Project Zero:レジ前で静かに働きたいだけなのに

@emmadzn

プロローグ - ヴェルトラ

バンドン、2043年4月8日


この世界は、最初はごく普通に見えた。


青い空。肥沃な大地。日々の暮らしはいつも通りで、人間は時間と交差しながら生き、獣たちは森の影に震え、植物は行く先も知らずに伸びていく。

そして空は……すべてを見守るかのように、変わらぬ姿で広がっていた。


だが、その裏には誰も知らないもう一つの「世界」が存在していた。


目には見えない現実。

並行に存在しながらも、決して交わることのない次元。

触れてはならぬ、もう一つの世界。

その住人たちは、もはや「人間」とは呼べない存在だった。


時折、ふたつの世界の狭間に隙間ができ、一瞬だけ口を開く。

それを感知できる者だけが、こうした光景を目にすることがあった。


夜空を横切る巨大な翼の影。

地上のものではない唸り声。

視界の端にじっと立つ、異質な影。


近くにあるのに、決してはっきりとは見えない。


それらはやがて物語となり、神話となり、伝説となり、

そしてついには、データと電波を信じる現代人の笑い話にされた。


だが……彼らは実在する。

そしてずっと前から、私たちを見ていた。


すべては、あるひとつの名が歴史の影から現れたことから始まった。


――ゼロ・オーダー。


出自不明の闇の組織。

彼らは権力も、救いも求めていない。

ただひとつ、終焉を望んでいる。


古文書と血から生まれた禁断の魔法で、彼らは次元の狭間をこじ開けた。

本来交わることのなかった二つの世界を、無理やり繋げたのだ。

その瞬間、現実は崩壊を始めた。


彼らはそれを「ゼロ計画」と呼んだ。


そして2043年4月8日、その計画は成功した。


穏やかで笑顔の絶えなかったバンドンは、一瞬にして地獄と化した。


空はひび割れたガラスのように砕け、地面は裂けて道もビルも人も呑み込んでいく。

開かれた次元の裂け目から現れたのは――異界の怪物たち。


塔ほどの巨人。

骨の翼を持つ悪魔。

声もなく命を喰らう、形なき影。


子供の泣き声は、崩壊する世界の咆哮にかき消された。


血は歩道に溢れ、

遺体は街の隅々に転がり、

世界はただ――その止められぬ崩壊を見つめるしかなかった。


だが、これは終わりではない。

これは、遥かに大きな何かの「始まり」にすぎない。


終わりなき悪夢。

それこそが……ヴェルトラ。

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