五十嵐くんには秘密があるらしい。

星名柚花

01:いつものこと

「あっ。春川はるかわさん!」


 4月の半ば。

 一時間目と二時間目の間の短い休憩時間中。


 友達の菜々ちゃんたちと一緒に教室棟の廊下を歩いていると、1年3組の前で呼び止められた。


 賑やかな生徒たちの声を聞きながら、肩まで届く髪を揺らして私は振り返る。

 緊張したような顔で廊下に立っていたのは『3組で一番格好良い』と言われている吉田くん。


 何を勘違いしたのか、菜々ちゃんたちは顔を見合わせて「行ってらっしゃい!」

「グッドラック!」と私の肩を叩き、「あれってそういうことだよね?」ときゃあきゃあはしゃぎながら1組の教室へと戻っていった。


 いや、絶対菜々ちゃんたちが期待するような展開にはならないと思うんだけどな……。


 困惑していると、吉田くんは「ちょっと来て」と、私を廊下の端っこまで連れて行った。


「あのさ。悪いんだけど、放課後、ちょっと付き合ってもらえないかな。旧部活棟の裏手の林に来て欲しい」


 吉田くんは照れくさそうに顔を赤らめ、長いまつ毛を伏せて首を掻きながらそう言った。


 もしかして告白されるのかな……!?


 ――なんて。

 普通の女子ならドキドキして、放課後までソワソワしちゃうと思う。


 でも、私は知ってる。

 小学生のときから、いっつもおんなじパターンだから、もう慣れたよ。


「うん、わかった」

 私が頷くと、吉田くんは「ありがとう」と嬉しそうに笑った。


 そして、授業が終わった放課後。


「この手紙、君のお姉さんに渡してもらえないかな!?」

 春の風が吹く、私たち以外に誰もいない、老朽化した旧部活棟の前で、吉田くんは顔を真っ赤にしながら白い封筒を私に差し出した。


「うん、わかった」


 やっぱりね。

 こうなることはわかっていたので、私は何の感情もなく頷いて吉田くんのラブレターを預かった。

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