第56話:虹を宿した魂と、世界を包む進化
闇のドラゴンの咆哮が、塔全体を震わせた。
黒い翼が広がるたび、冷気が骨の髄まで突き刺さる。
「っ……寒い……。」
ディルが膝をつき、剣を杖のように支えた。
「……だめだ、指が……。」
ニールが震え、詠唱が途切れる。
ヴァルも、フェリアも、リューネリアも、そして詩人も。
一人、また一人と、その場に崩れ落ちていく。
寒さと、孤独と、押し寄せる絶望に、意識を奪われていった。
「……やはり、これはまだ早かったか……。」
黒いスーツの男――主神が、顎に手を当てて静かに考え込む。
「人はまだ、この闇に打ち勝つ準備ができていない……?」
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しかし――その中で、俺はまだ立っていた。
翼を小さく震わせながらも、アルネアが俺の足元で必死に立ち上がろうとする。
「キュー……(カノン……まだ……終わってない……)」
「……ああ……俺たちなら……!」
ポケットの中で、かすかに冷たい感触。
俺は震える手でそれを取り出した。
――虹色の星片。
「……これを……使えば……。」
頭をよぎるのは、魂が壊れてしまうかもしれないという恐怖。
だが、それでも――
「やるしかない……行くぞ、アルネア!」
「キューッ!(うん……カノンと一緒なら……!)」
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虹の星片が光を放つ。
冷たい空気を切り裂くように、温かな輝きが俺とアルネアを包んだ。
「……!?アルネア……!」
光の中で、アルネアの身体が変わっていく。
羽耳は長い髪へと変わり、小さな体は少女の姿へと成長し、瞳は星のように輝いた。
「カノン……!」
彼女の声は澄んだ少女のものだった。
笑顔が凛としていて、涙がこぼれそうなほど美しかった。
「行こう……私たちならできる……!」
「……ああ!」
俺は剣を握り、アルネア――いや、今の彼女と背を合わせた。
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闇のドラゴンが再び咆哮を上げる。
その翼が振るわれ、闇が奔流のように押し寄せる。
「……負けない……!」
俺は前へ、アルネアは横へ――二人は光の軌跡を描きながら駆けた。
「キィィィィィィィィィィィ!!!」
闇と光がぶつかり、塔の上空が虹色に瞬く。
最後の一撃――俺とアルネアの力を合わせた光が、闇のドラゴンを貫いた。
黒い巨体が咆哮を上げ、闇が霧のように散っていく。
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「……終わった……?」
俺は剣を下ろし、膝をつく。
「……カノン……。」
隣を見れば、そこにはまた――小さなラビッチュの姿に戻ったアルネアがいた。
「キュー……(また……戻っちゃった……)」
「……ありがとう、アルネア。君がいてくれたから……。」
俺はそっと彼女を抱きしめた。
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「コングラチュレーション!」
拍手をするように主神が声を上げる。
「君たちは神の試練を乗り越えた。そのごほうびをあげよう。」
主神が星晶に手を触れた瞬間――
虹色の光が、世界を包む。
空から降り注ぐその光は、町へ、森へ、海へ、あらゆる場所へ広がっていく。
光を浴びたモンスターたちが、その姿を変えていった。
「……これ……魔人に……?」
サリウスが驚愕の声を漏らす。
翼を持つ者、角を持つ者、身体に紋章を宿す者。
モンスターたちは人の形を取りながらも、モンスターとしての力をその身に宿す新たな存在へと進化していった。
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「……なかなか面白い進化をしてくれた。」
主神は満足げに笑みを浮かべる。
「やはり……人間は愛すべき存在だね。」
そう言い残し、黒いスーツの男はふっと霞のように姿を消した。
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光が降り注ぐ大地で、俺は小さなアルネアを胸に抱きしめ、仲間たちと顔を見合わせた。
「……俺たち……やったんだな……。」
「キュー……(うん……一緒に……)」
アルネアが羽耳を揺らし、そっと俺の頬に顔を寄せた。
虹色の光が遠くの空へと消えていく。
――神の試練は終わり、世界は新たな進化を迎えた。
そして俺たちの物語も、ここからまた始まるのだ。
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