第39話:波の神を越えて、もう一度

港町の通り。

歓喜の余韻の中に、突如現れた混乱の影。

進化したはずのモンスターたちの一部が、理性を失い暴れだしたのだ。


「くそっ、こっち来るぞ!」

ディルが叫び、リューネリアが咆哮する。


「ヴォォォッ!」

ヴァルの翼が風を巻き起こし、暴れるトカゲ型モンスターを押し戻す。


「ピィィ!(眠れ……!)」

フェリアの花粉が光を放ち、狂乱した鳥型モンスターを鎮めていく。


「キューッ!(カノン、あそこ!)」

アルネアが指差す先、漁師たちが逃げ遅れ、海竜型モンスターに狙われていた。


「させるかっ!」

俺は走り、ヴァルの背に飛び乗ると、アルネアを前に抱えて一気に海竜の頭上へ。


「アルネア、いけるか!?」


「キューッ!(いける!)」


光の矢が羽耳から迸り、海竜の目の前で炸裂する。

その瞬間、ヴァルの咆哮が響き渡り、モンスターはその場で崩れ落ちた。


「……ふぅ……やったな。」


「……でも……。」

少女が泣きそうな顔でこちらを見つめた。


「……砂になったあの子は……?」


俺は拳を握りしめた。


「……必ず戻す。絶対に。」



---


調査を進める中で、俺たちは祠の跡地で見つけた。

淡く光る、きらきらした小さな粒。


「……これ、魂の欠片……?」

サリウスが慎重に拾い上げる。


「いや……違う……星片だ。」

俺はその光に手をかざした。


「キュー……(あの子の……?)」

アルネアがそっとささやく。


「……波の神様を……探そう。」



---


夜の海に、星片の光を頼りに船を出す。

荒れ狂う波の先、蒼い光が渦を巻き――そこにいた。


「……また来たのか。」


波の神様が現れ、その瞳が静かに俺たちを見下ろした。


「返して……あの子を……!」

少女が叫ぶ。


「……それは私の力の及ぶところではない。」


「なら、力ずくで取り戻す!」

俺が剣を構えた。


「キューッ!(一緒に戦う!)」

アルネアの瞳が燃える。


「ヴォォォォッ!!」

ヴァルの翼が夜空を裂き、フェリアとリューネリアも身構えた。


「神と戦うか……ならば見せてみろ。」



---


海が裂け、津波のような水の壁が襲いかかる。

俺たちは走り、飛び、打ち払い、星片を光らせながら神の力に挑んだ。


アルネアの光矢とヴァルの炎が交差し、フェリアの風が軌道を変え、リューネリアが防壁を張る。


「カノン、あと少し!」

ディルの声が響く。


「ピィィィ!(今だ!)」


最後の一撃を込め、俺はアルネアと心を重ねた。


「行けぇぇぇぇぇ!!」


「キュウウウウウッ!!!」


光が海を貫き、神の波を切り裂いた。



---


嵐が静まり、波の神様が膝をつく。


「……私を、越えたか……。」


海が穏やかに戻り、波の神は目を閉じて微笑む。


「ならば……希望を授けよう。」


星片が少女の手元でふわりと輝き、形を変える。

やがてそこに、小さな新たな命が生まれた。


「……!?」


珊瑚のようだったそのモンスターは、前よりもしっかりとした枝を揺らし、目を開いた。


「また……あなたと……」


柔らかい声が、少女の耳に届いた。


《ルミエール》




「……ルミエール……!」

少女はその小さな身体を抱きしめ、涙を流す。


「また……一緒に……!」



---


俺は空を見上げた。

神を越えた先に、確かに希望はあった。


「……行こう、アルネア。」


「キューッ!(うん、もっと先へ!)」


「ヴォォ!」

「ピィィ!」

「グゥゥ!」


波が静かにきらめき、夜空の星々が道を照らした。


――主神を探す旅は、まだまだ続いていく。

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