…』
そう、私は男性が苦手だった。
恐怖症とまではいかないが、好んで側には寄りたくない。
アパレル業界に就職したのも女性社会だからだ。
蓋を開ければ、男性社員もそこそこいて絶望したのを覚えている。
「昔よりは耐性ついたでしょ」
『あ、はい。なんとか。
仕事上関わらなきゃいけませんから』
「よかったじゃない。いつまでも男性苦手じゃ彼氏も出来ないわよ」
『………いたことありますよ、彼氏』
「そうなの?」
『はい。一人だけですけど』
脳裏に三年前の記憶が甦る。
県外の異動が決まった時、私は彼より仕事を選んでしまった。
後悔の念が襲う。
もしあの時、あのままこの地に留まっていたら今とは違う人生を送っていたのかもしれない。
会いたい。
けれど私にその資格は持ち合わせていなかった。
「原田さん、千葉さん、おはようございまぁす」
『おはようございます』
「おはよう」
就業時間開始数分前。
機嫌良さそうに挨拶してくる相澤さん。
彼女は私達の横を通り過ぎ、私のデスクの隣に腰掛ける。
それに続いて私も千葉さんも自分のデスクに腰掛け、スケジュール確認をした。
『今日も絶好調ですね、相澤さん』
「えへへ、羨ましい?」
『いえ、全く。
元気だなぁーと思って』
「あはは!
原田さん朝、いつも眠そうだもんね」
『え、そうですか?』
「うん。いつもコーヒー握りしめてぼんやりした顔してる」
『あはは…
通勤ラッシュにまだ慣れてなくて』
「あー…辛いよね。
私も毎日戦ってる」
『それでその元気凄いですよ…』
雑談を交わしながらもパソコンを動かす手はお互い止まらない。
もう就業時間は始まっていて、キーボードを叩く音や電話のコール音、いつもの忙しない光景が広がっている。
「こら」
相澤さんと話しているとポカッと頭を軽くファイルのようなもので叩かれた感触があった。
見上げると上司の如月 彰さんが私を見下ろしている。
長身の彼は黒のジャケットを身に纏い、センターパートに綺麗にセットした髪型は今風で清潔感のある装いをしていた。
推定年齢は三十代前半だが、外見はまだ若々しい。
その綺麗な目鼻立ちのせいだろう。
女性社員の憧れの眼差しがいつも注がれている。
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