第48話:翼の誓いと、詩人の新たな相棒

遺跡を後にした夜、焚き火の明かりの下でワンダはしっぽを揺らしながら俺の膝に顔を埋めていた。

羽が小さく揺れ、身体がほんのり光に包まれる。


「……あれ……?」

ディルが目をこすった。


「……進化してる……?」

ニールが息をのむ。


光が消えたあと、そこに立っていたのは――

小さな体に大きな翼を広げ、毛並みは以前よりも柔らかく輝くモンスター。

瞳が俺を見上げ、はっきりとした声が響いた。


《アリア》


「……アリア……? それが、君の真名……?」

俺は息をのんだ。


「そうよ、カノン。」

アリアは羽を広げて見せる。


「やっと、ちゃんと呼んでもらえた……ずっと待ってたんだから。」


「キュー!(やっぱり……!)」

アルネアがぱちぱちと羽耳を揺らす。


アリアは俺の胸元に頭を擦りつけ、ふわりとしっぽを巻いた。


「……でも、覚えておいてね。ラビッチュ、あなたもいるんだろうけど――」

小さな瞳がアルネアを見やる。


「カノンと一番にいるのは、私だからね!」


「キューッ!?(な、なにそれっ!?)」

アルネアが耳をぴんと立て、対抗心を燃やす。


「きゅるっ!(だって、あたしはカノンの特別だから!人になんてならないけど、このままでも……カノンはあたしを選ぶでしょ?)」


「えぇっ……!?今その話する!?!?」

俺は頭を抱えたが、ふたりは(いや、二匹は)尻尾と羽耳を揺らし、火花を散らすように見つめ合った。


ヴァルが低くうなり、フェリアが笑いをこらえて翼を震わせる。



---


翌日、街道沿いの小さな町で俺たちはひとりの吟遊詩人に出会った。

彼はモンスターを遠ざけるようにして、静かに歌を紡いでいた。


「……モンスターなんて、大嫌いだ。」

杯を置いた彼は、過去を語る。


「昔、旅の途中で襲われて家族を失った。それからだ……あいつらの顔も見たくない。」


その言葉に、俺たちはしばし黙り込んだ。


「……でも、モンスターもみんながそうじゃない。」

俺はゆっくりと言った。


「ほら、見て。」

アリアが翼を広げて一歩前へ出る。


「きゅるっ♪(私も、カノンと一緒に旅をしてるの。あたしは人を守るよ。)」


詩人は目を見開き、思わず後ずさった。

けれど、アルネアがそっとそばに寄ってきて、鼻先で彼の指先をちょんとつつく。


「キュー。(モンスターだって、友達になれる。)」


詩人は震える手でリュートを握りしめ、ぽつりと言った。


「……こんなふうに……心を通わせることができるなら……。」


アリアがしっぽを振り、彼の足元に体を寄せた。


「きゅるっ!(あなたも、仲間になればいいじゃない!)」


詩人はしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。


「……そうだな……俺も、もう一度信じてみたい。」



---


その夜、詩人は焚き火の前で俺たちと肩を並べて歌った。

アリアはしっぽを振りながらリズムを取り、アルネアは耳をぴくぴくさせて聞き入る。


「……また新しい仲間が増えたな。」

ディルが微笑む。


「キューッ!(にぎやかになってきたね!)」


「きゅるっ!(でもカノンは、あたしが一番よ!)」

「キューーッ!?(負けないもんっ!)」


俺は頭を抱えつつも、心の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


その時――


ポケットの中の虹の星片が、かすかに光を放った。


「……虹が……」

ニールが目を見開く。


サリウスが静かに頷いた。

「また一つ、世界が変わった証でしょう。」


俺は空を見上げ、深く息を吸い込んだ。


「……よし。次はどこへ行こうか。」


「きゅるっ!(あたしと一緒に!)」

「キューッ!(あたしだよっ!)」


仲良く(?)言い争うふたりを横目に、俺たちは再び歩き出した。


――神が望む進化を胸に、虹の光と共に、新たな旅へ。

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