サメざめと泣く人びと

全校生徒の前で朝礼する時間がきた。

 「えーとですなぁ」

 溝呂木みぞろぎはうらめしそうに校長をにらんだ。

 「どうしてこういうときに説明責任がわたしにまわってくるんです」

 「生物だからだよ。きみぃ、もち餅屋もちやということわざをしらんのかね。教師のクセに」

 溝呂木みぞろぎはおそるおそる体育館の舞台の上にあがった。

 目の前には学校の生徒が全員、ひかえている。まるでしばり首にされるために処刑台しょけいだいへあがるようだった。

 「えー、みなさん。たいへん大事なおしらせがあります。プールの中にいたサメのことですが」

 水をうったように生徒たちが静かになる。次の瞬間しゅんかんさわぎ声は前より大きくなった。

 「えー、みなさん。サメはプールの中で産卵さんらんしていました」

 生徒たちの声はもはや収集しゅうしゅうがつかないレベルになった。

 なかにはおたけびをあげたり、なぜか笑いだす生徒もいた。

 「それでですねぇ。プールの水をぬいたとき、卵もいっしょに流出りゅうしゅつしてしまいまして」

 溝呂木みぞろぎはやけになってマイクを無視してさけんだ。

 「もはや、ろしてもとりのぞけないレベルで小さいのです!おびただしい数の卵がそのときプールの水のなかにざっていたのです!もはや数えきれないほどです!どうしてもわれわれが日常使っている水にちょっとずつその卵がはいってしまいます!例のいまいましいサメのたまご・・・」

 溝呂木みぞろぎは突然みぞおちに手をあてた。そのまま前かがみになり全身をふるわせる。

 「こら、真面目にやりたまえ!わらっている場合じゃないぞ」

 校長がどなった。それを合図にしたように溝呂木は二つ折りにする勢いで体をのけぞらせた。一気に花火のように真っ赤な血を噴出ふんしゅつする。

 そのまま倒れて動かなくなった。

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